今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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大学一年生 十回目 四周目

スマートフォンの目覚ましの音が後ろからしてくる。倒していた運転席の背もたれを戻す。

 

「……時間だね」

 

そう言う真山くんの声は、いつになく緊張していた。それでも普通の人に比べたら落ち着いていると思う。

 

「寝れた?」

 

「……少しだけ」

 

「いいね、まあ今までに一回成功しているんだ。次も上手くいくよ」

 

時間は深夜。場所は高速道路沿いのサービスエリア。

 

レンタカーの中には私と真山くんだけ。窓から見えるは幾台かの深夜バス。ちらちらと降る雪に反射するライトの光がちょっと眩しい。

 

「トイレは行かなくていい?」

 

「……うん」

 

「そろそろ、ここに来るはずだよね」

 

「それは確認してある。前の前の周の和乃さんにも助けてもらった」

 

私達の目標は、深夜バスの事故の阻止。居眠りなのかハンドル操作のミスなのかは知らないが、それなりの人数が死亡してけっこう大きなニュースになったらしい。

 

そういうわけで、今までで一番緊張するループである。一周は四日半。今日は三日目。そして今は最終周である四周目。

 

とはいえ、私が準備しておくべきことは意外に少なかった。事故を起こす付近の時間で、バスの前を走るだけ。それだけで運転手は集中するのか、事故は起こらずにちゃんと到着するらしい。

 

二周目ではバスを特定できたものの途中でトラブルがあって事故は止められなかったが、前の周では行けた。少なくともそう聞いている。

 

「ごめんね、期末試験の期間なのはわかっているけど」

 

「期末試験の期間なら良かったんだけどね、その直前なんだよ」

 

間に試験が入っていたらタイムリープでカンニングとかできたのだが、生憎それもできない。まあ日頃から真面目に勉強はしているので問題ないだろう。真山くんと一緒にやってきた経験はかなり役に立っている。

 

「バスが出る寸前に移動開始、誘導するようにここまで行けばいいんだよね」

 

運転しなくちゃいけない時間はおよそ三時間。集中力の限界に近い。雪も降っていることを考えると、自動車学校でやった訓練もそこまで役に立たない。

 

一方で真山くんのほうはこのあたりをしっかりと走って土地勘を持っているようだ。というわけで場所を交代。助手席の私はガイド兼何かあったときのバックアップだ。

 

「……あのさ」

 

「何かあった?」

 

双眼鏡越しに見る限り、目当てのバスにはだいたい人が帰ってきているようだ。この中には亡くなった人もいるんだよな、と私は考えてしまうがすぐに思考を切り替える。

 

「これが上手く行っても、和乃さんには何の利益もないよね」

 

「それは真山くんもでしょ」

 

これで私達が得られる評価というのは、せいぜい深夜バスを煽って運転手をイライラさせたということぐらいだろう。事故は複数の要因によって起こるので一つ潰せれば阻止できる、という理論だが。

 

「……もし上手く行かなくても、気落ちしないでいいから」

 

「それは、そっちが考えるべきことでしょ。扉閉まったよ」

 

「わかった」

 

エンジン音が激しくなる。シートに押し付けられる背中。嫌でも私は緊張してしまうな。

 

「準備は?」

 

「万全」

 

暗い車内で私の持つ赤いLEDライトが地図を照らす。あとでこの地図は燃やそう。時間とか書き込んでしまったしね。それはそうとカーナビのほうも今後の進行方向を教えてくれる。

 

速度をゆるめて、ゆっくりと進む。私達の車の後ろをバスが走ってくる。色と車体の形からして、これが目的のやつだ。

 

「追い越そうって思わないぐらいのスピードで……ってできるもんだね」

 

「頑張ったからね」

 

真山くんはリラックスできている、よな。ハンドルを握る手は軽いように見える。うん。私が信じなくてどうするんだ。ここまでの運転は私だったが、たぶんそれよりも上等な乗り心地だ。真山くん視点ではここ一週間ぐらい、ずっと練習してきたわけだけど。

 

ちなみにこの作戦、一歩間違えると私達が巻き込まれて死にます。そのリスクは決して小さいものではないが、それでも真山くんは賭けることに決めた。なら私も乗るべきでしょう。

 

まあ、救えたかもしれない人を見殺しにして生きるって後々響きそうですからね。自己満足だの偽善だの思う自分は適度に無視しよう。とやかく言ってくる他人が原理上存在しないなら、その行為は好きにやっていいのですよ。責任を負うのは私達二人だけ。共犯者だ。

 

「何か音楽でも?」

 

「大丈夫。集中したい」

 

「了解」

 

静かな自動車が、少し強くなったような雪の中で進んでいく。まだ先が見えないほど真っ白ではないが、いつそうなるかはわからないからな。真山くんは前を見ているので私は周囲や後ろのバスを確認する作業に戻る。

 

別にスキーに行くわけでもないから、荷物はあまり積まれていない。でも行き先にある温泉はちゃんと予約しておいた。でも日帰りである。試験があるので。帰りも運転しなくちゃいけないのは大変だけど。

 

ちなみに何かあった時に答えるシナリオとしては私がいきなり温泉に行きたくなったので高校から付き合っている彼氏を振り回して車を飛ばさせたというものだ。うーん、ほとんど嘘はないな。

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