ベッドでぼんやりと少し古びたスマホを見ていると、枕元から通知音がしてびっくりしてしまった。
なにかと思ったら着信だ。発信者は真山翔太。連絡先に入っている数少ない同級生である。
「なに、始まった?」
半ば冗談交じり。どうせ間違えてかけてきたんだろ。
「四周目」
「へぇ」
私はパソコンを起動しようとして、一旦止まる。
「コードは伝えてもらった?」
「同じだって」
「……マジかよ」
あまり年頃の乙女が口にするべきではない言葉だな。まあいい。なら今周できることは少ないかな?
というか確認されてすぐか。二回目でコードを作って、三回目で確認と照合。ってことは超決定論が正しい可能性があって、競馬でボロ勝ちできて、天気は真山くんの行動ではあまり変わらない、と。
「改めて確認。ごめんね何回も。期間は?」
「ついさっきから土曜日の夕方ぐらい」
始まってすぐ電話をかけてきたか。慣れてるわけだ。
「はーい。ってなると終わるまで五周ぐらいかな」
今日は水曜、そろそろ木曜だから三日ぐらい。前に聞いた話からなんとなくだが周期性は掴んでいる。
「そうだね、今周が最後になってもおかしくない」
傾向がないかとかグラフにしようと思ったけど、回数が多い場合に数えないようにしていたりしたのもあってうまく行っていない。あとはけっこうばらつきがあるらしいしね。
「なにかループのうちにやっておきたいことがあるならしときなよ」
この一ヶ月弱、私と真山くんの距離はたまに話す友人程度であった。それなのにコードをちゃっかり聞いているってことはループ内だから話しかけたな?
別にそれが悪いことだとは思いませんとも。私は孤独を愛せる乙女なので。ただ、まああまりいい気分になるものではないな。
「……終わったら、しなくちゃいけないことがある」
「へぇ、何?」
「今回のループのことを話して、前の回のことで言っていなかったことを伝える」
「……へぇ、具体的には何?」
声が低くなってしまう。前の回。となるとあの十五分程度、ドーナツを奢ってもらった日にあったというあれか。
「……和乃さんに、恋人がいないのかって質問をした」
「なんだ、そんなことか」
想像よりよっぽど純粋で、素直なやつだった。正直殺されてるぐらいのことまでは想定に入れていたからな。
「そんなこと、なんだ」
「あっこれはごめん、私の想定が過激なだけ。真山くんの質問を軽んじているわけではない。ごめんなさい」
真山くんには素直に謝れるんだよな。なんだろう。どうせ私の面倒な部分を知っているからとか、そういうあれだろうか。
「……過激って、どういうのを想像していたの?」
「まあ突き落とすであるとかが基本かな。刺すのは準備が大変だし、もし何かあったときの言い訳もしにくい」
話を聞く限りは真山くんはそういうことしそうにない気配がしたけど、私の感覚が信用できないっていうのは中学生の頃に文字通り痛いほど思い知ってるからな。
「あの、僕は和乃さんも他の人も殺したことは……少なくとも、この手ではない」
「……ループ自体がそうだって可能性は気にしないほうがいいよ」
だって真山くんは意識が連続するものね。ループについて知ってる部外者は私だけだから、私だけが消える恐怖を抱えればいいんだ。
そこまで嫌な気分ではないけどね。たぶんこれは結構歪んだ感情だと思う。自分だけそういう苦しみを持っているって捉えようによってはいいじゃないですか。
「……わかってる」
「そう。じゃあ、詳しい話は明日でいい?」
「和乃さんって、眠い?」
「まあそうだね、そろそろ寝るつもりだったし」
「……だったら、今まで悪いことしちゃっていた」
「夜更かし寝落ち通話でも誘ってたの?」
「……そう」
予想しやすいというか、素直というか、本来は冗談のつもりだったのに失敗したというか。まあいいか。
「じゃあいいよ、付き合ってあげる。今周で終わりなら君の懺悔を聞くし、終わらないなら次の私に話すときの予行演習でもしない?」
もし終わらないんだったら、今周の私は本来聞けなかった可能性のある話を知れる。もし終わるんだったら、時間の節約でいい。
「ちゃんと話すのは、終わった後にする。だから、聞いてくれる?」
「いいよ。でもちょっと待ってね」
スマホをスピーカーモードにして、充電器に挿して、部屋の電気を消して、ボリュームを調整。向こうにはガサゴソとした音が聞こえたはずだ。
「大丈夫?」
「もういいよ。始めようか」
ベッドに入って準備は万端だ。
「和乃さんって、恋人いるの?」
「いないよ」
「……ごめん、さっきの質問を忘れてくれない?」
あっ何かミスしたんだな。他の私がループから出たらその質問の答えを言うみたいな約束をしてたな?すまないね他の私たち、初めてを奪ってしまったようで。
「何か言った?」
「……何も言ってないよ」
「だよね。ところで、前のループで私に質問したってどういう流れでそうなったの?」
「ええとね……」
私は軽く目を閉じて、電波越しの落ち着く声に耳を傾けた。