今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第十一幕間 二

「……なるほど、だいたい理解したよ」

 

私は自分の家の前で足を止める。家に灯りが無いところを見ると、帰ってきていないな。

 

「それじゃあ、また明日」

 

「でももう少し聞きたいこともあるし、時間に余裕があるなら少し続きを聞かせてもらっていい?」

 

まあ断られたら普通に引き下がるけどさ。

 

「……いいの?」

 

「どうせ誰もいないしさ」

 

真山くんが警戒なく入ってくるあたり、私はなんていうか信用されているんだな。その信用をある意味では裏切ることになるかもしれないと考えるけど、それ以上に欲求が私の中にある。

 

「それでは、失礼します……」

 

真山くんには慣れているであろう私の部屋。一方の私は正直そこまで慣れてはいないんですよね。今日呼ぶってわかっていたら少しは片付けしたのだが。

 

「ところでさ、いきなり同級生にハグされるって事は結構びっくりするんだよね」

 

「……ごめん、休み時間が短くて」

 

「怒っているわけじゃないよ、これはただの感想。ただ、やっぱりそういうことをされたら仕返しをしないと私は気が済まなくて」

 

「それって」

 

「変なところぶつけることになったらごめん」

 

私は逆手で真山くんの両手首を掴む。右手に触れるメタルバンドの冷たさ。指がギリギリでくっつかない太さ。やっぱり体格とかは私よりもしっかりしているよな。別に私は細いほうじゃないと思うけど。

 

「……その」

 

「なに?」

 

「……和乃さんなら、いいよ」

 

「何をされるのかもわかっていないくせに」

 

ええ、世間一般的にまずい行為はしませんよ。ハグと同程度に許容されているものですって。いやどうだろ。

 

ちょっと特殊なことではあると思う。でも、そう嫌われることはないだろうね。

 

「……なに、されるの?」

 

怯えが少し。期待はそれよりも多め。

 

「数えられないぐらいに私を抱きしめてきたんでしょう?」

 

言い方がとてもあれだけど、真山くんはちゃんとこれの意味を理解できているのかな。官能小説は全年齢だからちゃんとそういうの読ませた方がいいのかな。

 

「……そう、だね」

 

私は一歩前に出る。真山くんが半歩下がる。もう一歩踏み出す。

 

「……顔、近いよ」

 

ちょっと顔をそらす真山くん。

 

「近づけているんだよ、あとこっち見て」

 

掴んだ手首をゆっくりと、真山くんの顔の高さまで上げていく。抵抗するような感覚はない。

 

「……うん」

 

「抱きしめてって、私に言われたんだよね」

 

「……そう」

 

「ありがとうね、あと後ろにベッドがあるから座るようにできる?」

 

私がそう言うと真山くんは頑張って首をひねりつつ足で探るようにして私のベッドの長辺に相当する場所の中央部分に座る。押し倒したりなんかしたら怪我されるかもしれないじゃないですか。

 

「背中の力抜いて、後ろに倒れるようにして。支えておくから」

 

犬歯で舌を噛んで、痛みで自制心を保つ。息を吐く。

 

たぶんここからでも、真山くんは腕の力で私の上体を押し上げることができる。でも、そうしないって今の状態に私の心臓は高鳴っていく。

 

「ループ中は真山くんのことを優先するよ、でもそうじゃない時は私が主導権を握りたいの。握れるとは限らないっていうのはわかっているけど」

 

小さく頷く真山くん。まだ私の理性はちゃんと残ってくれている。

 

身体を倒す。真山くんと胸が当たる形になる。でもあの休み時間にされたやつとは違って、私の体重の少なくない割合がかなり直接的にかかっている。

 

「……ちょっと、重い」

 

「ごめん、ある程度は我慢して」

 

脚の位置を調整。そこまで辛くはない状態のはずだ。

 

私は顔を真山くんの顔の私から見て左側に近づける。

 

「今回は、お疲れ様」

 

囁くように、できるだけゆっくりと、柔らかく言う。

 

「……うん」

 

私の右耳から、真山くんの声が聞こえる。

 

口を開く。零れそうな唾液を飲み込む。舌を噛み締めていたせいか、ちょっとだけ鉄の味が口の中にある。

 

少しだけ歯を立てて、前歯で真山くんの耳をかじる。

 

「……っ」

 

驚いたような声がする。真山くんの手首を抑えていた私の手をずらして、指を絡めるように握らせる。真山くんも私がしたいことを察してくれたようだ。

 

真山くんの吐く息の音を聞きながら、自分の中にあった嗜虐心みたいなものの一部が少しだけ楽になるかわりに、また別の何が溜まっていくような感覚がある。

 

舌先を触れさせるように、唇で挟むように。特に味がするわけでは無いが、真山くんが握り返してくる指の感覚から悪くないってことぐらいはわかる。

 

触れ合わせている厚めの布越しでも心拍がわかる。とはいえ、そろそろ終わりにしないと。

 

唇を離す。真山くんは指の力入れていたけど身体のほうはかなりだらんとしていた。

 

「安易にハグすると、仕返しでこういう事するからね」

 

私はそう言って、ハンカチをスカートのポケットから取り出す。いやその、唾液つけっぱなしで耳冷えたら嫌じゃないですか。

 

「……今日みたいなのだったら、また抱きしめるけど」

 

「ふーん」

 

案外私にこういう事されても真山くんは元気なようだ。まあ私と同じで主導権を握られっぱなしというのが嫌なのだろうね。

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