「二周目と似てない?」
「私の服のバリエーションの少なさを恨むんだな」
そういう会話をしながら私は真山くんと道を進む。今周でループから出れることを前提に私は動いているけど、これっていいのかな。
「買いに行く?」
「着てほしいものでもあるの?」
「……あまりない」
「だよね、私もない」
今日は動きやすさを重視したボーイッシュな服装にした。そうしたら見たことあるって言われるんですよ。これどうすればいいんですか。真山くんに前の周の私の服装聞けばいいんですか?それはありだな。
まあそうやって話しながら、周囲に人がいないことをいいことにループの話をする。
「つまり、何回繰り返すかはループ期間によって決まってる?」
「たぶん」
「例外はある?例えば短いのにすぐ終わるとか」
「……記憶にある限り、ない」
「つまり確率的脱出モデルは成り立たないか」
このモデルだと、私の意識は真山くんの主観的ループが終わったあとでも連続して、ループから出れなかった真山くんと私が時間に流されていく可能性がある。
とはいえ、これはちょっと理想的すぎだ。やはりループが終わったあとの世界はないってほうがいいよな。
「……和乃さんは、色々と考えているよね」
「考えすぎるのは悪いことだよ、人生が楽しくなくなるし」
死を想え、っていうのは言うのは簡単でも突きつけられるのは難しい。もし出れたらちょっと緩和ケアの本とか読むか。なんで青春真っ盛りの高校生が終活してるんですかね。
なお私も真山くんも進学ルートだ。なので今のところ就職の予定はない。でも私がバイトするのはいいかもな。何かあったときに真山くんと使えるお金はほしい。競馬で増やすのは二十歳になってからだ。
「そういうのを考える暇がないぐらい、構った方がいい?」
「……それをやるとたぶん真山くんの人生を九周ぐらい食いつぶすな」
「僕はそんなループしてないよ」
猫の話をしているつもりだったが、そういえば真山くんはタイムリープ能力を持っているのだった。
「冗談だよ、適度に私以外の人とも付き合って、できれば秘密を共有できるようになればいいけど」
私はそれなり以上に面倒くさい心を持っていて、独占欲もある。だからといって、縛りたいかって言われると微妙なんだよな。
「世界を終わらせてる、みたいな事に気がついてしまって他の人と秘密を共有するつもりにはなれないな……」
「そう」
というわけで喫茶店。何度ループしても食べたくなるフレンチトーストってこれいい宣伝文句になりませんかね。ならない?
「……ブラックコーヒーとカフェオレ、それとフレンチトースト二つ」
そういって注文をしてくれる真山くんは手慣れたものだ。ええと、今で四回目かな?
「ブラックコーヒー、飲めるんだ」
「……前に苦くてカフェオレを頼んだ、って白状させられたことがあって」
「何を私は言わせているんだ」
毎周毎周、私は真山くんにとって意外なことをしでかしているらしい。たぶん、単調な繰り返しよりはよっぽどマシだろう。
「そういえば、英語ってできるようになった?」
この時期なら私なら勉強を教えるだろう、という読みだ。
「大丈夫。次は和乃さんの点数を超えてみせる」
「もしそうなったら、ちょっと正気を保てる余裕がないな」
私は微笑む。いやだって嫌じゃないですか、ただでさえ人間関係が上手でループとかいう超能力みたいなものを持っていて、それで文武両道みたいな完璧存在に勝てるものがなくなってしまうのって。
「……手は抜かないよ」
「手を抜かれたらもっと正気を保てる余裕がないと思う」
まあ、そのときはその時だ。私は相手の結果を認められないほど心が狭くはないだろう。
「……和乃さんは、そこまで英語が好きなの?」
「好きというか、これが一番得意だからかな」
家の事情、については別に言わなくてもいいか。もしかしたら他の周で話しているかもしれないし。
「そうなの?」
「まあ、ここらへんはまたいつか話す機会もあるよ」
なんてことを話していたらフレンチトーストが来た。黄色いもちもちにちょっとした焦げ目。振りかけられたシナモン。
フォークでつにつにと触っている私を、のんびりと真山くんは見ていた。
「食べないの?」
「食べるよ」
さて、どんなものやら。一口。……おいしい。ちゃんと言語化するためにはワンテンポ必要だな。
味はかなりしっかりしている。甘みと卵の味と、ほのかな牛乳の風味。あれ、ってことはバニラエッセンスとか入れてるのかな。わからない。
味についてはたぶん訓練すれば認識できる範囲は広がるのだろうが、そんなことをする余裕はないよな。もしループがかなり長引くなら真山くんにやらせてもいいかも。
「……よく食べるね」
そう言われて気がついたときには全体の三分の一がなくなっていた。いやどういうことだよ。文字通り消えたような気がする。
とはいえ意識を胃の方に持っていくと少しづつ満腹感が出てきた。もう少しゆっくり食べたほうがいいな。
「おすすめしてもらっただけあって、美味しいよ」
私はカフェオレを一口飲んだ。程よい苦さがフレンチトーストとよくあっていた。