今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 四回目 二周目 五

店内には静かなジャズが流れていた。ジャズでいいんだよなこれ。音楽についての知識はあまりない。

 

「どれにするか決まった?」

 

私はメニューを真山くんに向けながら言う。

 

「フレンチトーストと……あとブラックコーヒーにしようかな」

 

「飲めるの?」

 

「まあ」

 

大人な舌をしているんだな。私は駄目なのでカプチーノにしよう。案外お腹いっぱいになってしまいそうだな。

 

というわけで注文をとって、二人だけの時間が始まる。

 

「……落ち着かない?」

 

「わかる?」

 

「結構視線が泳いでいるから」

 

まあ、だろうね。もちろん純粋に珍しい場所に来たからというのもあるけど、これが特別な意味を持ったお出かけであるということを考えるようになってしまったのも理由の一つ。

 

「……私はさ、私のことを色々話したいし、真山さんから色々聞きたいんだよ」

 

まだ二周目だ。どうせだったら最初に言ってしまおう。もしこれ以降だともう聞いたって言われかねないからね。

 

「話したらいいのに」

 

「何度も面白くもない早口の話を聞かされて、何度も話した内容をまた言わなくちゃいけないって相手が思うかもしれないのに?」

 

「……気遣ってくれてる?」

 

「普通の人はこれを前提知識無しでできるんだろうけど、私は下手だからループだって前提がないと話しにくい」

 

「そうかな」

 

「……そうだよ」

 

私は会話が好きだけど下手だ。というか、私が好きなのは会話じゃないのかもしれない。キャッチボールじゃなくて投げっぱなしのもの。

 

「でも、僕は和乃さんと話すのは好きだよ」

 

「私にループ内でも奢るぐらいに?」

 

ループ内なら資産が減る可能性が少ないとは言え、高校生のおでかけにしてはそれなりの額である。

 

「……うん」

 

「ああそうだ、高校入ってバイトとかやる予定はあるの?」

 

「働いてる時にループしたら、とか考えるとあまり責任の重いことはしたくない」

 

「それって、注意力が切れるから?」

 

人間の集中力が保つ時間には限りがある。私は熱中した対象であればかなり長く取り組むことができるが、かわりに色々なものが犠牲になる。

 

「……そんなところ。あと、働いた時間と給料が見合わないとつらい」

 

「ああ、それはそうだね」

 

私は笑ってしまったが、これは笑っていいものだったんだろうか。彼にとってはかなり重いことだったのではないだろうか。改めて真剣な顔つきをして私は彼に向かい合う。

 

「ループ内だったら、金銭的にも私に頼っていいよ」

 

「……いや、そこまでお金に困っているわけじゃないし」

 

「他人の金で食べるご飯はおいしいのに?」

 

「……そうかな」

 

「あまり奢られたことがない?」

 

「奢ったことも。和乃さんに……あれはループ出た後か」

 

「最後のループが終わったあとだね。意外だったよ、誘ってくれたのは嬉しかった」

 

今となって落ち着いて彼を見ると、頼られるのは悪いものじゃないなと思える。最初は混乱からそれらしく振る舞っていただけだったが、今はなんとかなっている。

 

そんな話をしていると、頼んでおいたものが来た。

 

「……おいしい」

 

もちりとしたパンに、しっとりとした卵と牛乳の味。インパクトが強いし、生クリームとか使っているのかな。かかっているシナモンに負けないぐらいにしっかり卵の味がする。たっぷりの砂糖が入っているのだろうが、それが気にならないぐらいだ。

 

「おすすめしてもらっただけのことはある」

 

そう言って真山くんも一口かじっている。

 

「紹介してくれた子に何らかの形でお礼しなよ、ループ外で」

 

「……うん」

 

ちなみにその子は女子で、私が名前を聞いてもピンと来ない子だった。興味がないと覚えようとしないからな。改善したい。

 

そう言って無言でもきゅもきゅとフォークが動いていく。私の頼んだカプチーノもおいしい。というかフレンチトーストが量があるのでやっぱりこれで十分だった。一人前を二人でわけてもいいぐらいかもしれない。

 

かといって飽きが来る感じでもないんだよな。優しい味わいだ。たまにコーヒーの苦さで口の中をリセットする。

 

「あー、試験勉強できないのは辛いな……」

 

「してもいいんじゃないの?」

 

「高確率で消えるのに?」

 

「……和乃さんは、そういうことを軽く捉えてるの?」

 

「真剣味が足りない、と。終わるんだったら、それなりに重く捉えるべきだと」

 

「そういうわけじゃ……いや、そう。正直に言って、僕はそれで結構悩んだのに和乃さんはすぐ受け入れているような気がして」

 

「未知への恐怖がないわけじゃないけどさ、準備ができることでもないし、私にはどうしようもできないから」

 

もしループなんていうのが彼のついた嘘で、私を騙しているのだとしても、あの日に食べたドーナツの味は嘘じゃない。

 

「……僕にはそうは思えなかった」

 

「何に悩むかは人それぞれだよ。共有したいなら聞くし、そういう話をされたくないなら早めに断って。私だって、あなたに探られたくないことはあるし」

 

こう言っておけば、第二級の秘密と第一級の秘密の価値はより高まる。それが使われてほしくはないけど。

 

「……うん」

 

「ま、あまり暗くなる話をしても面白くないし試験日まで余裕のある真山くんに英語でも教えようか?」

 

そう言って私は教科書を取り出す。英語の授業は余裕があるので何をするかと考えて、どうせだったら真山くんに教えようと準備を重ねておいたのだ。

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