今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

170 / 200
高校一年生 第十幕間 三

録画されていたSFドラマを見て、寝て、それなりに高くなっていた初日を見て、信心深いわけでもないので寒い外には出ず、また録画を見て、母の作った冷蔵庫の保存食をレンジで温めて食べて、という日々。

 

我が家はそういう感じで毎年年末年始が進んでいく。家に他の人がいたところで、あまり干渉はない。それぞれのテリトリーに踏み込まないようになっている。

 

「……暇になっちゃったな」

 

三ヶ日の最終日。もう冬休みに飽きてきた。

 

いや別に、真山くんが恋しいとかそこまでじゃないです。ただあのぼんやりとしてはいるけど居心地のいい空間というものは一度知ってしまうとなかなか手放したくないもので。

 

ベッドに倒れ込んで、天井を見て、なんとなく宙を掴むように伸ばした左手を動かす。指の間を空気がすり抜けて、結局手の中には何も残らないが。

 

「……腕時計、つけてみるか」

 

理由は特にない。いや不思議だな。ぴったりなサイズのメタルバンドを閉じて、またベッドに横になる。

 

なんで私はこういう事をしたのだろう。真山くんがいなくて寂しく思ってその無意識の代替、とかかな。だとしたら私もなんとも感傷的になったものだ。

 

真山くんに会う前の私であれば、危機感とか警戒心とか覚悟とかが足りないって怒ったかもしれない。タイムリープという異常に対処するなら、それなりの準備を日頃からしておく必要があるはずなのに、とか。

 

でも、別にその間に何かができるわけではないってことがわかってしまった。もちろん色々することはできるけど、それは別にタイムリープがなくたっていい。

 

ちょっとしたサプライズであるとか、あるいは勇気が出なくてできなかった事をやってみるとか、そういうのには使える。でも、それはせいぜい誰かにぴったりなサイズの腕時計を贈るぐらいにしか使えない。

 

「……もっと、何かできないのかな」

 

ただ、その事実はもう関係がゴールに着いてしまったことを示しているようで嫌だ。別に恋人になったからといって、これ以上関係が進展しないっていうのはラブコメぐらいのものだ。

 

実際には関係を続けるためには互いにある程度の配慮とか努力が必要だし、それでも上手く行かないことはあるし、まだ残っているステップがあることも知ってはいる。

 

いや、それをステップって言っていいのかな。別に順番にやる必要もない。そういう規範みたいなものは、正直言って嫌いだ。

 

私が誰かを好きになったとしたら、それは世間とかがそういう相手がいいって言っているからじゃなくて、私がいいって思ったからであってほしい。

 

性別とか、性格とか、趣味とか、そういうものの中で、世間一般で言う私にお似合いな要素を真山くんは多く持っている。でも、私はそれから独立していたい。それが難しいのはなんとなくわかっているけど。

 

世界は私と真山くんだけではない。私の周りでも両親と級友がいる。真山くんには、たぶん私よりも多くの知り合いが学校にいるだろう。

 

たぶん私も真山くんも大学に行く。同じところに行くかどうかはわからない。その後社会で働くにしても、共有できる時間は限られていくだろう。

 

手首をひねる。文字盤のガラスが天井の光を反射する。

 

だから今のうちに電話してしまえよ。寂しくなったって言えば真山くんは親身になってくれるって。それがわかっているからスマホに手が伸びないんだよ。

 

右手を腕時計のバンドに添える。少しだけ私の熱を吸っていたが、まだ室温の冷たさは残っている。

 

やりたいことは、ないわけじゃない。でもそれに伴う準備と、私と真山くんに残るであろう傷みたいなものを考えると考えが止まってしまう。

 

同意を取ればいいとはいえ、真山くんは私の誘いをたぶん断らない。何をされても、それを受け入れてしまいそうな感じがある。

 

だから好きにしてしまえばいいじゃないか、という声は自分の経験が否定してくる。その時は良くても後から悪い思い出になることなんてよくあることだ。

 

私はそういう行為が、嫌いじゃない。でも真山くんはそれについて具体的なイメージを掴めていないらしい。そういう話は直接するのははばかられるし、メッセージとして残したくもないし、誰かに聞かれるのも嫌なので、大抵は深夜の通話とかになる。

 

小さな声で、互いの親に聞かれないように、具体的に何とは言わないで、話をする。

 

結果として、純粋に知っていることの差が如実に出てくることになる。私は小学生の頃からネットで嘘をついてきた人間だ。年齢を問われる質問にははいと迷わず答える。真山くんは、そもそもそういうサイトには近づいていない。正しいことだ。

 

そんな私だって教えられるほど知識があるかと言えば怪しいし、経験についても、まあ同様。変な嫌悪感が背中をぞわりと走るので別のことを考えないと。

 

スマホを手に取る。こういう時に真山くんは便利というか、私の考えを切り替えるために適切というか、まあいい相手だ。自己中心的な考えで真山くんのことを思っていない発言だと言えばそうなんだけれどもね。

 

年が変わった時に真山くんから送られたメッセージと、それに対する私の返信。その下の入力欄をタップして、私は通話ができないか誘う文章を打ち込んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。