今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 十回目 二十七周目

昼休みの後というのは眠くなる。とくに席替えで窓際の冬日が差す場所になったりしたらまあ、睡魔というのは否応なく襲ってくるのだ。

 

 

ぽかぽかとまでは言わないけれども、締め切った部屋の暖房とこもった空気にあくびを一つ。

 

「和乃さん、ちょっといい?」

 

「ん?」

 

真山くんの声で起きると時間が過ぎていた。ええと、時間はどうだ、と時計を見る。さっき見たときから二十分ぐらい経っていて、ブレザーの口に当たっていた場所に染み。ああ大丈夫かなこれ。

 

「……その、廊下来てもらえる?」

 

「わかった」

 

脳をちょっと切り替える。ループの可能性が真っ先に出てくるあたり、慣れてきたのかな。共有しなくちゃいけないことがあるのか?

 

「……で、どこまで行くのさ」

 

廊下を進む真山くんの後ろをついていきながら、警戒を強めていく。人気がない方がいい、ということ。ループの終わり際か?

 

「ここ、で大丈夫」

 

「確認済み?」

 

私の言葉に真山くんは小さく頷いた。ならいいだろう。いやでもこう私が張り詰めていたような顔をしていたらちょっと話しかけにくいか。肩を持ち上げて落とし、全身の緊張をほぐす。

 

「……その、以前の周の和乃さんに言われて」

 

そう言って、真山くんは私の肩の上に腕を回すようにして、抱きしめてきた。純粋に油断していた私は、頭が混乱して現状を飲み込めずにいる。

 

何枚かの布越しに胸に当たる熱。身長差があるとはいえ、ちょっと背伸びして体重をかけないようにしてくれている配慮には気がつけた。

 

「……そっか」

 

私も真山くんの胴に手を回す。うん、いつ抱きしめても結構しっかりした身体をしているんだよな。布越しだとどのくらい筋肉があるかはちゃんとはわからないけど。

 

「……和乃さんって、こういうのは嫌じゃない?」

 

「好きだよ」

 

真山くんは緊張していた。それなりに勇気を出したのだろう。ループ中とはいえ、そういう行為をするのが真山くんにとってかなり踏み出したことだってことは察しが付く。

 

だからさ、その分こっちも言葉を濁したり逃げたりするわけにはいかないのよ。正面から、恥ずかしくとも言う必要がある。まあ心が浮かれていたせいでそんな理屈を考えたのは口を閉じた後だったのだけれども。

 

「……よかった」

 

そう呟くように言う真山くんからかかる体重が少し増える。まったく、私だって耐荷重には限度があるのですよ。本当は横になると身体にかかる重力を分散させられるのだが生憎二人で寝ることができるような場所はあまりない。

 

よく考えると、これってかなり特殊な状況だよな。今って何時だっけ。授業が始まるまであまり時間もなさそうだが。

 

「そろそろ、満足した?」

 

「……うん」

 

「戻る?」

 

「……そうだね」

 

少し寂しそうな真山くん。離れても、まだ私の周りに熱が残っているような気がする。たぶん気のせいだけどさ。

 

「そういえば、本は読んだ?」

 

「二冊とも」

 

「この会話は?」

 

「初めてだよ。……あまり気にしないでいいから」

 

「ループ中の負荷がかかる側のほうが気にしないべきだよ。いつ終わりそう?」

 

二冊ともそうそう簡単に読める量ではない。かといって、おそらくループ開始してそう時間が経っていない時点で私にハグをしにきたというから一周は数十分か数時間。累計の時間は、そこまででもないはず。

 

「……たぶん、そろそろだと思うけどわからない」

 

「そっか。まあそこまで残りも長くないだろうから気楽にやりな。どうせ次は化学基礎だから点数取っていればあまり文句言われないし」

 

そう言って、私はあくびを一つ。あの暖かさで眠くなってしまったかな。休み時間が終わると思うと一気に眠気が出てくる。

 

教室に入る少し前からチャイムが鳴り始めた。私と真山くんが一緒に出て行って一緒に帰ってきたことに気がつく級友たちはいなさそうである。

 

スクリーンを下ろす先生と、電気を消す前の方の席の人。急いで紙の教科書を広げてタブレット端末を起動する。とはいえ緊張が抜けてあまりやる気がないんだけれどもね。

 

範囲は電池。もし今周が最後でも、一回ぐらいならなんとかなる、はず。予習もちゃんとしているし。こういう時に今までこつこつ勉強してきた貯金を取り崩すべきではなかろうか。

 

机に頬杖をついて、軽く目を閉じる。先生の声がゆっくりと薄れていく。

 

思い出すのは真山くんの腕の感覚とか、そういうもの。真山くんの言うことから読み取るに、前の周かそのいくらか前の私がそういうことをするといい、と言ったのだろう。

 

それが真山くんの暇を紛らわせるためか、寂しさを埋めるためか、いずれにせよいいことをしてくれた。

 

それはまあ、たぶん後の周の私からはちょっと恨まれるでしょうよ。でもスキンシップのハードルを下げたってことは悪いことではない。不純な高校生ですからね、色々とやってみたいこともあるのですよ。リスクは承知の上ですが。

 

腕で頭を支えるのが辛くなったので、私は二の腕を枕にするように机に置く。冬の太陽光が私の黒いブレザーを温めていた。

 

[二十七周目終了]

 

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