眠れないので手探りでスマホの電源を入れる。ぼんやりとした視界に映る数字をどうにか計算して、そろそろ終わりだなと判断をつける。
たぶん、私は過去を精算できる。精算っていい方はどうなんだろうなとは思うけど。
色々と後悔したこともある。それは後ろめたいし、やり直せるならやり直したいと思うし、もし真山くんに言わなくて済むなら済ませたいって思ってしまうことだ。
でも真山くんは私がそれに向き合うのに手伝ってくれた。他の周の私達は最終周の私のために色々なことをしてくれた。たぶん、それなりに勇気が必要なこともあっただろう。
だからなんとか、私は欲しい情報を一通り手に入れていることができている。
将来の進路とかを考えるのは、正直言って憂鬱だ。でも中学時代を思い出せば、時間が一瞬で過ぎていくことぐらいはわかっている。
「……そっか、忘れてた」
眠れないなら、やるべきことをやってしまおう。部屋の電気をつけて、鞄の中のファイルから紙を取り出す。
単純な決断だ。丸を一つつけるだけ。それだけで、私の今後の人生の少なくない割合が決定するだろう。
もちろん、文系という道もあることは聞いた。英語の方面を伸ばして翻訳とかをやったり、という選択肢もある。
ただそれはそれで大変で、一度その道を選んだら戻るのは難しい。プログラマーというかインテグレーターだっけ、そういう職だって変化する技術に追いつくために努力しないといけないわけだけどさ。
そして、それは別にあとからでも頑張れば多少の調整は効く。真山くん経由でだけど、多くの人の話を聞いた。後悔している人も、満足している人もいた。
何が好きかで選ぶのもいい。真山くんのことは好きだけど、ずっと好きでいられるかも、ずっと真山くんが私を好きでいてくれるかもわからない。
分かち難くなるぐらいまで依存して、互いに逃げられないように縛りあって、死が二人を分かつまで、ぐらいのことをしてもいい。もし大学を出ても今のような関係を続けられるなら、部分的にはそれはありだ。
でも、私は想像してしまうんです。何かが上手くいかなかったときに、あとで進路を誤ったと考えたときに、真山くんを恨んでいる自分を。
「……そんなことは、したくない」
これは完全に私の問題だ。将来の私がちゃんと責任を自分で引き取って、逃げないで立ち向かってくれると、今の私が信じられるかどうかだ。
「……でもな、託されちゃったんだよな」
それは真山くんからでもあるし、私達からでもある。実際のところ、ループ中だからってはっちゃけた私もいるだろうから正直どこまで託されてるのかは知りようがないし多少は割り引かなくちゃいけないだろうけれども。
「ここで逃げたら、私は自分のことを嫌いになってしまうよな」
かつては逃げた。逃げて、忘れようとして、結局どこか縛られてしまって、戻ってきて、そして今、ここにいる。
「まあいいや、こっちで」
そう口に出して、手元にあったシャープペンシルで丸をする。別に理系を選んだからと言っても社会分野はやらなくちゃいけないだろうし、理系科目の中でも触らないだろう分野は生まれる。
とはいえ覚悟を決めて、何かを終えた私はかなり気分が楽になった。このまま寝てもいいのだが、ちょっと気分がもったいない気がする。
『起きてる?』
こういう時に、私は話すべき相手を持っている。もし寝ていたら寝ているし、眠いならそこまで無理して起きないだろうけれども、頼めば色々とやってくれる、信頼できる相手。
『起きてるよ』
メッセージはすぐに帰ってきた。なんだ悪い高校生だなぁ。今はもう青少年は外に出れない時間だし、成長ホルモンが出なくなってしまうぞ。私は別に身長とか気にしないほうだと思うからいいけどね。離れすぎていてもつま先立ちとか辛いし。
『話せる?』
私が送った直後に着信が来た。慣れたものだ。こういう会話は控えめにしようとは思ってもちょくちょくしてしまう。
「ごめんね、あと早く寝たほうがいいよ」
『和乃さんに言われたくないんだけどな』
「そうだよね、まあ私もベッド入ったから」
『それで、決められたの?』
「進路?書けたよ。理系にした。……ありがとうね、今回は私のわがままに付き合ってもらって」
のべ六日半。楽なものではなかっただろう。待ち時間もあっただろうし、伝言も頼んだ。今回の真山くんは、自分のために時間をそこまで使えていなかったはずだ。
『和乃さんが決心できたなら、僕はいいよ』
「真山くんはどうするのさ」
『文系にする』
「どうして?」
『和乃さんの逆』
「もっとしっかり悩めよ……」
そこまで言って、そうすると学部が異なることになるな、と気がついた。別に両方の学部がある大学を二人で狙うとかをしてもいいのだけれども。でもそれをここで言うのはちょっと、あれだな。
『ごめんね』
「いいよ、それより大学の方はどうするの?」
『……まだ先でいいんじゃないかな』
「そうだね、今日は決めるの頑張ったし、また今度の私に任せようか」
やるべきことはやった。ちょっとリラックスしようか。