今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第十幕間 二

さて、今の状況を整理しよう。

 

明日から高校が年末休暇に入るので多分最後の自習室通いをして帰ったら、母から真山くんが近くにいるなら呼んでくるように言われた。

 

なにかあるのかなと思ってちょっと引き返して声をかけて、二人で不思議そうな顔をしながら入ると母が紙袋を真山くんに渡してきた、というのが今の状態。

 

「いつも娘がお世話になっております。結衣の母です」

 

そう言ってよそ行きの笑顔を母は浮かべる。うーん綺麗な人なんだよな。説得力がある丁寧な話し方をするのだが、このテクニックを私に教えようとしてくるのでちょっと嫌い。

 

「ありがとうございます」

 

ちょっと緊張を出しながらも、真山くんはきちんと受け取る。

 

「中身は?」

 

ちょっと空気が重めなのと気になったので声をかけた。

 

「お歳暮とかでいっぱい届いたから、おすそ分けしようと思って。あと焼き豚がとても上手くできたのでもしよければぜひ」

 

ちょっと紙袋を覗き込むと確かにプラ容器に入った肉があった。

 

「ありがとうございます、ええと入れ物を返すのは明日でも構わないでしょうか」

 

「来年でもいいし、結衣に渡してくれれば大丈夫」

 

「では、そうさせていただきます」

 

「それじゃあ、寒いから気をつけてね。良いお年を」

 

「はい、それでは」

 

ちょっと飲まれてしまったような真山くんを見送って、私は深くため息を吐く。

 

「……なにあれ」

 

「あのね、毎年色々送られてくるけど父さんはこの時期は引きこもるし、私も家から出たくないし、結衣も今までは友達とか呼ばなかったし」

 

「だからといって渡してよかったの?」

 

母は毎年よくわからないところから色々貰ってくるので、毎回伝票をきちんとまとめておく必要がある。いやそれはいいんだ。

 

どうしても果物とかが届くと食べないといけないが、父はちょっと好き嫌いみたいなものがあるし私だってそこまで好きかと言われると微妙なところだ。母はバクバク食べる。

 

なので別に分けてもいいどころか押し付けても悪くないのだが、ただそれはそれとして、だ。

 

「いい人なのは見ればわかるわよ」

 

「どこらへんが?」

 

「視線がしっかりしている。体幹と歩きかたからして武道とかはやってないけど運動はしっかりできるはず。腕時計や鞄の傷からしてしっかりとものを大切にする人だし」

 

「……種明かしありがとう」

 

「もちろん娘が誰と付き合うかとかにあまり口は出したくないけど、ちょっとぐらいは許してくれない?」

 

「……付き合ってるって言ったっけ」

 

「彼はそれなりの額の時計を何の脈絡もなくプレゼントするような人ではないと思うけど」

 

「はいはい」

 

なんていうか、色々と見抜くというか隠していたことを暴いてしまうような人だ。父みたいに山程知識があればそれを正面から受け止められるけれども、私には無理。

 

まあともかく部屋に戻ろう。スマホを開いてメッセージアプリを開く。

 

『母が色々とごめんね』

 

返信が来るまでは時間がかかるだろうから着替えておく。冬は汗をかかないので寝巻きを使いまわしがちなのだが大丈夫かな、匂いとかしないかな。

 

真山くんはそういう匂いでスイッチ入るほど経験とかないだろうのでまあいいや、ちゃんと身体を洗っておこう。

 

『こんなに貰ってよかったの?』

 

気がつくといつの間にか返信が来ていた。急いで返さなければ。いや別に急ぐ必要はないんだけれども。

 

『大丈夫。むしろ食べきれないぐらいだから』

 

『今度僕の方もなにか持っていった方がいいかな』

 

『腕時計で十分だと思うけど』

 

『それは和乃さんのためのものだし』

 

『今から私の家族の懐柔を始めるつもり?』

 

これを送ったらしばらく返答がなかった。どうしたのかな。ちょっとそういう事を想像しちゃったりしたのかな。かわいいやつめ。

 

『電話していい?』

 

『いいよ』

 

私はベッドに座って通話を待つ。数秒で着信音がした。

 

「なに?」

 

「……和乃さんのお母さんって、どういう人なの?」

 

「……私も具体的には知らないんだよね」

 

あっちこっちを回って講演会とかをしている。社会運動家とかに近いのかもしれないけど、こういう言い方をしているとなんか良くない人のような気もするが実際そうかもしれない。

 

いや別に問題を抱えている人とその問題を解決できる力がある人の間を取り持って、そこから謝礼をもらうこと自体は別にいいと思うのですよ。

 

「すごい人なんじゃないの?」

 

「まあそうだよ、さっき真山くんを見ただけでものを大切にする人だって言ってたし」

 

「……どこで?」

 

「鞄と腕時計だって」

 

普通はそもそも意識に入れないよなそういうの。だから怖いし、私の知り合いとできるだけ会わせたくないのだ。

 

「やっぱり、和乃さんが色々見抜けるのってそういうところから学んだの?」

 

「……真山くんがわかりやすいだけでは?」

 

「そんなに?」

 

意外そうな真山くんの声がするが、実際のところ照れたり恥ずかしがったりする顔はちゃんとわかるのでこっちのほうが目をそらしてしまうぐらいなんですよ。まあ直接そのことについて言うのは口が重くなるけど。

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