今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 四回目 二周目 六

喫茶店でだらだらしながら英語の問題の話をして、消しゴムを買って、あと真山くんも買いたい本があるというから付き合って、まあそういうわけで夕方である。

 

デートって時間が経つの早すぎる気がするな。それでも先週が夏至だったので、まだ日が沈むまでは時間がある。

 

「楽しかった?」

 

ブランコに揺られながら私は言う。左隣で同じように揺れる真山くんに次周へ持っていってもらうコードはそろそろできるはずだ。生成に時間がかかるわけじゃなくて、ギリギリまでデータを取りたいのでそういうふうになっている。

 

「……うん」

 

「それは何より」

 

ちなみに私も楽しんだ。もしそうじゃなければ世界が終わるかもしれないのに買い物なんてするか。

 

「次もまた、こういうふうにしていい?」

 

「なるほど、ループの中だけで私との付き合いを完結させたいんだ」

 

ちょっといじわるな事を言ってみる。だってループじゃない時にはあまり話しかけてこないんだもの。

 

「……そう、かも」

 

おっと、これは自覚してなかったやつだな。思い込むと面倒なのでフォローしておこう。

 

「私との関係をどうすればいいか、悩んでない?」

 

こういう思春期のあれこれは、まあ確かに悩むことは楽しいしそれはそれで価値があるのだろうが、私はそこまで好きじゃない。自己嫌悪の側面が強いけど。でも、付き合うぐらいはするよ。

 

「……ループの時にさ、一人ぼっちなんじゃないかと思うことがあって」

 

「うん」

 

聞き手に回ろう。私の借りは十分残っているので、彼の話を聞く程度では返済しきれない。

 

「それを受け入れてくれるというか、わかってくれる人ができたのは嬉しい」

 

「いいことだよね、それは」

 

「そうなんだけどさ……なんていうか、ループするのをいいことに騙しているというか、誠実じゃない気がして」

 

「少なくとも私に対しては当てはまらないかな、それは」

 

「……どういうこと?」

 

「私はビジネスライクとまでは行かないけれども、損得勘定があった上で君と今日付き合った。まあ私側の得っていうのは休日を楽しく過ごすってことだけどね」

 

さもなくば昼まで寝て、軽く何か食べて、適当に少し本を読んで、それでまた寝るみたいなかんじで一日を無為とまではいかないまでもあまり良くない形で使っていた。

 

「……それだったら、いいんだけど」

 

「だからさ、誠実にあろうとするのは自分のためにしなよ。真山さんはたぶん、ちゃんとしないと辛いタイプだろうから」

 

私はどうなんだろう。むしろ他人を責めたりしそうだな。真山くんの自罰的な性格は、まあ美徳とは言わないまでも悪徳ではない。

 

「じゃあさ、和乃さんにどうせループするからって何してもいいの?」

 

「それで君が後悔しなくて、私が合意するならね」

 

それがまあ何であれ、この二つは重要だろう。合意があったところで時間が経ってから後悔した経験があるから難しいのは知ってるけど。

 

「……手を、触るとかでも?」

 

「待って、本当に高校生男子?」

 

私の知っている高校生男子の概念があまりよろしくない出典由来なのは置いておくとしても、手を触りたいはまあ健全な部類に入るだろう。

 

「……それ以上したら、たぶん僕は後悔する」

 

「ま、いいことだけどね」

 

そう言って私は足を地面に擦り付けるようにしてブランコの揺れを止め、彼の方に左手を伸ばす。

 

「触っていいよ。私はその間にちょっと準備をするから」

 

実は今回、正確なループのタイミングは不明だ。二十分ぐらいの範囲には絞れているけど、真山くんが終わる直前の時計を見ていないので詳しいところは不明。

 

「準備?」

 

「ほら、次の私に伝えてもらうコード」

 

そう言ってポケットからスマホを取り出す。ちょっと時間危ないかもしれないな。

 

「ああ、覚えられるかな……」

 

「間違えすぎると意味が伝わらなくなるから注意してね」

 

「ってことは、少しだけなら間違えてもいいの?」

 

「QRコードって少し隠れても大丈夫でしょう?ああいう感じ」

 

リード・ソロモン符号について頑張って勉強したのもあって、十文字のうち二文字までなら間違えても問題ない。なお実装後のコードは自分でも訳がわからなかったが、ちゃんとテストケースは動いたので良しとしている。

 

「わかった」

 

彼がそう言ったのを確認して、専用のメールアドレスに本文一文字のメールを送信。これの返信で帰ってきた十文字を貼り付けて、真山くんに送るわけだ。ここはあまり自動化できなかったけど、どうせ私にとっては一回しかやらないからいいって割り切った。

 

なおその間、真山くんが私の左手の指をぎゅっと握っていた。痛くはない。もっと指絡めたりしてもいいのに、と思ったがこれで満足しているならいいだろう。

 

「受け取った?」

 

「うん」

 

真山くんがスマホを見ながらコードを覚えようと呟いている。もしこれで終わらなかったら、帰りに牛乳を買おう。

 

「……話しかけない方がいい?」

 

「うん、ごめんね」

 

「いいよ。私は空でも見てるから」

 

まだ青空だ。左手から熱が伝わってくる。

 

ええ、繋いでもらってよかったなって思っています。怖いですもん、終わるの。それは注射とかみたいなもので、実際に終わってしまえばなんともないものかもしれないけど、それでもどうしようもなく逃げたくなるもので。

 

だからこそ、誰かの温度を感じながら終われるならそれはそれでいい。もし終わらなかったら、日常に戻るだけだ。

 

結局私は人間関係が好きなんじゃないか、と思いながら、軽く目を閉じて時間が経つのをのんびりと待つ。

 

彼に触れたのは、今の私が初めてなんじゃな

 

[二周目終了]

 

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