今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 四回目 四周目 五

店内には静かなジャズが流れていた。ジャズでいいんだよなこれ。音楽についての知識はあまりない。

 

「飽きないの?」

 

フレンチトーストは期待以上においしい。カリカリに焦げている部分もあれば、もっちりと卵と牛乳の染み込んだ部分もある。軽く香るシナモンもいい。

 

とはいえ、これで真山くんにとっては三回目になるわけだ。

 

「毎回おいしそうに食べる和乃さんを見れるから」

 

そう言って、真山くんはもにょもにょとでも形容するしかない表情をした。照れを隠そうとしているってことでいいのかな。

 

「……へえ」

 

そう言われてかなり嬉しい自分がいる。呼吸を落ち着かせる。いいなぁ、他の私は。彼と素直にデートを楽しめて。

 

「あれ、私を前に誘ったのは二回だよね」

 

「……うん」

 

「緊張とかしてそうだった?あるいは、やけにテンションが高かったりとか」

 

「あまり緊張はしてない気がした。ちょっと興奮気味ではあったけど」

 

「すみません……」

 

「あの、気にしないで。話は面白かったから」

 

「何話したっけ」

 

「ええと、衛星から撮った写真の話」

 

「なるほど」

 

用意していたコードの気象部分だな。あれも変化しなかったってことはそうとう長めのループじゃないと天気の変化は起こらないか。

 

「その前は……英語の話」

 

「試験勉強?」

 

「そう。ありがとうね」

 

「いいのいいの。今周の私は試験を受けれるかわからないし」

 

「それでも、勉強するんでしょう?」

 

「……まあね」

 

これはまあ、矜持みたいなものだ。いつ死ぬかもわからぬ身なのに、終りが近づいたからといってあくせくするのはかっこよくない。

 

「和乃さんって、いい人だよね」

 

「あまりそう言われたことはないな……。たぶん人付き合いが少ないからだけど」

 

「よく話してる子、いない?」

 

「友人カウントはしたいけど、それぐらいだしな……」

 

たぶん同級生のあの子だろう。知り合い以上になったのは真山くんからループの話を聞かされてからだから、ここ一ヶ月ぐらい?

 

「でも、きっと踏み出したらいい関係になれるよ」

 

「踏み出し続けてきた人の言うことは違うねぇ。私にはなかなか踏み出してくれないのに」

 

ここでの私は私たちであって私ではない。難しいな。

 

私は真山くんにとって同一人物であろうと心がけている。とはいえ、私から見れば私たちは全員やり取りもできない別人だ。せいぜいが真山くん経由で情報を伝えることだけ。

 

「……ごめん、って何度も謝っている」

 

「私も言い過ぎた。毎周この話された?」

 

「……うん」

 

「ループから抜け出せるまで、あとちょっと我慢してよ。そうしたらハグしてあげるからさ」

 

そう言って私は机の上の真山くんの手の上に重ねるようにして自分の手を伸ばす。

 

「……和乃さんから触ってくるの、二回目」

 

「誰だよ私より先に手を出したのは」

 

私なんだけどな。言ってから自分が何を言っているのかわからなくなった。

 

「ええと、頭を叩かれた」

 

「いや本当にすみません、暴力的な行動を取ってしまったことをお詫び申し上げます」

 

「いや違うから!」

 

少し大きな声を出した真山くんにびっくりしてしまった。

 

「……もしかして、それだけのことをしたの?」

 

「ポンって、手を乗せられた感じ」

 

確かに頬とかじゃなくて頭、って言ってたな。

 

「あー……。嫌だった?」

 

「ううん」

 

「なら、まあ、私にとっても許容範囲、かな?」

 

真山くんが許したとしても、私が許せるかどうかはまた別問題だ。さらにここでは私たちが総意として認められるかっていうのもある。

 

「あと、それは前の回の時」

 

「ってことは教室?」

 

「廊下だった」

 

「……なるほど」

 

同級生男子に廊下に呼び出されたか、あるいは廊下に呼び出したか。ともかくそれで、頭を撫でるように触れた、と。

 

「いいなぁ、青春らしくて」

 

「今もそうだと思うけど」

 

そう言って真山くんは手をすっと引こうとする。私も別に逃さないつもりはないので追うことはしない。

 

「触られるの、嫌?」

 

「……ちょっとぞわぞわした」

 

「わかった。もし私からそういうことされそうだったら前に触られたときのことを言ってくれれば多少は冷静になると思うから」

 

逆上することは……ないはず、だよな。とはいえ私が真山くんに本格的に手を出したとしたらそれなりの関係を築いたか、勘違いか、私が精神的になんかやられた時ぐらいだな。真山くんがしてくる可能性に比べたら小さいし、まあ大丈夫だろう。

 

「……うん」

 

頷く彼に素直だなぁと思ってしまう。ちょっと進めると操りやすいとか都合のいい存在だとかになりかねないので脳にブレーキを掛けておこう。

 

「まあ、私から真山さんに関係性の変化を目的として好意を表明することはあまりないだろうから、それについては真山さんからしてくれると嬉しいな」

 

そう言って私は冷めつつあるフレンチトーストをまた一口。うん。まだ十分おいしい。

 

「どういうこと?」

 

「あー、これ照れずに言えるかな……」

 

口の中がもぞもぞする感覚がある。背筋が落ち着かない。言葉にすることが怖い。

 

「私からは、告白をしないと思う。これは現状で満足しようとしちゃうから。真山さんもそうかもしれないけど、ループ中でハグとかしたいならちゃんとループしてない期間に伝えたほうがいいよ」

 

よし、噛まずに言えた。かなりまだ緊張みたいなものは残っているけど。真山くんのほうは、少しだけ飲み込むのに時間がかかったようでワンテンポ遅れてゆっくりと頷いてくれた。

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