今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第十一幕間 十

バスの窓から夜景をぼんやり見ていていると、体重がかかってきた。

 

「……寝てる?」

 

もし寝ていたら起こさないように、と私は小さく声をかける。反応なし。そうか、疲れたのかな。

 

私も疲れているが、頭を回した分もあって比較的元気だ。図書館が閉まるギリギリまでいましたからね。最後は追い出されるように持っていた本を返本台に置いてキャンパスの夜道をとぼとぼ二人で歩くことになった。

 

とはいえ、今思うと真山くんにはひどい仕打ちをしたと思う。正直言って、そこまで興味がなさそうだったしね。まあ私が基本的に好奇心を自問自答で終わらせてあまり外に出さないからかもしれない。

 

もしそれを常に口にしなくちゃいけないとか、共有する義務があるとかなら、たぶん付き合いきれない。そうだよな、趣味が合わないとかのほうがたぶん別れる理由にはなるはずだ。

 

「……ごめん」

 

今なら言える。なので真山くんが起きてからも言える。こういう自分の非を認める行為というのはやっぱり苦手だ。謝ったことばかり覚えていてしまって、謝られたことを覚えていないくせに、とちょっと自己嫌悪。

 

肩を動かさないようにして、頑張ってスマホを取り出す。地図に示される現在位置は駅までの道のりがだいたい半分過ぎたことを示している。

 

私もちょっとだけ、真山くんに体重をかけて重めの目を閉じる。いっぱい歩いて、色々聞いて、今日は疲れた。勉強したり運動したりとかでも疲れるけど、それとはまた違ったやつだな。

 

明日は日曜日。ゆったり昼まで寝よう。帰ったらご飯あるかな。父が作っているかもしれない。ここらへんは帰ってからだ。メッセージを送って確認してもいいけど、面倒くさい。

 

ほら、またコミュニケーションを面倒に思ってサボってる。そういうところからすれ違いが起こって、破綻するんだよと自分の声が聞こえる。夢見心地になって現実とそうでないものの区別が曖昧になってきているな。

 

どれもこれも熱を感じさせる真山くんのせいです。こんな油断したように静かな寝息を立てていることは別に悪いことじゃないけど、私の中の何かを刺激してしまうんです。

 

ブレーキがゆっくりとかかって、バスが停まる。まだ終点の駅までは先だ。少しだけ真山くんにかける体重を増やす。

 

もっとくっつきたい。衝動的な色々をぶつけたい。普段なら抑えていられる感情のリミッターがぼんやりと消えて、形にならないイメージの形で私の脳を侵食していく。

 

まあそんな一時の感情で親友みたいな相手で、秘密の共有者で、なんか良くわからないけどタイムリープで未来に相当するところから情報を持って帰れて、それと私の恋人である相手を傷つけるわけないじゃないですか。

 

なら今日のことを謝れよ、相手が寝ているとかそういうことに甘えるなってうるさいな。私のゆったりとした時間を邪魔するな。

 

バスが何か道路の段差か何かを通ったのか揺れて、思わず目を開けてしまう。ああまったく、眠気は減ったけど代わりに罪悪感みたいなものが胸の中に入ってきてしまった。

 

「……和乃さん、寝てた?」

 

真山くんの声。身体を無理やり離して窓側に寄せる。肩に当たる布越しのガラスの冷たさ。こうしていると嫌ってしまったみたいな感じになってないかな。考えがマイナス方向になってしまっている。

 

「……ちょっとだけ。重くなかった?」

 

「大丈夫だよ、疲れたの?」

 

「……そうだね。今日はありがとう、そしてごめん」

 

流れで言うことはできた。今日のことはちゃんと言葉にしておかないと後で後悔するって気がした。

 

「……僕が気にしてることはないけど、なに?」

 

「図書館のこと。……あまり楽しくなかったでしょ」

 

「まあ、和乃さんが本楽しそうに見ているのだってさすがに二時間ぐらい見ていたら飽きるけど」

 

だよね。単調だし。読んでいる側としては内容が違うので色々考えが変わっているんだけど、外部から見れば変な姿勢で変な評定しているだけにしか見えないよな。

 

「……うん」

 

「でも、いいよ。いつも和乃さんには助けてもらっているから」

 

「そんなに?」

 

「……ループの時、ありがとうって言えなかったことがいっぱいあって」

 

真山くんの声が、耳元で響く。触れるぐらいの唇、当たる吐息。背筋がぞわりとする。いやその、嫌悪とか動転とかじゃないやつ。たぶんこう、公共の場ではそこまでよろしくないやつ。なに考えているんだ私は。

 

「気にしないでよ」

 

私以外の人のことを気に病んでほしくない。この独占欲みたいな感情はたぶん、秘めておかなくちゃいけないやつだ。

 

「……ちゃんと言える時に言っておかないと、言えなくなるから」

 

真山くんはそういう経験を沢山しているのか。私よりも。そうか、真山くんはループ中にやり直すことはできるけど、その数だけ失敗を経験しているんだな。そういう意味では私の先輩なのか。

 

「……わかった。私もできるだけ言うようにするね」

 

誰も待っていないバス停を通過した。見慣れた看板が流れていく。間もなく、降りるべき駅前にたどり着く。

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