今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第四幕間 四

普通の私は奇妙で気持ちの悪い笑いを溢しながらよくわからない本を読む、クラスの中でも浮いた少女である。これは主観的な客観視だけど、当たらずとも遠からずだと思う。

 

「……これは?」

 

私が机に積んだ何冊かの本を見て真山くんが言う。

 

「タイトルからわかりにくい本、ないはずだけど」

 

量子力学の超超入門書。複雑系についての古いけれども概説的な本。よくわかる暗号資産。

 

「わかるから聞いてる」

 

「ひとまず、何がわかる?」

 

「……街の図書館から借りた本、だよね」

 

「まあね」

 

本に貼られたフィルムと背にあるシール。高校の図書室のやつとは微妙に違うのだ。まあそれ以前に本の上の部分、天って呼ばれるんだけど、そこに市章のハンコが押してある。

 

「次に備えて?」

 

「真山くんと違って、私が助けになるためには今準備するしかない」

 

「……この内容だと、助けというよりは」

 

「いうよりは?」

 

「なんかこう、実験しようとしてない?」

 

「……否定はしないけどさ、どういうものか知らないと対処できないでしょ?」

 

「和乃さんってあれだよね、なんか悪の科学実験組織にいそう」

 

「能力者を捕まえて電気流したりしてそうだって?」

 

「そういうやつ」

 

我が身を振り返って考えよう。私が倫理を無視してそういう事するだろうか?

 

「……質問というか、考えてほしいことがある」

 

「なに?」

 

「あなたと一人、被験者がいるとします」

 

「もう僕が被験者なのは確定なんだね」

 

「あなた方はくじ引きを引いて、先生役と生徒役に別れます」

 

「嫌な予感がする」

 

「よかったですね、あなたは先生役です。あなたの前にはボリュームみたいなツマミのついた機械があって、今は0。で、ツマミを動かしてボタンを押すと指定された電流で生徒役の人に電気が流れます」

 

そう言ってちょっと文章を検索。まあ一発で出るわな。有名すぎるほどの試験で、これを知らない被験者を集める必要があるからデータに偏りが出るなんていう真偽不明のジョークをどこかで見た。

 

「ちなみにこれがその電流一覧」

 

「……最大のものがXXXってなに?」

 

「さあ」

 

「危険: 苛烈な衝撃ってあって、その上だよね?」

 

「ですね」

 

「……続けて」

 

「生徒役の人が教師役のあなたが指示に従って出していく四択問題を解いていきます。合ってたら次の問題に移って、間違ってたら電気を流してください」

 

「僕が?」

 

「あなたが」

 

「……あの、これって」

 

「間違えたら、一つづつ電圧を上げてくださいね。ちょっと生徒役は苦しみますけど」

 

「駄目な実験じゃないのこれ」

 

「この実験で生徒役には後遺症は残りません。また、この実験での全ての責任者は、まあ私でいいよ」

 

「今すぐこの実験をやめる」

 

「必要なのです。あなたはこの実験を続けるしかありません」

 

「……なら、ボタンを押さない」

 

おや、かなり強情だ。では降参しよう。

 

「という実験が、かつて行われました。もちろんこれは心理学の専門家が記録を取りながら行ったし、生徒役の人には実際に電気は流しませんでした」

 

「あれ、最初にくじ引きで選んでなかった?」

 

「イカサマしてありました。つまり電気を流されたふりをしている役者です」

 

「……この実験って、何のために行われたの?人がどれだけ酷いことができるかみたいな実験?」

 

「その通り。知ってた?」

 

首を振る真山くん。

 

「ミルグラム実験。多くの教師役の人が、けっこう最後まで電流を上げてしまうんだよね。たとえ生徒役が実験をやめたいと叫んでも、壁を殴りつけても、動かなくなったとしても」

 

「……そう、なんだ」

 

「でも、実験の継続を拒否する人もいた。それでも実験中止を生徒役が言い出すまでは続けたんだけどね」

 

「……和乃さんは、最後まで何も言わずに上げそうだね」

 

「かもね。でも、真山くんは途中で止めそう。だからいいんだけど」

 

ループという、自分が何をやっても責任がなくて許されるという状態なのだ。指示されていた場合でも断るなら、自分の意志で明らかに非人道的なことはしないんじゃないだろうか。いやどうだろ、人の目がないと自由に振る舞いやすいのかな?

 

いずれにせよ、私の知る限りでは彼は私にも他の人にも特に危害を加えたりしない善良な青年だ。いいことである。

 

「……もし嫌なことをされたら、言う。その時は止めて」

 

「わかった。できるだけ早く言ってくれると助かる」

 

できるだけ真摯に、私は彼の目を見て返す。いや被検体に心理的反抗されたら良いデータ取れないじゃないですか。そういう問題じゃない?はい。

 

「あと和乃さんって、政府の秘密機関に知り合いがいたりしない?」

 

「不随意のタイムリープなんて、使いにくい能力だし常に監視下に置くわけにもいかないし、私だったら監視者を側においておくぐらいにして実験施設に死ぬまで閉じ込めるとかしないよ」

 

一応この手のオカルトものも嫌いじゃないからね。最近は陰謀論的なものが社会影響出るぐらいに流行ってしまうから楽しめなくなりつつあるけど。

 

「……和乃さんがそうなんじゃないの?」

 

「そういうのは転校生の役目だよ、もとから同じクラスの私じゃない」

 

集団催眠とか使っていつのまにかいた事にするなんてこともSFならできるだろうけど、それをやるのはタイムリープの原因を作った人なんだよな。私の役目ではないだろう。

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