今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 九回目 三周目 六

視線を左手の手首に向ける。少しずつ馴染んできたメタルバンドの腕時計は、試験終了まであと数分であることを示している。

 

外はもう暗くなっている。今日は一日真山くんから前の周とさらにその前の周で私がやったミスとか弱かったところとかの解説をしてもらっていた。

 

まあこれ以上やっても凡ミスが見つかるぐらいだろうからな。このぐらいで切り上げて採点に移ろう。

 

「……あ、言い忘れていたけどコード伝えてくれてありがとうね、変化はなかったよ」

 

昨日の私たちの動きが多少人の流れを変えても、競馬場までは影響しなかったようだ。これで今後の資金確保は問題ないだろう。もちろん税金がかからない程度にしておく必要があるが。

 

「ないんだ」

 

「私たちが多少ループしようが、誰かが影響を受けることはあまりないって考えていいと思う」

 

もちろん微妙な変化は生まれるかもしれない。でも、それが回り回って私たちにやってくる頃にはループは終わってしまっている。

 

逆に言えば、真山くんが変えられるのは手の届く範囲のことだけということだ。なお私は変わるとかではなく頼まれたら文字通りに何でも手を貸すぐらいのつもりではある。

 

「終わりまであと、どれぐらいだっけ」

 

「えっと、二分」

 

「さてさて、どうなるかな……」

 

左目の視界の左端ギリギリに文字盤が来るようにして、秒針の音を聞く。緊張はする。

 

もしこれで終わらなかったら、真山くんがかなりかわいそうだよな。頑張ってやった告白が無駄になるのだから。まあそうならないとは思うけど。

 

[三周目終了]

 

予想していた点を秒針が超える。深く息を吐いて、天井を見上げる。

 

「お疲れ様」

 

「……あの、お願いがあって」

 

「何?」

 

「……ぎゅって、抱きしめていい?」

 

「今更遠慮しなくて……いや、今のままでもいいよ」

 

恥ずかしがるというか、どこか後ろめたい気持ちがあるかのように私に頼む真山くんは実にかわいいものだ。まあたぶん真山くんが割り切ってしまった場合には私がかわいい目に遭うのだけれども。

 

ちょっと床を蹴って椅子にかける体重を減らして、身体を机から離す。間に真山くんが入るぐらいのスペースは空けた。

 

一応廊下から見える場所ではあるが、こんな時間にこの廊下を通る人はいない。まずそもそもがここの廊下は行き止まり方向にあるし、冬休みにこの近くで開いている教室はない。

 

まあ、文化部の練習とかの音は聞こえるけどね。っと、そんな事を考えているとゆっくりと真山くんが手を伸ばしてくる。

 

「もっと勢いよくしていいよ」

 

私は腕を伸ばして、真山くんの腋の下に手を回す。こうやってされるとかなり体格差を感じるな。まあ運動かなりできる方だし、身体に筋肉を感じるのも当然か。

 

「……ところでさ、私って抱いて楽しいの?」

 

「楽しいっていうか……落ち着く、ともちょっと違うけど」

 

「まあそういうふうなのが好きっていうならいいんだけれどもね」

 

もう少し思春期らしい欲求を相手にぶつけることを考えてくれてもいいのにな、とは思うが準備とか面倒なのでループ中にして欲しいと考えている自分がいる。でもそういう事したら後の私が嫉妬しまくるだろうな。

 

「……あのさ」

 

「どうしたの?」

 

「……和乃さんが、今は僕の恋人なんだなって」

 

「そうだよ、嬉しい?」

 

「頼りになるなっていうのはあるけど……やっぱり、嬉しい」

 

「別に恋人じゃなくたって頼っていいよ」

 

頼られすぎたら壊れるかもしれないがそれは誰だって同じだしね。それにもしそういう時になったら私は私で今なら助けを求められる友人というのができているし。

 

「……そういう言い方をされると、ちょっと怖くなる」

 

「……わかるけどさ、むしろ私はこういう言い方をしないと怖くて」

 

「そうなの?」

 

「……変わらない関係とか、長く続く間柄とか、そういうのって難しいから」

 

「……そう、だよね」

 

「なので嫌になったら距離取ってもいいよ、私が迫りすぎるようだったらそれも言って」

 

「……うん」

 

たぶん私は自覚していないだけで相当真山くんのことが好きだし、真山くんは自覚した上で私と同じぐらい好きなんだろう。表にあまり出ないってだけで。いや互いに結構出ているかもな。

 

「ところで、どうして告白しようとしたの?」

 

聞けていなかったことだ。別に理由が必要なわけではないが、そういうことをされる想定はしていても可能性は低いと考えていたのだ。もし何か考え方に齟齬があると今後困ることになる。

 

「……一つは、和乃さんが告白してほしいって言ったから」

 

「私がそんな事、言うんだね……」

 

真山くんに何かを頼れるようになったということか、あるいはそこらへんにあまり気を配ることなく結果として押し付ける形になってしまったか。

 

「……デートに誘いたいって言ったら、その時に告白したほうがいいよ、って言われて」

 

「ああ、それは間違いなく言ってほしかったんだね」

 

まったく、私はどれだけ真山くんに借りを作ればいいんだ。これを返済するだけで、純粋に取引的に考えてもそれなりの期間は恋人でいないといけないんだろうか。まあ、そういうのがなくても付き合いはするけど。

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