今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第十一幕間 十一

「……早く出さないとなぁ」

 

私は机に置いたA6サイズの紙を見る。名前とクラスと出席番号を書いて、理系か文系かに丸をして、修了式より前に先生に出せばいい。ただそれだけなのに、これのせいで何もできずに時間がただ過ぎていく。

 

「出してないの?」

 

真山くんが言う。

 

「選んだの?」

 

「……僕も、まだ」

 

「だよね……」

 

まあ単純に考えれば、真山くんと同じでもいいわけだ。とはいえ上位校を目指すとなればやらなくちゃいけない勉強もふえるわけで、なら分担したほうがいいかもしれない。

 

まあ、私が得意な情報を共通テストの点数計算のときに入れてくれるところは少ないんだけれどもね。一方で英語はたいていどこでも入れてくる。いや別にいいんだが。

 

「和乃さんは理系じゃないの?」

 

「理系は理系で、あまり潰しが効かないことがあるからね……」

 

「そうなの?就職がやっぱり有利って聞くけど」

 

「そういう分野にしか進めないっていうデメリットもあるから。それならもう少し便利な経営とか経済の方に行ったほうがまだいい」

 

「……そういうのを、仕事にしたくないの?」

 

「特に情報系は今どき仕事にするなら相当できないといけないだろうし……」

 

「大変だね」

 

「真山くんは?」

 

「……あまり考えてない。ただ、文系のほうが点数とかは取りやすそうな気がしている」

 

「そう」

 

やっぱり得手不得手みたいなものはあるのだ。とはいえこれで丸した方で今後二年間の勉強の方針が決まるのは怖いな。いやまあ高校に入ったときにもその後の三年間がどうなるか悩んだ記憶はないけど。少なくともこういう状況になるとは予想できてなかった。

 

投げてしまいたい。コイントスでもいいし、真山くんが選んだのと同じでもいい。別に私にとって、この選択はどちらに出ても構わないものだ。それが今後の私のキャリアを決めるとしても。どうせ選ばなかった方でどうなるかはわからないし。

 

「……和乃さんと、逆の方をやろうかな」

 

「……真山くんは、あまりそういうのを他人に委ねる人だと思っていなかった」

 

怒り、とはちょっと違うな。失望でもない。納得が近いのかな。ついさっきまでどちらを選ぼうがどうでもいいとか言っていた人が真山くんを責めることはできないけど。

 

「僕だって、決めにくいこともあるよ」

 

「本気でやるなら、情報系もいいのかもな……」

 

別に、その知識はその方に進まなくたって活用できるものだ。そういう意味では生物とか化学とかよりは業種みたいなものは広がるはず。

 

「和乃さんはいいよね、得意教科があって」

 

「真山くんのおかげで苦手をかなり潰せたからね、そっちだって特に苦手なものはないでしょ?」

 

今日は参加者の予定がちょっとずれて開催されなかったが、間もなくやってくる期末試験に対して私達は別に赤点を取るんじゃないかと危惧するほどヤワな勉強をしていない。まあそれでも上位陣と争うのはちょっと難しいのですけどね。

 

「……そうだけど」

 

「まあできるって時点で贅沢な悩みかもしれないけど」

 

親の仕事を継ぐことを強く期待されていたり、なんてことはまだある。別にそれはそれで悩まなくていいっていういいことはあるかもしれないけど。

 

「真山くんとの都合から逆算するか」

 

ちょっと思考がまとまりそうなので私は口に出す。

 

「どういうこと?」

 

「もし何かあった時に、ある程度自由に行動できる時間が確保できたほうがいいでしょ?」

 

ループ中に例えば何かしたいとなったら、数時間以内に駆けつける事ができたほうがいい。それがたとえ仕事中であったとしても、だ。

 

「つまりフレックスタイム採用で……そうか、そういう人に聞けばいいか」

 

いるはずだ。まだその界隈にいれば、だが。もう二年も会ってない人たちに、今から声をかけたら答えてくれるだろうか。まだあのサーバーは残っているだろうか。入れてほしいと言ったら招待してくれるだろうか。

 

「知り合いにいるの?」

 

「……昔の。中学生の頃の。良く遊んでいた人たちに、そういう場所で働いていた人がいたはず」

 

「……ゲーム、だっけ」

 

「そう」

 

私が目をそらしていたもの。思い出したくないこと。ただ、進んだほうがいいよな。幸い、今は真山くんがいてくれる。今しかいないってわけじゃないと思いたいけど。

 

「……もし、やりたくないなら、他の周の和乃さんに僕から頼むよ?」

 

「そういうことが、できるようになったんだ」

 

ループから出る周の私のために、そうでない周の私を犠牲にする。それを提案できるような真山くんは、嫌いじゃない。

 

「恨まれるなら、僕がいい」

 

「恨みはしないよ、この件については勝手に傷ついて勝手に治るだけ。それでもまあ、やっぱり痛い時はそばにいて欲しいけど」

 

別に痛みが和らぐわけじゃないだろうし、真山くんには私が苦しむ様子を見せることになるだろうけどね。

 

「……うん」

 

「ただ、ループ中にするのは賛成。場合によっては不特定多数に真山くんの情報が出回るわけだから、それを取り消せるのは便利だと思う」

 

ループの活用の実験、という意味でも真山くんに経験を積んでもらいたい。そろそろ、そういう時期でもあるし。


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