今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 四回目 四周目 二

正直言って、眠気はあまり感じない。問題はそこじゃない。

 

校門をくぐって、ぱきりぽきりと指を鳴らす。たぶん今までの周のなかで一番やる気のある登校じゃないかな。

 

「昨日は、良く眠れた?」

 

私はできるだけ静かな声で、真山くんの後ろから囁くように言う。

 

「……怒ってる?」

 

「ネタバレを食らったからね、あまりいい気分ではないよ」

 

本当ならループが終わって、そこで告白のシーンとかに移るべきだろ。私はなんだかんだでそういう演出は好きなのだ。

 

「ごめん」

 

「そうじゃない。まだ次の周がある」

 

「……えっ?」

 

意外そうに彼は私を見る。何だよ。いままでループをいいことに楽しい青春を送ってきたのはお前だろ。

 

「まず確認。今周が終わりじゃない可能性は?」

 

「……それなりには、高いと思う。終わるまで五周か六周だと僕は読んでいる」

 

「よろしい。なら、それを前提に動こう」

 

目標は最終周の私にクライマックスとしていい青春体験を与えること。

 

「和乃さん、なんか張り切ってない?」

 

「……いや、たぶん今までの周の私たちが隠していたことを言っちゃったからさ」

 

ハグをしたいから、恋人がいないかどうかを聞いた。微笑ましいとまでは言わないけれども、いじらしい感情である。

 

それは報われるべきだ。私はそれに報いる必要がある。いやだからと言って義務感で関係性をやっているわけではないですけどね?そこは誤解しないで。

 

「もう私とあなたは共犯になってしまったんだから、覚悟はしておいて」

 

私は他の私とは切り離されてしまった。いやでも秘密を知って親密な関係になるっていいですよね。やったぁ。

 

「……はい」

 

「ひとまず、昨日私が聞いた以上の情報ってある?」

 

ブラックが苦かったのでこっそりカプチーノに次の周で変えたことまで聞いたのだ。意識的に隠していることは少ないか、あるいはそもそも話しちゃまずいやつかのどっちかだろう。

 

「……今のところは、思いつかない」

 

「わかった。作戦会議は土曜日でいい?」

 

「……何の?」

 

「告白の。ああ、って言ってもここでの告白は単なる好意の表明であって」

 

「和乃さん」

 

「はい」

 

そこまで言われて自分が柄にもなくこういうことで興奮というか浮足立っていたことを理解した。

 

「僕は和乃さんが好きだけど、そういう方法で伝えたくはない」

 

小声で周りをちょっと確認しながら言う真山くん。噂になると面倒ですからね、すまない。

 

というわけで廊下に移動。まだ始業までは時間がある。

 

「伝わっているかどうかだと今の私でもわかるぐらいに伝わっているよ、問題は表明するかどうか」

 

「……そう言われると、恥ずかしいな」

 

「我慢して。私だって謎のテンションでそこらへんを乗り越えているんだから」

 

なのでもし今周で終わってしまった場合、私は土曜日の午後に枕を抱えてゴロゴロと転がることになるのだ。

 

「まず落ち着かない?」

 

そう言われて深呼吸。全身がこわばっている。過緊張かな。

 

「……うん。授業終わったらでいい?」

 

「それがいいと思う」

 

そういうわけで、朝のホームルームから高校生らしいなんてことのない一日が始まる。

 

この回が終わったら、私と真山くんの関係は進展するだろう。もちろん、それは直ちに私と彼が恋人関係になるというものではない。

 

ただ、ハグぐらいは頼めばできるぐらいの関係になるといいな、というだけ。私だって誰彼抱かれたいわけじゃないですよ?正直過去の思い出したくない記憶を頼りにする限り、特定の相手じゃないとあまり乗り気にはなれなさそうだ。

 

逆に言えば、私が心許しているような相手なら楽しめてしまうわけで。真山くんならたぶん、いける。

 

いや浮かれてませんって。こういう面倒な感情を表に出して関係性を整理するっていうのは普通の間柄ではできませんし、場合によっては関係を破壊的に変えてしまいますからね。

 

だから、これは真山くんがループの中にいる今だけしかできない、千載一遇とまでは言わないけど珍しい機会だ。

 

面倒だって思われないかな。もしそうなら、もう少し次からは距離を取ったほうがいいって彼に言わないと。

 

まあそういうふうに浮かれていたら、結局授業がいつの間にか終わってしまっていた。

 

「……落ち着いた?」

 

「土曜にデートに誘っていい?」

 

「……何で?」

 

「誘われっぱなしは性に合わないから、じゃだめかな」

 

エスコートしたいという欲だ。幸いにも、真山くんは前の二周でやったデートが案外気に入ったらしい。ならそれを再現するだけで最低限の品質は保証できるわけだ。

 

「それは、嬉しいけど……」

 

「なら決まり。今周の私はちょっと強めで行くのでよろしく」

 

これは自分に対しての宣言でもある。ほら、真山くんみたいな人は、といっても私もそうだけど、誘ったりしないと動かないところがある。

 

今まで私を喫茶店に連れて行ってくれたのも、ループがあるとか言ってもかなり緊張するものだったはずだ。だからさ、それぐらいはこっちに負担させてよ。

 

そういうことを本当は言いたかったんだけど、口はうまく動かなかった。かわりに出てきたのは、待ち合わせの時間の確認の話だった。

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