今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第十一幕間 十二

「……まだ起きてる?」

 

私はヘッドセットのマイクに向かって言う。

 

『……うん』

 

「よかった」

 

私は息を吐いて、黒い画面に並ぶ白い文字を改めて確認する。それなりの分量になってしまったな。

 

『終わったの?』

 

「そうだね、だいたい書けた」

 

ちょっとした過去の精算というか、昔の馴染の人達に顔を出すためのプラン。考えられる応答と、その時に必要な言葉。もちろん完全なものではないが、実際にやる時の助けになるはずだ。時間の限られるループでは事前の準備が成功の決め手である。

 

『……辛いなら、やらないほうがいいと思うよ』

 

「忠告ありがとうね、でもこれは私の問題だから」

 

大丈夫。今の私は覚悟ができている。一番傷つく可能性のある私は、記憶を引き継ぐことはないから後のことは考えなくてもいい。

 

『それと、ループが短かったらこれも上手く行かないかもしれない、って言ったよね』

 

「言われたね」

 

まあそうなったら、もう適当に決めるとしよう。別に今どき情報系の成績がいいからと言って文系も理系もないからね。

 

『……いいの?』

 

「いいの。実際、これを書いただけでそれなりに気分が楽になったし」

 

昔のIDとアイコンを揃えて、それなりに付き合いがあった絵描きでもある人にDMを送る。本人しか知り得ないことは一緒に回った卓の話をすればいいだろう。ちなみにその人がまだ現役なことは確認済みだ。

 

あの頃に使っていたサーバーはまだ生きているだろうか。残っていたとしても、それなりに人の出入りがあるような場所だったと考えると今の私がいれるだろうか。

 

質問は一つ。あなた達の仕事について教えて、と言うだけ。もちろん、それなりに隠している人はいる。古く殺伐としたインターネットで生まれ育った人達にとって、インターネットは仮面舞踏会みたいなものだ。

 

名前も、背景も、特徴も隠して、日頃は言えないようなことを言ったり、あるいは普段では作れない関係を探す場所。私もそうだった。少し間違えた気もするけど。

 

『始まったら、連絡をする。回数も数える。伝言はできるだけ覚えておく。……僕にできるのは、それしかないから』

 

「それで十分すぎるんだよ、私にとっては」

 

やり直すことができる。失敗するとわかっていて、それを回避できる。その作戦に、私が一番信頼する協力者が関わるのだ。ちなみにあまり信頼できない自分という存在については除ける事ができないので諦めよう。

 

『ところで、今って何時かわかる?』

 

「んーっとね、一時半。駄目だよ真山くん。こんな夜遅くまで起きていたら明日寝不足になっちゃうし……って、今日?」

 

『和乃さんには言われたくない』

 

「だよね、わかったわかった、あと本当にありがとうね、ごめん。こんな時間まで付き合わせて」

 

『いいよ、和乃さんの悩んでいたことがこれで無くなるなら』

 

「別に悩みってほど……いや、悩みだ。うん、確かに別れの言葉が言えず終いだったのは良くなかったな」

 

今までかなり仲良く遊んでいた人が、オフ会の直後に連絡を全部絶ってすっと消えたのだ。何かあったのかと思うのは仕方がないだろう。検索してもそれは出てこなかったが。

 

『……遅すぎることはないよ』

 

「わかってる。でも、相手が相手だから準備はしておかないと」

 

私の知る中でも、トップクラスに賢い人達。ゲームの中でではあるが裏切りあったり殺し合ったり成果の配分で欺きあったりした良い仲間だった。本当かな。思い返してみれば碌でもない体験の記憶しかない。

 

思考の回転も、様々な分野での知識も、下手すれば文字通りに桁違いだ。私が真山くんとの会話でループしているんじゃないかと見抜けたように、私との会話ですら真山くんの能力を見破る可能性は否定できない。

 

格上との戦いになる。まあこっちには一方的なリセットボタンがあるので負けたところでどうにでもなるんだがな。

 

文字通りのズルを使って、私は私の過去を精算させてもらう。私利私欲のための、能力の悪用と言われればそうだ。でもさ、そういう事はさんざん真山くんも私にしてきている。

 

私がやっちゃいけないという理由はない。言い訳を重ねている。そんな事はわかっているんだよ。

 

『……寝た?』

 

「うん、ちょっと面倒なことを考えていてね」

 

『考えすぎるならそもそもしないほうがいいっていうのは何度でも言うからね。もしそういう行動をしないほうがいいって思ったら、ループしているって事自体を伝えないから』

 

「……お願い。そこは真山くんを信頼する」

 

信頼するも何も、私は真山くんに協力してもらわなければ何もできないのだ。まあ、だからこそ信頼は必要か。

 

『ベッドに入った?』

 

「まだ。仮想マシンを止めただけ」

 

スマホでアプリを開いて、マイクとスピーカーをこちらに切り替える。ヘッドセットから聞こえる切断音。

 

ぽふり、と私はベッドで横になる。間もなく二月も中旬に入る。自宅学習期間という名の休日があって、学校にも行けなくなるから真山くんとは会いにくくなるな、なんてことを考えながら私は目を閉じた。

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