今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

29 / 200
高校一年生 四回目 三周目 三

「何見てるの?」

 

一応何度か話したことがある女子がイヤホンをつけた私に話しかけてくる。

 

「地方競馬」

 

昨日のやつの録画があったので見ている。

 

「好きなの?」

 

「ちょっとこの試合が気になってね」

 

「ふうん」

 

そう言って彼女は去っていった。ちなみにこの人が私が真山くんの次に仲のいい人です。

 

人の気配がない競馬場のコースを走る馬たちの動画は一分程度で終わった。結果は一着になったのは三番人気で5.4倍。

 

コードに含まれる情報の中にはループ内で最も新しい日本国内の競馬のレースで勝った馬番号も入っていた。メッセージで送られたとおりの馬だった。

 

「かといって、これを使うのもな……」

 

レースが始まる二分か一分か前まで買えるので、資金確保には使えなくもない。ただ、あまり連発するのも良くない気がするな。

 

問題は私が未成年だってこと。民法改正で十八歳で成人になっても公営ギャンブルは二十歳からなのだ。どうにも奇妙な理屈である。

 

「地方競馬にバラバラに分散して定期的にやって、回数的には負けてるけど金額的には勝ってるようにするとか……?」

 

とはいえこういう取引はオンラインだと銀行口座が必要で、対面だと第三者を挟むか顔を晒すかする必要がある。最低限交通費を取り戻してご飯を食べてとなると、普通のお出かけになってしまうよな。

 

私と真山くんの関係がもしあと数年続いたとしたら、そういうことをする日も来るのだろうけれども。

 

「って、もう授業か」

 

教室に歴史総合の先生が入ってきて、挨拶もなしにいきなり授業を始めていく。慣れたものだ。期末までに中世を始めたいらしい。

 

古代と中世の切り替わり、西ローマ帝国の滅亡。いやなんで残った東側にローマがないのにローマを名乗り続けてるんだよ。そんなツッコミをしながら、メモ書きみたいなノートを作っていく。

 

ええ、これが全部徒労である可能性ぐらい理解していますよ。だってそうでしょう、と私の思考が悪い方向に回り始める。

 

世界の運命は全部定まっている。自由意志はない。量子力学すら、真山くんのタイムリープの前では決定論的になってしまう。

 

まあ、だからといって努力が無駄にはならない。映画の結末が決まっているからと言って、映画を見ない理由があるだろうか。

 

銀幕で、というか今日では液晶ディスプレイの中で苦しみ、選択し、そしてその結果を受け取ることになる登場人物たちに私達は感動するじゃないか。

 

幸いにも、この宇宙は伏線がちゃんと機能している。私が物を投げればそれはしばらく上昇してから落ちてくれるし、いきなり落ちていたものが私の手の中に入ってくることもない。

 

映画以上にお約束がしっかりとしている以上、努力はなんだかんだいってちゃんと報われてくれる場合が多い。

 

はい、というわけでこの話はこれで終わり。例えすべてが決まっていたとしても、そこには責任を問う余地とかは残るのだ。

 

で、問題はもう一つの方。私を含む世界が明日、土曜日で終わってしまうかもということ。もし観測者が真山くんしかいないのであれば、それ以降の世界は別に存在しなくてもいいわけで。

 

あと一つ、衛星写真から得た雲の情報は最終日に出る。あれはできるだけ撹乱時間を長くしたいのでそうしたのだ。

 

というわけでそれを確認して今周はおしまい。天気予報は変わらないかもしれないし、微妙に変化するかもしれない。地上での大気の変化がどこまで大規模な雲の動きに影響するかは不明だ。

 

色々と気象学の論文とかも読んだけど、結構意見が別れていた。あるタイミングで影響が大きくなる可能性はあるっていうのはわかる。

 

例えば台風。あれの動く進路は、もとの熱帯低気圧が持つ風の流れに結構影響を受けるせいで予測がかなり難しいらしい。けれども、この近くで生まれる風の流れは少ない。

 

そういうのを考えると衛星から見える範囲では何も変わらないとなってもおかしくないが、まあこれは明日の私に任せよう。

 

なんてことを考えていたら授業が終わった。ぼんやりとしていたのでしばらく気がつかなかった。ノートを整理して教室を見渡すと、なぜかベランダに真山くんがいた。

 

「何かあったの?」

 

ここに真山くんがいたのを見たことはない。少なくとも、私の記憶の限りでは。

 

「いや、前の和乃さんがここにいたなって」

 

「へえ、どんな話をしたか聞いていい?」

 

「明日のデートで行く喫茶店について」

 

「……デートなんだ」

 

「昨日、和乃さんがそう言ったでしょ」

 

「そうだったかな?」

 

言ったような気がするな。言ってた。間違いない。私の記憶がいい加減なだけだ。決して恥ずかしいからなかなか出てこなかったとか、そういうのじゃないです。

 

「待ち合わせは十一時ぐらいで。僕の家はここだから、和乃さんが迎えに来てくれない?」

 

そう言って真山くんは行き先の喫茶店と家の場所とにピンを立てた地図をスマホに映す。

 

「……そうだね、いいよ」

 

一瞬だけ、なんで私が迎えに行かなくちゃいけないんだと思ってしまった。しかし地図を見ればたしかに私にとっては通り道なのである種合理的なものだった。

 

真山くんを疑いすぎなんだろうか。彼だってループのプロだ。まあ、私がちょっと精神不安定の可能性のほうが高いかな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。