「ここであってる?」
「たぶん」
休日に二人、普段着でバスを待っている。さて、我々の行先はどこでしょうか。まあバスの行先を見ればわかるんですけどね。
というわけで、今日はオープンキャンパスの見学である。真面目な高校生たるもの、先を常に見据える必要があるのですよ。モチベーションの維持のためとも言う。
ちなみに今日向かう先は偏差値だけで見るなら全く高くないところである。だからといって悪いわけじゃないっていうのは知っていますとも、わざわざ言うほどのものでもないです。
「……大学って、初めて行く」
「私もそうかな」
二人がけの席で真山くんと隣り合って、私はスマホの地図を起動する。目的地までの道のりは歩いて行くにはちょっと辛いぐらい、自転車でもそれなりに時間がかかる程度だ。
「それで、どういう場所だと思う?」
「高校の延長線上なんじゃない?」
一応、私が中学生だった頃にインターネット上でつるんでいた人の中にはそれなりに大学生がいた。まあここらへんの年齢を隠していた人も多かったけど。
その人達の様子を見るに、夏休みや春休みが長く、平日の昼でも安定した時間が取れて、教授に土下座しても単位は出ないため真面目にレポートや課題を出す必要があるらしい。
こう聞くとちょっと面倒な授業と同等なのでは、となるのでたぶん真面目な高校生であれば大学生活はそう難しくはないのだろう。
「むしろ問題は楽な方楽な方に進もうとするといくらでも堕ちれることらしい」
「なんでそんなに詳しいの?」
私の出典が良くわからない話を聞いて、真山くんは怪訝そうな顔をする。
「……そういう話を、昔色々していたから」
大学生のキャラクターを集めた卓とかもあったのですよ。あの時に私大学行ったこと無いからって言い訳してたけど、中学生だったって気がついていた人はいたのだろうか。
そんな話をしているとバスが停まる。というかここから見えるぐらいにもうなんか賑わっているな。
ちなみに今日は本来は受験生向けの、試験直前の大学の雰囲気紹介みたいなやつである。でも新三年生や新二年生も参加していいってあったので来た。
「こちら今日の予定です、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
元気な声で言う大学生らしいお姉さんから紙を渡されて真山くんは恐る恐る受け取っていた。私も貰おう。
「ふーむ、どれから聞こうかな」
全体の受験についての紹介とかもあれば、ちょっとした模擬授業みたいなものもある。文系も理系も両方ある大学なので、どっちに進むべきか悩んでいる私たちにもいいかもしれない。
「こういうの、和乃さんは好きなんじゃないの?」
そう言って真山くんが指差すのは情報系のもの。プログラミング……の話、なのかな。コンピュータがどう動いているか。ええと、裏の方に説明があるはずだ。
コンピュータ・アーキテクチャの世界、というタイトル。ええと、名前だけはわかるけど具体的にどういうものかを説明できない。なんか教科書にちろっと書いてあったよな。
左手の腕時計を見るに、時間はそろそろだ。地図を確認して、周囲の地形と合わせてぐるぐると身体を回して方向を確認。数学の問題とかで集中している時は脳内で全部できるんですけど今は無理です。
「あっちかな」
「たぶん」
まあわからなくなったら聞けばいいでしょう。幸い大学のマークの入ったジャージっぽいものを来ている人は見える範囲だけで何人かいる。
車がすれ違うことができるぐらいに広い通りを歩いていく。大きめの建物がいくつかあって、それぞれに教室とかが入っているようだ。全部が移動教室みたいな感じなのかな。忙しそうだ。ロッカーとかどうするんだろう。教科書を全部鞄に詰めてこれだけの距離を移動するとなると大変そうだ。
「こっちかな」
「一個先じゃない?」
曲がり角でそんな事を確認しながら、周囲の建物の番号を見つつなんとか目的の場所に到着することができた。この建物の四階ね。私達はとても元気で健康的な高校生なので迷うことなくエレベーターを選ぶ。時間が残り少なくてちょっと小走りして疲れたのもある。
チン、と軽やかなベルと共に扉が開く。ええと、会場になっているのはここだよな。
「……広いね」
真山くんが呟くように言う。私は目に入ってきた情報を処理するので忙しくて何かを言うこともできなかった。
たっぷりの椅子と机。巨大なスクリーン。映画館とか文化ホールとかと似てはいるけどまた別の空気。散らばって座っているのはこの話を聞きに来た人たちだろうか。相当な人数に対して一度に教えるシステムなわけか。
「どこ座る?」
「私は前のほうがいいと思う」
そんな会話をしながら席について荷物を置く。最前列とかだと首を上げないとプレゼンが見えなくなりそうだ。
たぶん右の方に立っているスーツの女性が今日の先生役かな。紙を見ると准教授ってある。教授の下なのかな。ここらへんはよくわからない。
「間もなく時間ですので、始めていきます」
落ち着いた声がマイク越しに響いて、スライドが切り替わる。さて、どういう内容なのかな。