今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第四幕間 三

「試作品を用意してみた」

 

そう言って私は少し古びたスマホを真山くんに渡す。

 

「……昨日話したばかりだよね?」

 

「あれから十五時間あったから」

 

「寝た?」

 

「……一応」

 

問題です。午前三時に寝て、午前七時半に起きました。私の意識はどこまで持つでしょうか。

 

「もし何かあったら保健室とか行きなよ」

 

「ん……そうする……」

 

そう言ってあくびを一つ。眠い。酸素が足りない。

 

「ところで、これってどう使うの?」

 

「振ってみて」

 

ある一定以上の加速度が加えられると、その値をセンサーで読み取って数列を作り、ミリ秒単位の時刻と合わせて乱数列を作る。そこから文字列を生成するわけだ。

 

「これでいい?」

 

そう言って彼が振ったスマホの画面には、ちゃんと予想したように単語が三つ表示されていた。

 

「弱毒、乱れ髪、辞典だって」

 

「うーん、私でもこれで話を作るのは難しいかも」

 

乱れ髪と弱毒はまだなんとかなるよな。アホ毛になる薬みたいなやつを出せばいい。辞典ってなんだよ。この3つをちゃんと絡めた上でネタにするの、結構厳しいぞ?

 

「語彙は改良必要なんじゃないかな」

 

「そうかも。もう一回振ってみる?」

 

私がそう言うと、彼はまた軽く手首を振った。別に大きく振ったから珍しいものが出やすいとかそういうことはない。

 

「ソード、片手間、ハウジング」

 

「よし語彙リストを見直そう」

 

無理です。適当にネットで見つけたフリーの語彙リストを使っているだけだからな。名詞だけに限定したけど、もう少し絞ってもいい。

 

「ところで、このスマホだけど前に見たのと違わない?」

 

「うん」

 

「古いやつ?」

 

「そうだね、今使っているのとは別で、これは以前にリサイクルショップで買ったやつ。脱獄してるからあまりいいものじゃないけどね」

 

「……脱獄?」

 

「本来は制限されている機能を使えるようにしたり、内部のシステムを全部書き換えたりするような方法」

 

「そんな事ができるの?」

 

「できる。もちろんやったら保証は効かなくなるけどね」

 

昔こういうのをするとかっこいいみたいな情報を元に頑張ってやったのだ。もちろん親に買ってもらったものにそういう事するには怖い年頃だったので、売るならともかく買う分には身分証の提示とかいらないスマホを買ったのだ。

 

「……和乃さんって、こういうのに詳しかったりする?」

 

「あまり」

 

基本的に私はすでに誰かが作ってくれたものをベースに色々しただけだ。管理者権限を手に入れる方法も、匿名化してブラウザを使う方法も、スマホ自体を中継基地みたいに使う方法もネットで色々やっただけ。

 

「そうなんだ、それなのにこういうの作れるんだね」

 

少し尊敬した、みたいな顔で真山くんは私の方を見る。

 

「初めてだったけど、一晩でなんとかなったよ。ところで、次はいつありそうってわかるものなの?」

 

もしわかるなら、そのタイミングに合わせて色々準備をしておきたい。どこまでできるかはともかくね。

 

「ううん。大抵一ヶ月ぐらい開くけど、具体的にいつからかはわからない」

 

「ループが始まったってわかるのは、繰り返してから?」

 

「そうなる。だから一周が終わる時間ならわかるよ」

 

「……そっか」

 

それじゃ多分意味がないんだよな。とはいえそれを言うべきか。

 

「たぶん和乃さん、競馬とかに使おうって思ったりしているでしょ」

 

「使ったことあるの?」

 

「未成年だからそういうのできない」

 

「確かに」

 

ここで第三者を巻き込むのも難しいしな。お金を手に入れるためには最後の周で成功しないといけないから、どうしても頼んだって記録は残る。それに子供の言いなりに買ってくれる人はまずいないだろう。法律的にはどうかはともかく、実質未成年が公営ギャンブルに手を出すわけで。

 

「それに競馬って言っても、時間とかがちょうど合わないといけないでしょ?もし夕方に短いループが起こったりしたらどうするのさ」

 

「ああ、実際あったの?」

 

「あった。中学校の修学旅行の帰りが半日ぐらい伸びた」

 

「帰りか……」

 

向こうにいる最中とかならともかく、やることの少ない移動時間とかだとどうしようもない。普通に拷問的にもなりかねないな。

 

「その時はどうしたの?」

 

「課題になっていた感想文とかを準備してた。一回用意しておけば後は書きやすくなるし」

 

「どうせ消えるかも、って思っても大丈夫だった?」

 

「慣れてるから」

 

徒労に慣れて、それで努力を続けられるっていうのは一種の才能だよな。私にはできない。それがループを経験する生活を送っていたからできるようになったのか、あるいは元々そういう性格だったからループでも変なことしないようになったのか。どっちなんだろ。

 

「そう。なら、いいか」

 

「あと、そういう面白いタイミングでタイムリープするのはあまりないからね」

 

「偶然の要素が大きい?」

 

「うん。さっきの修学旅行のやつだって今までで一番嫌な時に起こったやつだよ?」

 

「まあ、定期試験の日を繰り返すとかよりはマシかぁ」

 

いつ終わるのかわからないループということは、全ての周で手を抜けないことを意味する。それをちゃんと乗り越えて普通の高校生をしている彼は、たぶん特別なんだろうな。

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