高校一年生 十一回目 二周目 一
電話が鳴った音で目を開ける。頭の冴え具合からして十時は回っているだろう。
「っ……来たか?」
通話ボタンを叩く。
『起きてる?』
「デートのお誘いだったらちょっと怒るかもしれない」
『……ループが始まったよ』
「期間は?」
『十四時間十四分。電話をかけた時間がほぼ開始時間』
「了解」
十周だと十七時間だったので、十一周かな。パソコンが立ち上がるまでの時間がもどかしい。
「……十一周で間違いない。回数はちゃんと覚えておいてほしい」
『わかった。頑張って』
通話が切れる。目覚めた頭で現状を把握していく。今は試験休みの時期。高校受験で校舎には入れないし、三年生が受験なので学校に来ないなら各自自習という形でちょっとした息抜きの期間である。
おかげで今日が終わるまで、私を邪魔するものはない。両親もいないんじゃないかな。夜ふかしが怒られることはないわけだ。
フリーメールアドレスの取得。SNSへのアクセス。ログイン画面から新しくアカウントを作成する画面に行く。思い出してそれらしく作った昔のアイコンもどきと、あまり変わらないID。後ろに2とかをつけても良かったのだけど。
時間は十五分経過。問題ない。
新規作成されたアカウントから見る世界は、なんていうか雑多で、あの時のそれなりに揃った世界とは違った。トレンドの動画とか、無断転載の色々とか、そういう場所。
「行こうか」
検索欄に知ってる人のIDを打ち込んで、片っ端からフォローしていく。このフォロー一覧を見れば、私を思い出す人もいるだろう。
そういえば、とプロフィールを更新。次の真山くんへの伝言にもメモ。大丈夫。まだこの高揚感みたいなものでなんとか押し切ろう。
DMを送る画面を開く。事前に考えていた文面をコピーして貼り付け、送信。最新の投稿が数分前だったのでオンラインだろう。
改めて送った文面を確認する。自己紹介、覚えているかどうかの確認、もし可能であればまたTRPGがしたいので、サーバーに招待してくれないか。
しばらくすると既読がついて、相手がメッセージを書き始めた。ああ嫌だ、怖すぎる、助けてほしい。どうして。負の感情を奥歯を噛み締めて打ち消す。
覚悟を決めたはずだろ。タイムリープで都合の良い結果を得ようとする対価みたいなものだ。
『ゆわちゃん!?!?!?!?』
驚きが伝わってくる返信の文面。私のかつてのユーザーネームは「
『はい』
たった二文字の返信でも、十数秒をかけてしまう。この間に相手が去ってしまったらどうしようか、という恐怖。幸い、そんなことはなくURLが送られてきた。
リンクをクリックし、長らく使っていなかった通話ソフトを開く。ゲームとかやってる人を中心に使われている、あまり一般的ではないやつ。ダウンロードは面倒なのでブラウザ版での起動だけど。
招待されたサーバーのアイコンは、私が去った時と変わっていなかった。よし。私が来た瞬間に歓迎を示すスタンプが何人もの人から連打される。知らない人が大半だ。
メッセージを送った人が通話を開始していたので、そこに参加する。クリックまで動かす手は、少しだけ楽になっていた。
『本当にゆわちゃん?』
通話越しに聞こえるたぶんお姉さんの声はこのサーバーの主。卓修羅でもある。
「はい、お久しぶりです」
『……よかった、また来てくれて。それで卓だけど、すぐ立てれるよ?』
「そんな急いでやるものじゃないですから、まずはちょっと最近の話を聞きたくて」
『ほーう』
久しぶりの会話だったのに、かなりスムーズにできている。案外恐れることはなかったかもしれない。ループとかなしに、戻ってくればよかったなと感じられる。
『……ところでさ、何か理由があるの?』
「そうなんですよ、ちょっと……これは個人的な話なんですけどね」
『うん』
「進路を少し考えていまして、IT系ってどうなのかと思いまして」
『何が気になるの?私も一応そっち系だからある程度は伝えられるけど』
「突発的に予定が入っても対応できるような職場に就きたいんですけど」
『……詳しく聞かせて』
「ええとですね、例えば今から半日別件で動けない、みたいなことが月一ぐらいで起こるかもしれなくて」
『……それがいつ起こるか、っていうのはわかる?』
「まだわからないです」
『……それは、必ずその時間は何かに集中しなくちゃいけない?』
なんていうか、この人の質問は怖い。私がまだ初心者だったころ、冒頭のゲームマスターの行動だけでラスボスを見抜いて、それでいてサポートに徹して私を主役にしてくれたような人だ。
「必須、というわけではないです。ただそちらを優先できるならしたくて、でもそういう仕事があるのかなって」
『……在宅の情報系ならできるかもしれないけど、相性みたいなものもあるよ?』
「はい、そういうのもまとめて聞きたくて」
『んー、招集かけたら夜に来てくれるかもしれないけど……急いでる?』
「そうですね、今日の夜までにそういう話が聞けたら嬉しいです」
『わかった。じゃあ個人的に呼びかけてみるよ』
「ありがとうございます」
『それじゃあね、時間あるならちょっと最近作ったシナリオの話したいんだけどいい?』
「いいですよ!」
そう言ったタイミングで新しい人が来た。私はあの時に馴染んでいたような、懐かしさを覚えながら会話を続けた。