「……今までで一番、和乃さんらしいと思う」
「何その言い方」
私の今日の服装は、いつも着ている地味なワンピース。一枚で済むのはなんとも便利なのだ。
「前の前の和乃さんはボーイッシュな感じで、前の和乃さんは綺麗だった」
「今まではそれなりに気合い入れてたのかな、デートだったし」
というわけで、これから例の喫茶店である。三度目となるフレンチトーストでも真山くんは飽きないようで。
「……今回はどうなの?」
「悪巧みだよ。私の個人情報を売り渡そうっていうんだ、これをデートとか言ったら怒られる」
どうせだ。次の周とかの私が楽しめるようにできるだけ色々なことを教えてしまおう。第二級と第一級の秘密に触れるかもしれないけど、まあその時はその時で。
「和乃さんが楽しそうなら、僕はいいけど」
「もう少し真山さんも楽しんだほうがいいよ、私はそういうのも好きだから」
もういいや、客観視したコメントという名目で好き放題言ってしまえ。頼むから今日で終わらないでくれよ?いや今日で終わってくれないと困るのか?周と回の区別が曖昧になっている。
「和乃さんは、僕のどういうところが好きなの?」
「……減点要素が少ないこと。私といっぱい話して私のノリを知っていること。そういうものでは?」
「……そういうものなのかな」
「そういうものだと私は思うよ。他の私もそうかも」
「……僕は、和乃さんのどこが好きなのかはわからない」
「ただそこにいて抱けそうだから、とかじゃなくて?」
正直なところ、これは意地悪な質問だと思う。でも次の私に告白するときにはこれぐらいは乗り越えておいてもらわないと、たぶん話が合わないぞ。
「……否定はしない」
「素直なのは美徳だけどね、私を抱くっていうのはハグ以上の意味だってこと、きちんと理解している?」
「……うん」
「経験は?」
「……ない」
「なるほどね」
歩調は狂っていないし、歩幅も私に合わせてくれているのかな。なお私が車道側だ。私がエスコートする側だからな。真山くんがそういうことに気を配れないほど変なこと考えている可能性もある。
「まあ、別にそこは問題じゃないよ。私に対して好意を持っていて、それについて考えているって意思表示があれば私は満足すると思う」
実際、真山くんのどこが好きかというのは私も言語化できていないのだ。そして今周の私はそれをたぶん考えきることができない。
「……うまくいくと思う?」
「まあ、いつもやっているみたいにすればいいんじゃないかな」
真山くん本人経由の情報なのである程度はバイアスがかかっているだろうが、私からすれば十分誠実に見える。
そりゃ彼にも考えが浅いんじゃないかってところはありますよ。とはいえ私が……一年ぐらいか?それぐらい悩んでまとめ上げた考え方の水準まで数ヶ月で追いつかれてたまるか。
「わかった」
「あとはまあ、私がどう考えているか知っておくことかな。それを前提にしておくと、致命的な失敗は避けられるはずだし」
「何が、致命的な失敗につながると思う?」
「正直わからない。いきなりのハグは暴力だってみなして反撃する可能性は高いけど、一言あれば察するぐらいはできるはず」
「……ハグしていい?」
「そういうのはループ終わってからにして」
「……はい」
「まあこれは私のっていうか、私たちのわがままなんだけどね」
「覚えておきたいから?」
「まあ。初めてを奪いたいってよりかは、色々な真山さんを見たいから、って方が近いかな」
だから経験あったって妬いたりとかはないですよ。そこらへんの価値観はなんていうか、少しズレているのかな。何が基準にズレているのかはよくわかっていないけど。
「……そうなんだ」
「こういう私が素を出せる機会は少ないから、利用しなよ?意図的に作るのはあまりおすすめしないけど」
これがもし最終周なら、関係が壊れすぎてしまいかねない。恋人ならまだ友人になることができるかもしれないが、裏事情を知った共犯者との関係を切れるかというと難しいところで。
「嫌だ、ってほどじゃないけどあまりしたくない」
「それは、私を操っているとかそういう印象を持つから?」
「……そうかも」
まだ真山くんの考えはうまくまとまっていないのかな。よくわからない。
「もしそうだとしたら、私に対しては気にしなくていいよ」
「いいの?」
「完全な功利主義ってわけじゃないけど、双方に利益があるなら十分だと思うな」
もちろん相手を尊厳を持った人間扱いしていないとか、そういう反論があるのはわかりますよ。でも、私は別にそれでいいって言ってるじゃないですか。
モノ扱いされたいわけじゃないし、そういう趣味には今のところ目覚めていませんけど。
「……わかった。告白も、取引みたいに考えた方がいい?」
「そうだね。私はそういうやり取りや関係が嫌いじゃない。もちろん、ロマンチックにやられてもそれはそれで好きだけどね?」
恋する乙女役はできなくはないのだ。うまく踊れるかはわからないが、練習を重ねた真山くんが相手ならまあなんとかなるだろう。
「……では和乃さん、ここで食べませんか?」
喫茶店の扉の前で止まった真山くんが、自然な感じで聞いてくる。
「いいね、奢らせて」
そういうわけで、私はあまり上手じゃないけど精一杯の笑顔を返した。