どうせ二人の日常は延々と続くけど、ひとまずどこかで区切りをつけないといけないので。
高校三年生 第十四幕間
綺麗に掃除された教室。残るのは私達だけ。
「あー!やっと高校生活が終わった!」
お行儀悪く机に座り、背中を伸ばしながら私は言う。
「まだ懇親会が残ってるよ」
「あれはもう、別だから……」
ちょっとごまかして、私は配られた卒業アルバムをめくる。いやぁ色々あった。真山くんとの思い出はここには写ってないけど、そうでない学園生活の色々は結構撮られていた。
「……和乃さんってさ、笑うようになったよね」
「そうかな、カメラを向けられた時は愛想笑いぐらいはするようになったけど」
とはいえ友人たちと並んだ写真を見るのはなかなか感慨深いものがある。いやぁ、とても良い青春ができた。高校に入ったときにはこんな物語みたいな感じに終えることができるとは思っていなかったので大満足である。
「ところで、これから大学生活を始める気分は?」
「……色々と不安はあるけど、なかなか悪くない」
色々と考えて、真山くんとの予定すり合わせも考えて、結局私達は別の大学に行くことになった。ただし、ちょっとだけ条件がつく。
私はこれから一人暮らしだ。ちょっと家から大学までかかる時間を考えると近くに住んだほうがいいってなった。そして、真山くんの大学は真山くんの家との距離よりも私の新居というか新しい部屋からの方が近いのだ。
まあこれがどういう事だかわからないってことはないですよね。はい。いやあの、さすがに真面目に勉強はしますって。むしろ今までやり続けて来たので受験終わってから今までの期間が妙に手持ち無沙汰で寂しい。
「……よかった」
「まあ何かあったらよろしく」
「……たまには顔を出すようにするね」
「合鍵は渡しておいたほうがいい?」
もう下見はしてある。別に連れ込みを禁止するような場所ではなかったのでそこはセーフだ。いやもう18なので偽装じゃないところに行ってもいいわけだけど。
「……あとで考える」
「そっか」
アルバムを閉じて、ここに乗ってなかった色々を思い出す。いや、厳密には私が覚えているわけではないけれども。真山くん経由で聞いただけだけれども。
「……和乃さん、大丈夫?」
「……あまり大丈夫じゃない」
変なものを思い出してしまった。妙に上手になったキスとか。優しい手の握り方だとか。たぶんどこかの私が、調子に乗って色々教えたのだろう。
「気持ち悪いとか?」
「気持ちよかったのが問題なんだよ」
私が言ってもきょとんとした顔をしてやがる。まあそれもそうか。まだここらへんの知識は足りないので大学卒業したら色々教え込んだほうがいいな。
「……ともかく!真山くんのほうは高校生活どうだった?」
「思い返すと和乃さんと話したり一緒になにかしたりしたことばっかりだな……」
「そんな事ないでしょ、学校行事でだって他の人と色々やってたし」
私がその度にどれだけ嫉妬をしていたかは内緒である。
「そう?」
「そうだよ……」
まあいいや、私は好きな人が幸せになるならいいんじゃないかという考えなのだ。
「……そうだね、もっと他の人との思い出も大切にしなきゃ」
「そういえば結局、私達は上手くなんとかなったね……」
喧嘩というほどの喧嘩をした記憶もない。互いに無断で自習室に来なかった日だって普通にあった。まあ翌日にちょっと申し訳無さそうに言い訳するところまでがお約束になっていたけど。
「……和乃さんが、気を配ってくれたからだと思うよ」
「だったら、よかった」
互いに気心の知れた関係にはなれた。まあこれだけ付き合っていても別れる時は別れるっていうのは色々聞いているのでもしそうなってもいいように常に心の準備はしている。でもそうなったら泣きつくんだろうな。
「今更だけど、高校生活で何かやり残したことってあった?」
「あまり……」
「そっか」
ループでやり直せることがたまにあるとは言え、確率的にはかなり低いのだ。それを期待して何かをするのは間違っているし、ループが起こらなかった時に後悔するぐらいなら最初からちゃんとやっておけばいい、というのを真山くんはできる人だった。私はまだちょっと難しいかな。
「和乃さんは?」
「……色々ないわけじゃないけど、それをやっていたところでまた別の後悔だとかやり残しが生まれるだけだから問題ないよ」
呼び方を変えられなかったとか、私達の関係がそこまで爛れなかったとか、あるいは家族に上手く紹介できていないとか、そう言う問題はある。いやでも家族には結構気がつかれていたかもしれないな。
「……そう」
「まあでも、やっぱり寂しさはあるよ」
私は席を立って、黒板の前まで行く。放課後の勉強会で何度も立った場所だ。鞄も、椅子にかけられた服も、しまわれていない椅子もない。綺麗で、終わってしまった教室。
もちろんしばらくしたら後輩たちがここを使うことになるし、私達が来る前には先輩たちが使っていたのだ。受け継がれるものはちゃんとある。
「……そろそろ、時間だよ」
真山くんがメタルバンドの腕時計を見て言った。
「そうだね、行こうか」
私もメタルバンドの腕時計を確認して、机から降りた。