今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 十一回目 八周目 一

「これ以上、必要かな……」

 

私は真山くんからヘッドセット越しで聞いた内容を頭の中で整理しながら言う。

 

フリーランスとしてやるには文系理系関係なく自分から学んでいく必要があること。学生時代の実績があればかなり有利であること。戻ってきた私を案外暖かく受け入れてくれる場があったこと。

 

『僕は大丈夫だと思うけど』

 

「まあ、これなら戻って聞けばいいか。ループの話を伏せても良い情報は手に入りそうだし」

 

真山くんから渡ってきた情報は完璧なものではない。私が聞いたけどメモに取れなかったこと、メモに取ったけど送る過程で取捨選択されたもの、そして真山くんが覚えているかどうか、さらに私が聞いたかどうか。

 

しかし準備をしていたことを踏まえても、どのステップも思ったよりは上手く行っているように思う。少なくとも、欲しい情報はだいたい手元にある。

 

特に一番怖かった、戻った時にあれこれ言われないかとかそういう心配はしなくて良さそうだ。

 

『……ところで』

 

「ん?」

 

『ちょっとだけ、言いたいことがあって』

 

「なに?」

 

声色は読みにくい。真剣っぽくはある。

 

『……これを、今の和乃さんに言ったところで意味はないってわかってるんだけど』

 

「うん」

 

『……タイムリープのこと、他の人に言われるのはちょっと嫌だなって感じる』

 

「リスクは少ない、っていうのはわかっている?」

 

『理屈じゃない、から、和乃さんにはわかってもらえるか微妙で……』

 

「……確認してもいい?」

 

それはたぶん、真山くんのぼんやりとした思考を分析していく過程になる。その中で傷をつけないようには注意しなくちゃいけないが、どうやら既に私は、というかどこかの私は傷をつけてしまったらしい。

 

『いいよ』

 

「具体的に、私のどういう行動が嫌だった?」

 

『……僕の秘密を話した相手について、あまり詳しく教えて貰えなかった』

 

「そっか、確かにそれは……よくないね」

 

同意なしに他人から聞いた秘密を話さない、というのはもちろんだが、同意をとっても話すのは最小限にしたほうがいいだろう。聞いたところによると私がタイムリープをしたという体でやっていたらしいが、それでもだ。

 

『でも、それだけじゃない気がする』

 

「どういうこと?」

 

『……僕と和乃さんだけのものを、他の人に見られたっていうか』

 

「恥ずかしい?」

 

『違う。嫉妬とかのほうが近いのかな……』

 

感情をうまく言葉にするというのは難しい。それが上手く理屈や筋が通らないもので、相手に納得してもらえるかわからないならなおさらだ。

 

「私は聞くよ。ちゃんと、ゆっくりでもいい。必要なら他の周の私に頼ってもいい。終わってからちゃんと相談してもいい。なんでそう思ったのか、私はきちんと知りたい」

 

だからこそ、ちゃんと受け取る側として言葉にしないといけない。

 

『……わかってはいるんだよ、和乃さんにとって進路を決める時に誰かに相談したほうがいいっていうのも、その相手として適切な人が僕の知らない人なのも』

 

「うん」

 

『……でもさ、その人って、昔、和乃さんが傷ついたときの関係者なんでしょ?』

 

「確かにあれ関連の知り合いではあるけどさ、そんな……いい人ではあるよ、頭も切れるし、信頼できる人だと思う。少なくとも、他の周の私達はそう判断していた」

 

『それを疑いたいわけじゃない、和乃さんのことは信じたいから』

 

「……どこに問題があるの?」

 

『……そこって、楽しかったんだよね』

 

辛そうな、それでも頑張って言葉にしてくれている真山くんの声。

 

「そうだね、のめり込んで……自分と演じていたキャラクターとが区別つかないぐらいに、楽しんでいた」

 

だから、やらかしたのだ。キャラクター同士の関係と、リアルの人間同士の感情を誤解した。いや、互いにあの時は誤解じゃなかった。

 

同意を取った上でやったことを、私は覆そうとは思わない。許すとか許さないとかの問題ではない。ただ、後悔はある。

 

『……たぶん、和乃さんがまたそこに行ってしまうのが怖いんだと思う』

 

「……なるほど、ね」

 

『こう言ったらひどいと思うけど、僕は、和乃さんに秘密を知られていて、それだから和乃さんがそばにいてくれているって思っているところがあって』

 

「完全には否定できないな……」

 

秘密がある限り、私は真山くんにとって有意義な存在でいられる。だから多少嫌がられようとも、そばにいることが許容されるだろう。言い方が逆だが、まあ真山くんの認識と似たようなものだ。

 

『でもさ、それがなくなって、他の人も僕のことを知ったら、なんていうか……和乃さんにとって、というより僕にとって、和乃さんが特別じゃなくなってしまうんじゃないかって思ってしまって』

 

「場合によってはそうしたほうがいいかもね」

 

『……うん』

 

「私だってあまりいいとは思えないけどさ、私以上にこういう時に役立つ人がいるかもしれないでしょ」

 

今までの私が情報を共有してきたサーバー主の人なんかはそうだ。たぶん、私よりそういうことについては得意な気がする。

 

『でも、今の僕は、今の和乃さんがいい』

 

「恋愛感情でそういう判断をするのが間違った結果を招くことがあるってわかっている?」

 

『……うん』

 

真山くんの声は小さくて、なんとか聞き取れるかどうかというぐらいだった。

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