早く土曜日にならないかな、と期待している私がいる。
ループから出て詳しいことを聞きたい。だから、巻き戻って欲しくはない。五周目の今回が最後になって欲しい。
とはいえ、そういう期待をしたところであまり意味はないことも知っている。祈ったところで既に決まっていることは変わりないし、真山くんの伝えた情報が正しければ世界は決定論的に進んでいるのだ。
それに真山くんが含まれていないと考える理由は特にない。ループすら織り込まれて、世界が動いている可能性は十分あるだろう。
とはいえこの考えは仮説に仮説を重ねて、検証できない仮定を用いたものだ。真山くんが危惧しているように私の自意識がぷつんと切れてしまう可能性もあれば、記憶とか人格とか魂とでも呼ぶべきものが無くなった真山くんが明日の夕方に倒れる可能性もある。
むしろ考えるべきは後者な気もするな。喪失感はまあなんとかなるだろう。遺体の処分はする必要はないか。
原因不明の脳死、とかかな。もしそうだったら脳のどこがタイムリープで未来の、あるいは真山くんの認識では過去の記憶を持ち帰ってきているのかを特定できそうだ。
そんな馬鹿なことを考えていたら授業が進んでいる。おっと危ない、ノート取っとかないと。……えっと?いやなんで残った東側にローマがないのにローマを名乗り続けてるんだよ。
たぶん私は何回もここで突っ込んでいるな、と考える。私はこういう考えを持てたのだろうか?ループの中だけを考えるのが精一杯で、メタ的な視点を持てたのはたまたまだったりするのかな。
だとすると、真山くんに私がそういう考え方をするように誘導してもらうのがいいだろう。死ぬのが怖いからっていって他人に面倒事を投げようとするな。
実はこうやって思考を回しているのは明日のデートについて何も準備していないからです。はい。いやだって何を準備すればいいのさ。
昨日聞いたところによると、今までの周の私と何回か行った喫茶店らしい。そんなにフレンチトーストがおいしいのか?もっと他の食べなよ、ループできるんだしと思ったが飽きがどうやらループ中だと軽くなるようで。
ここらへんは、脳科学的に分析したいところである。記憶がシナプスの接続パターンだとしたら、どうやってそれを巻き戻しのときに維持しているんだろう?
身体にペンで書いた文字とか、ちょっとした切り傷なんかは巻き戻らないらしい。だからといって記憶は完全に物理的肉体に依らないって考えるのもおかしい。やはり脳に放射性マーカーとかチップとか埋め込むべきか。
そんな事を考えていたら授業が終わって休み時間。なんていうか頭がぐるぐるして話したい気分なので真山くんのほうを見たら、彼は別の人と話していた。
深呼吸を一つ。落ち着こう。
告白みたいなもの、って昨日真山くんは言っていた。私は恋愛分野では面倒な人間だという自負がある。こうやってただの友人である真山くんが他の人と話しているだけでも少し不満になっているのに、恋人なんて耐えられるのだろうか?
「……和乃さん?」
「んぁ、ごめん、考え事してて」
とかなんとか考えていると彼の方から声をかけてきてくれた。正直喜んでステップを踏みたいぐらいであるが疲れそうなのでしない。
「何考えてたの?」
「いや、知らないとか関係がないっていうのはそれはそれで楽だから難しいなぁって話」
「……伝えないほうがよかった?」
「それは伝えないと判断できないし、私は他の私に聞かないほうがいいよって言えるほど後悔はしていない」
もちろん、場合によってはそういう事があるだろうけどさ。でも真山くんの過去のループの話が正しければ今回だけでもう四回、私は終わっているわけだ。一人ぐらい増えたからってなんだ。
「……それは、よかった」
「考えすぎな気もするけど、悩んでくれてありがとうね」
私は結果を評価したい人だ。それまでの過程とか目的に意味がないとまでは言わないけど、結果がなければその意味はかなり損じられるだろう。
それでも、私は真山くんが悩んでくれていることを嬉しく思っている。いやこれある種の独占欲というか被依存欲に近いものだな?よくない。
「明日の夕方って、なにか用事入ってる?」
「もしループが終わってから伝えたいことがあるなら、晩ごはんはいらないって親に言っておくよ?」
ループ内で何度も説明するのって手間ですからね、まあ三日に一回ぐらいならまだ許容範囲かもしれないけど、以前の回みたいに十五分とかだと辛い。
「……お願いしていい?」
「わかった。とはいえもし終わったらお金使わなくちゃいけないわけでしょ?あまり高いところにされても私の心が痛むので高校生が友人と行くようなお店でお願いね」
なお私はそういうお店についての知識はない。ドリンクバー付きのファミレスとかかな。まあそういうのは真山くんに任せちゃっても……いや、難しいところだ。
「もし困ったら私が決めちゃうけど」
「……大丈夫だよ」
「そう言って私に何回も押し付けられたりしていない?私にとっては一回なんだから、遠慮なく頼ってよ?」
私の言葉に頷く真山くんは、たぶん遠慮してしまうんだろうなって気配をまとっていた。