「そういえば、昨日は楽しかった?」
放課後の自習室。真山くんの方は昨日は素直に帰ったようだ。不真面目なやつ。まあ私が言えた義理は全くと言っていいほどないけどさ。
「まあ、色々相談したよ」
「あの人と和乃さん、あまり付き合い無い気がしたけど」
「情報なら強いから、そこらへんでちょっとね」
別に後で思い出して結構惚気話みたいなものをしてしまったなと思って後悔してこういう言い方をしているわけではないです。いやもうここまで脳内で考えている時点で言い訳できないな。
「……そう」
「……それでさ、確認しておきたいことがあって」
もう認めてしまったついでだ、聞きたいことを聞いて楽になってしまおう。
「なに?」
「この関係、どこかで終わらせるつもりはあるの?」
「僕の方からは無いけど、和乃さんが、嫌だって言う、なら……」
後半の方になるほど声が小さくなっていく真山くん。
「私もそうだから、まず安心して」
いやね、私だって仮定とはいえそういう事を考えるのは嫌ですよ。胸が痛くなります。それでも、真山くんに比べたら私のほうが別れ話を切り出される可能性が高いんです。主に過ごしている時間という意味で。
だってそうじゃないですか。ループ中に私の主観で私が何かありがちなミスを一つしたら、それは真山くんにとっては下手すれば何十回も同じミスをされるわけで。そしてそのミスの原因がループより先にあったら私が止めるのも難しいし。
「……うん」
「飽きたりとか、他の相手がいいとか、あるいはどうしようもなく嫌いになるとか、そういう事ってあるから、それは前提にしておきたい。もしそうなったら、早めに話してほしい。他の人に相談してもいいけど」
ここらへんのアドバイスはできなくはない。私が中学生の頃にやらなかったことを逆に伝えればいいってほど単純ではないが。
「それって、たぶん難しいよね」
「だから事前に色々考えておいて、そうなった時に考えずに動けるようにしておきたい」
「……わかる、と思う」
「勉強と同じでさ、やってない状態から始めるとかなり時間がかかるから」
真山くんが言うには、私のループ中の行動は毎回別だったりするのに手際が良いらしい。たぶんいつもどうでもいいことを考えているから、行動までのラグが少ないのだと思う。
「……もし、の話だけど」
「うん」
「和乃さんが僕のことを嫌いになったら、どういうふうに動くと思う?」
「理由にもよるかな……ちょっと待って」
そんな事あるわけ無いみたいな事を言ってくる純情な私を蹴り飛ばして、もう少し冷徹で悲観主義な私に切り替える。
「例えばループ中に浮気していた……いやこれぐらいは許容範囲か?」
嫉妬はするけど、真山くんがきちんと隠せば問題ないか?いやでも実際にされたら真山くんに対する許容水準が下がる可能性が高いな。今はそれなりに私に対して真摯なのでいい関係を築けているけどそうでなかった場合はわからない。
「いいの?」
「不特定多数から愛されたいとか、目についたいい人に好意を向けたいとか、そういうのは想像する分には自由だし、社会性が保たれる範囲なら好きにすればいいと思うし……」
「……今のところ、そういうのはあまりないけど」
「……あったとしても私にあまり直接言わないほうがいいと思うよ、微妙な顔してる私を見たいなら別だけど」
黙っていれば気がつかれないことだってある。嘘とまでは言わないけど、隠し通せる自信があるならそうすればいい。たぶん私はかつての失敗を真山くん以外と共有することは当分ないだろうし、親に言うことはもっとないだろう。
「他にさ、どういう事をしたら嫌いになりそう?」
「恋患ってる人にそういう事聞いてもあまり意味のある答えは帰ってこないと思うけど……そうだね」
そう言って私は自分の行動に対してため息を吐く。こういうところで不満とかの感情を軽率に表に出すのは良くないな。説明不足だと不満の方向が真山くん関連だと誤解させかねない。今更弁解しても良くないかもしれないけど。
「放課後に会えなくなったら、少し冷めるかもしれない」
今後、塾に行くこととかもあるだろう。もっと他の同級生とかとの関わりも増えれば、あるいは後輩とかに頼られることがあれば、二人で共有できる時間は減るかもしれない。
それは、今後の生活の変化があってもそうだ。別の場所に住んでいて、別の場所に通って、たまに会うような関係になったら、私が真山くんに向ける感情は当然変化するだろう。
それが焦がれによってもう少し今より重くなるか、あるいは距離を取ったことで多少落ち着くかはともかくとして、だけど。
「……僕は、和乃さんに無理やりされるのは少し嫌かな」
「……ごめん。前の耳噛んだやつ、嫌だった?」
「……悪くは、なかった」
「……そう」
何だよこの空気。まあちゃんとこれから何をするかを共有して、合意を取ればしていいってことだろうけどさ。風情は多少減ってしまうかもしれないけど、一回きりというわけにはいかないから仕方がないのだ。