『前の私はどういう服だった?』
デートのための服を選ぶにあたって、私はちょっとずるい手を使った。いやこれデートでいいのか?ただの同級生とのお出かけではないのか?
『ボーイッシュな感じだった』
『了解』
なるほど、なら逆にしよう。と言っても私の服のレパートリーはそう多いわけじゃないんだけどね。普段着の地味なワンピースをどうにか上着の色とかを調整してそれらしく。
おまけに化粧もしてしまおう。あまり得意じゃないんだけどね。ビューラーでちょっとまつ毛を上げて、ちょっとだけ日焼け止めを塗って、あとはどうするかな。
まあドラッグストアでなんかいい感じの色つきリップでも買おう。そういうわけでかなり早めに家を出る。まあどうせ悩むだろ。
そういうわけでちょっと寄り道。もともと目的の喫茶店に行く時に真山くんの家に寄り道するのだが、さらに寄り道だ。
「うーん」
そうして到着して、私は自分の予想の浅はかさを知った。何だこの量。変な色もあるな。というかここ街のドラッグストアだよね?専門店じゃないよね?
どれを選べばいいか、正直分からない。どうせ真山くんにもわからんだろと思ったが案外そういう知識ありそうだもんな。かわいいところあるし。そういう問題じゃないぞ。
私は意を決してちょっと薄めの……なんて言えばいいんだろう。赤めのピンクっぽいやつを選んだ。何が違うのかわからないが同じ色がいっぱいあったし、売れ筋なんでしょう。
まあ、そういうわけで待ち合わせの時間よりちょっと早めに到着してしまった。そして真山くんはすでに待っていた。どういうことだ?
「……綺麗だね」
そう言って真山くんは私をじっと見る。視線に負けて目をそらしてしまった。
「そうかな、久々の化粧だからよくわからないけど」
デートだというからちょっと気合入れるためにやった。コスプレに近い。
「和乃さんって、あまりそういうことしない雰囲気だったから少し意外」
「どうせ私は飾り気のない人ですよ」
別に美人さんってわけではないからな。見るだけで嫌悪感が出るとまでは言わないけれども、そんな見る人が振り返るって事があるわけではない。
ちょっとニキビもできるし、別に体重とかにも気を配っているわけでもない。綺麗であろうとすることにそこまで価値を見出していないし、他にやりたいこともあるし。
「そういう意味じゃないよ」
それはそれとして、綺麗って言ってもらえるのはいいものだ。コストを加味すればたまにでいいけど。
「人間、化粧すれば誰だってそうなるよ。真山さんもやってみる?」
「最近は就活でするって人もいるからね……」
単純に、人間は特徴的な点に目が向いてしまう。赤い唇、開いた目。そういうただの現象だ。とはいえそれをわざわざ言うほど私は無粋ではない。
「真山さんは似合うよ。上手な人にやってもらいな」
悩む少年の背中を押してあげるのは同級生の少女としては義務みたいなものがある。
「やっぱりいつもの和乃さんとは違う」
「そりゃ君のためにわざわざ着飾っているんだから」
調子のいいこと言うなと怒られそうであったが、私から見てはっきりと分かるほどに真山くんは楽しんでいる。ならいいだろ。
「前の和乃さんも綺麗だったけど」
「ボーイッシュな感じ、だっけ?」
「そう」
「多分動きやすさを優先しただけだと思うよ。今の私だってスニーカーだし」
一応ちょっと踵が高めの黒い靴もあるんですけどね、靴ずれを起こすので使いたくない。
「……本当だ」
「まあ、着て欲しい服があったら言ってよ。ループ内なら自腹で買うからさ」
もしそのループが最終ループだったらまあ、その時はその時で。
「あ、そうだ。お金持ってる?」
「……ある程度はあるけど」
「牛乳を買っておくといいと思う」
「……前の私からの伝言?」
「そう」
「何を託してるんだ私は」
まだ三周目だ。ループが終わるのは六時ちょっと過ぎだったはずだし、終わらなかったら買いに行こう。
というか、これ多分冷蔵庫の中にないやつだな。あるいはちょっとしか残っていないか。今周の私はそこらへんを確認する気力もなかった。
「……ところで、質問していい?」
「いいよ、答えられる範囲ならだけど」
「どうして今周は化粧をしているの?」
「……ああ、それはね」
死ぬのが怖いからとか、そういうことを言うのは良くないよな。前にちょろっと聞いた話ではあるが、真山くんは私を含めた世界を自分のせいで終わらせているんじゃないかって心が追い詰められたことがあったらしい。
私だってまあ、開き直るのには時間がかかるだろう問題だ。それを私が助けたのは彼が私との仲を良くする原因の一つになったらしい。いいことしたなその時の私。
「あなたとのデートだから」
嘘は言ってないよ。嘘は。相手が真山くんだからこういうことするのはある。異性とか同性とかを気にするのはあまり良くないとは思うけど、まあそういう感情は否定しないよ。
「……よかった」
「なに、前の私はそういうこと言ってくれなかったの?」
「あまり」
「ふうん、それはそれは」
私は彼の左側を足取り軽く歩きながら、前の周の私に対してちょっとだけ優越感を持った。