今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 四回目 三周目 二

あくびを一つ。校門をくぐる。

 

昨日は真山くんの面白いループネタを聞かせてもらった。ループする瞬間にジャンプすると楽しいらしい。そういうものもあるんだね。

 

というわけで、遅刻ギリギリの時間だ。睡眠時間はいつもより短かったが、起きれるものなんだな。私はあまり朝に強い方ではない。

 

ざわめく教室の後ろ側を通って、席について教科書を取り出して色々と準備をしていると、真山くんが近づいてくる。

 

「そろそろ朝のホームルームだよ」

 

「和乃さん、土曜日の予定って空いてる?」

 

話合わせるつもりあるのか?まあこっちが調整するけどさ。

 

「知らないの?」

 

「……空いてた」

 

私のことだ。どうでもいいことなら忙しいとか言うんじゃないかな。いや真山くん相手にそれをするか?少し考えるがわからない。まあともかく今の私の予定は問題ない。

 

「なら空いてる。なに、デートにでも誘ってくれるの?」

 

少し間があって、彼は小さく頷いた。本当かよ。というかこの調子なら次は2を送れそうだな。

 

「前もそういうことしたの?」

 

「……一緒に喫茶店に行った」

 

少し思考。というかあれだな、私は完全にデリカシーとか雰囲気とかぶち壊した気がする。まあこれに付き合えない人とはちょっと、ね。もう私は自分を変えるとかいう破滅的なことはしたくないのだ。

 

「おいしかった?」

 

「おいしかった」

 

「なら行く。前の私が楽しんでなかったら別だけど」

 

真山くんが私を傷つけるというか悪意を持ってこういう誘いをする印象はない。まあ印象で語れるだけの経験があるのですかと問われると失敗のほうが先に思い浮かぶし思い出したくなくて苦しむのだが。

 

「そんなことはなかった」

 

「そう」

 

気がついたら脚が揺れていた。止める。

 

「そういえば、コードの解説を前の周に次に頼んでって言われた」

 

「いいよ、でも時間」

 

私がそう言うとチャイムが鳴った。いつものように授業が始まる。私ですか?真面目に期末試験に向けて勉強ですよ。これから始まる数学については理屈はわかったので計算だ。

 

章末問題を解いている最中にこんな事やってもリセットされるなら意味がないんじゃないかとか思ってしまったが、私はそんな誘惑には負けない。一問解いて普通に飽きるから。

 

そう思いながら外を見て、どうやって昨日受信したデータについて説明するかを悩んでいたら授業が終わってしまっていた。

 

「あのコードって、どういうものなの?」

 

チャイムが鳴ってすぐに真山くんは私の机にやってきた。

 

「まず一つ、少なくない確率で真山さんが現代量子力学をぶち壊す存在だってことが明らかになった」

 

私はまずスマートフォンでとあるウェブサイトを開く。

 

「……なにこれ」

 

「色々な場所のガイガーカウンター、まあ放射線測定装置のデータを出しているところ。昨日の夜の分のそのデータを寄せ集めて、まあ雑に言えば検出個数を128で割った。その余りは、前回の周と一致している」

 

「……当然じゃないの?放射線については詳しくないけど、何も関わってないなら同じことが起こるんじゃ」

 

「もしこれが正しいなら、量子力学の解釈の中でもかなり変なやつを採用しないといけなくなる」

 

まあそもそも心身二元論みたいなことをやってるタイムリーパーを前に物理法則がどうこう言うのも馬鹿らしい話ではあるがな。

 

「……よくわからない」

 

「量子力学って言ってわかる?」

 

「名前は聞いたことがある。ええと、波であり粒であり、みたいなやつだっけ」

 

「そのどっちもの性質を示す量子っていうのがあって、それが世界を作っているっていう物理の理論」

 

ここから先の私の説明はいい加減だ。まあ別に物理の専門家がいるわけでもないんだし。

 

「シュレディンガーの猫とかも量子力学だっけ」

 

「そう。そのたとえ知ってるなら話が早いな。前の周で七個の猫入り箱を用意した。重ね合わせの状態にあるから、猫が死んでいるか生きているかわからない」

 

「それって箱の中にいるから見れない、って意味じゃないんだよね」

 

「箱の中を見るまではわからないってなってる。覗き見をする、って言えばいいかな。そんな感じの実験をしたけど、その結果本当に決まってないらしいことがわかった」

 

ベルの不等式の破れの実証実験なんて私でもちゃんとは理解していないので、端折りまくってしまおう。

 

「……どういうこと?」

 

「隠れた変数理論っていうものがある。もう事前に箱の中身が決まっているって感じ。でも、もしそうだとしたら、実験データをある方法で計算した値は2以下にならなくちゃいけない。そうじゃないと箱の中身が決まっていないで、開けた瞬間に決まるって話になる」

 

「……うん」

 

「でも実験をしたら、その値が2を超えちゃった」

 

「……そんなこと、あるの?」

 

「あったからノーベル賞が出た。でも、タイムリープしても猫の生死のパターンが同じになるってことは隠れた変数理論に近くて、でも実験と辻褄が合うようにってすると超決定論みたいなちょっと無茶ではみたいな物を持ち出すしかなくなって……」

 

そこまで言って、真山くんが理解をとっくに諦めていたことに私は気がついた。まあ私もわけがよくわからなくなってたしね。

 

「結局、僕に何の関係があるの?」

 

「端的に言えば真山くんがサイコロを振らない限り、量子力学的サイコロがループ中は同じ目を出してしまうので乱数生成が面倒になった」

 

もしうまく行ったらUSBで繋げられるタイプのガイガーカウンターを買おうと思っていたのに。

 

「……僕がサイコロを振ればいい話では?」

 

「そうなんだけどさ」

 

私はちょっと不満げに溜息を吐いた。まあ、別にそこまで世界は変わっていない。土曜日に私を含めた真山くんの意識以外の世界が終わる可能性が高いってことに比べたら、自由意志が否定されることぐらいなんだっていうんだ。

 

ともかく、私は大学の志望分野で物理系は選ばないようにしようと誓った。

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