「真山くんに告白されたって?」
「……なんで噂が回るのが早いのさ、それに誤解混じりだからねそれ」
のんびり本を読んでいる私に声をかけてくる彼女は私が真山くんの次に仲のいい人である。友達少ないのよね。
「誤解?」
「真山くんはまだ私に告白してないよ」
「へぇー、まだ、なんだ」
腹立つ言い方だなぁ。まあ私は真山くん相手にそれ以上のことをやっているので貼り付けたスマイルで対応である。
「そういうこと。まあ他人の恋バナは楽しいよね」
「もちろん。でも、和乃さんはあまりその手のやつつっつかないほうが良さそう。じゃあね」
そう言って彼女は去って、また別の女子のグループに入っていった。たぶん斥候役だ。
かくして昨日の会話は噂好きの乙女たちに話題を提供することになったのである。というかタイムリープの話も聞こえた可能性があるだろ、問題はそっちじゃないのか?
まあちょっと聞いただけではわかりにくいからな、と頭を切り替える。なにせ告白に比べてタイムリープは証拠が残りにくいし話題にもなりにくい。とはいえちょっと緩みすぎているな。警戒しておこう。
そういうわけでチャイムが鳴り、授業が始まる。私?一日経っても上の空ですよ。
真山くんが私にある程度の好意を持っているのは理解した。ハグをしたい程度には頼りたいことも聞いた。
いや私だって思春期の劣情を理解しないわけじゃないですよ?そういうものと好意っていうのは単純に切り離すのが難しいこともわかってます。
とはいえまあ、私の方は頼られて悪い気はしないわけで。別にハグをしちゃいけない理由もない。恋人とかいたら相手との関係や契約によってはややこしくなるかもしれないけどさ。
そうは言っても、どうせ真山くんはループで心が辛くなったときに頼れる都合のいい相手が欲しいだけなんじゃないか、と考えてしまう自分もいる。ため息を一つ。変なことを考えないように真面目に授業に集中しよう。
いやちょっと待て。なんで残った東側にローマがないのにローマを名乗り続けてるんだよ。気がついたら全然ノートができていなかったので黒板と教科書を見比べてシャーペンを走らせる。
今回の私は、悪友みたいな立場に立つべきなのかな。恋に悩む少年に対してのアドバイザー。経験は……あれをあるってカウントしたくないので、あまりないってことで。
とはいえ、真山くんにはかなりいい相談相手だ。なにせ当の本人を相手にして色々聞けるのだ。かなり恥ずかしいけどね。このテンションはいつになったら落ち着くんだ?昨日よりはマシになったと思う。
ちょっと教室の中に視線を巡らせると、真面目に勉強中の真山くんがいた。ちょっと罪悪感があるよな。
深呼吸。こういう機会は少ないはずだ。何をしよう。そもそも彼が私をどういうふうに扱いたいかも聞いておかないと。
そんなことを考えている間にも時計の長針は動いていく。足がぱたぱたと動いてしまう。呼吸が浅くなっている。ペンを持つ手に変に力が入って、ちょっと痛くなっていた。
結局考えはまとまることがないまま、息苦しさを抱えて授業は終わった。背伸び。ノートの見返し。ちょっと外出て、空気でも吸うか。
遠くを見て目の焦点を調節しながら、私はもし前提知識無しで恋人の有無を聞かれたらどう返すかなと考える。
もちろん、その質問がしばしば恋人になるためのステップに含まれることを私は知識として知っている。でも、そうじゃない例だってあるわけで。
例えば一昨日の夜は、話の導入に使われて軽い雑談のノリだと思ったから乗ったわけで。だから、その後に真山くんが恋愛の話でもするのかと。
いや、私はそこまで考えてなかったな、と気がつく。もしそうだったら、それなりに変な気分になっているはずだ。今みたいに。
「和乃さん、前の前の周にもここにいたんだよ」
真山くんはさらりと私の隣に立ってベランダの柵に体重をかけるように腕を乗せていた。そういうかっこいい登場は他の周の私にしてあげなよ。
「なに考えてたんだろうね、その時は」
私は周りに耳を立てている人がいないことを確認する。視線については、まあ無視していいか。
「深刻そうな顔をしてたけど、話したら明るくなってた」
「それはよかった」
「もし夏休みに余裕があったら、どこか行こうって話とかしたな……」
「三周以上ありそうなら面白いけど、私があまり思い出作れないのは悔しいな」
まあ別に他の周の私に対して不利益になるならまだしも、関係なかったり利益が出るならまあいいことではあるはずだよな。
「……ループじゃなくても、誘うから」
「本当かなぁ」
疑っている、んだな。私は。なんだかんだで真山くんは臆病で、結果として私をループ内でだけ都合よく扱っているのは否定できない事実であって。
まあいいや、私はそういう行動に対してそこまで嫌悪感もないのだ。抱かれるぐらいはされてもいいですよ。文字通りに抱きしめられるって意味だけどね。
「……僕のこと、嫌いになった?」
「好きだよ、相変わらず」
私は呟いて、あれこれって好意の表明じゃないかと気がついた。