喫茶店でだらだらしながら英語の問題の話をして、一緒に本屋に行って互いのおすすめを紹介し合ったりして、あとすっかり忘れていた消しゴムを買って、帰り道。
ちなみに終わるとしたらそろそろである。終わらなかった場合にはコンビニで牛乳を買えるというタイミングだ。
「いやー、今日は楽しかった」
ええ、足は痛いですし疲れてはいます。しかし、高校入ってから一番楽しい一日だったのかもしれないな。
別になんてことはない、同級生とお出かけしただけだ。それなのに、私ははしゃいでしまっている。できれば今周が最終周だといいけど、まだ三周目だ。
「よかった」
「先周とは違った?」
「……違ったけど、同じだった」
言語化をサボったな。まあ、私だって雰囲気で何となく理解できている間柄というものはいいものだと知っている。もちろん、誤解が蓄積していなければの話だけど。
「飽きた?」
「そういうのはない」
「なら、何より」
ええ、わかってますとも。これは終わるかもしれないから楽しんでおこうってものだってことぐらい。
「今回は、コードを伝えなくてもいいの?」
「同じ文字列を送っても意味がないから。で、内容を変えるとなるとちょっと技術的に無理」
実際は、喫茶店で別れてすぐに家に帰ってコード組み直して仕様と一緒に次の周の私に伝えてもらえば問題はない。ただ、それをやりたくはなかった。
「ただ一言でいいよ。同じだったって伝えて」
進展したってことは、今周は伝えなくてもいいか。もし面倒なのが嫌なら、真山くんは何も無かったかのようにループを出ることができる。
「わかった」
そう言う真山くんに比べて、足がどうしても遅くなる。ここまで努力というか行動して、結局何も無くなってしまうのは嫌だ。
「……どうしたの?」
「いや、大丈夫。私たちの問題だから」
記憶はある時期まで共通していて、ループ内ではそう性格も変わらない私たちは、どうせ真山くんに対して好意を持っているのだろう。一緒に慣れないお出かけをしても楽しめる程度には。
「本当?」
「なに、毎回毎回私から呪いの言葉でも聞きたいの?」
たぶん私なら、今の真山くんを刺す言葉を吐ける。どの周でも。この考え自体はループ前から練っていたものだ。
「……そうなら、聞きたくはない」
「どうせ言うなら一回だけにしたいし、その私は私たちで共有したいんだよ」
だから、私は彼を待った。結局あまり話す機会はなくて、今になってしまったが。
「どういうこと?」
「ループが終わったら、ちゃんと私に何があったか説明してくれる?一言一句とまでは行かないけど、何を意識していて、何を変えて、私に何をしたか」
「……いいけど」
「車道側を歩いたことも、私と以前に本屋に行って話した内容を使ったことも、私にどういう感情があって誘ったかも、言える?」
「……恥ずかしい」
「わかってる。私だって、あまりこれを言いたくないんだよ。でも、私にはあまり時間がないからさ」
真山くんの主観で消える私だからこそ言えるものだ。もしまだ続くとしたら、正直ちょっと辛い。明日は休みだけど月曜にどういう顔をして学校に行けばいいかわからなくなってしまう。
「私は楽しかった。たぶん、今周の私は大抵の形でなら真山くんに誘ってもらって喜ぶと思う。だからさ、ループ外の私にも同じような経験をちゃんとさせてあげてよ」
「……もしかして、怒ってる?」
「そうかもしれない」
ループじゃないと話しかけてこないっていうのは、真山くんが純粋に他の人との関係を優先しただけだってことは理解している。いやこれは好意的に捉え過ぎかな。
とはいえ私から声をかけなかったのが悪いと言えばそうである。なんで自分から行動しないで他人から動いてほしいって願うんですかね。
「……何に怒っているか、聞いてもいい?」
「いや、これは私も悪いんだけどループ関係なく誘ってほしかったってだけ。単純に寂しいのと、他の人と楽しそうにしているのに妬いてるだけだよ」
どんな表情をしていいのかわからない。声色も狂いそうだ。
「……だったら、言っていなかったことがある」
「何?」
今周の私じゃなくて終わった後に言えよ、と一瞬思ったが伝えたくないことなのかな。
「前の和乃さんに、恋人がいるかどうか聞いた」
「記憶にないな。どこらへん?」
「前にループで世界が終わっているんじゃないかって思い詰めた時に話してもらったときの周」
「あそこね、なるほど」
ちなみに良くわかっていない。どうせバレないからいいんだよ。
「……ところで、私ってそれに返事をした?」
「ループから出たら教えるって言われた」
「で、聞けなかったと。私ぐらいに臆病だね」
これはまあ、言ってもセーフなラインだろう。ダメだったらループ前に謝ろう。正確に時計見てないからそろそろだとしかわからないけど。
「……いるの?」
「ループ外で聞いて。その質問が意味するところを理解しないほど無粋じゃないつもりだから」
「……いや、そこまでの意味じゃなくて?」
「ん?」
私は足を止めた。牛乳を買う予定のコンビニの看板が視界に入った。
「ハグ、したかったんだよ。その時に」
笑おうとして、私はうまく声が出ないことに気がついた。乾いた息が喉を通る。
「それぐらい、言ってくれたらしたのに」
なんとか出した声はたぶんかすれていた。甘えたがりなんだな。私もかなりそうだけ