高校一年生 第五幕間 一
「……ところでさ」
「ん?」
「今何時?」
私の言葉にメタルバンドの腕時計を見る真山くんの隙を突いておいしかった揚げ物を横取りする。どうせ私がお金払うんだからいいでしょ、ちくちょう。
「……終わった」
「みたいだね、もう少ししっかり頼んでおけばよかったな……」
真山くんにとって、高校生になってから五回目のループが終了した。それは私にとっては一回のデートが、真山くんにとっては四回目のデートが含まれていた。
「……聞かなくちゃいけないことがある」
「ループを出たら質問するって、私との約束?」
出た瞬間に聞くということはそうなのだろう。
「そう。……答えは、知ってるけど」
「ごめんね、一貫性がなくて」
「これは、僕が悪いから」
「わかった。ちょっとまってね」
口元を拭いて、お皿を少し脇にどけて、私はまっすぐと彼を見る。
「和乃さんって、付き合っている人がいるの?」
「それは……その後の関係性の発展を意図したもの?って言って伝わる?」
「似たようなことは、最初に同じ質問をしたときに言われた。……はっきり言ってしまえば、僕がその後に告白するかどうか、ってことでしょ?」
「そう。まあ、好意を伝えることは好きにすればいいと思うけど、私とそういう関係になりたいって言うなら……」
私はそこまで言って、恥ずかしさに俯いて口元を手で隠してしまう。
「……なにか、僕がするべきものとかがある?」
「いや、別に変わらなくていいよ。私の話を真山さんから聞くだけで相当私に入れ込んでいるんだなってわかるから。少なくともループの中では」
「……ごめん」
「別にいいよ、最終周の可能性がある今回に付き合ってくれただけ十分。私だったら終わりそうなら声をかけないぐらいしかねないからさ」
ループのときだけ頼れて、告白するかしないかの微妙な関係を作れて、後腐れのない恋人ごっこができる相手。ええ、完璧とは言わないまでもなかなか悪くないものだと自分でも思いますよ。
でも真山くんはそうしなかった。それが心の弱さとか言うなら、その弱さは愛すべき類のものだろう。
「……いないよ。少なくとも、今は」
ループから抜け出していない可能性、というものも実は頭の片隅に入れてある。なにせそれを証明する方法はないのだ。
ただ、真山くんはそういうことをする前に心が辛くなってしまうだろう。なにせ世界が終わるときに私が死ぬ恐怖を抱えているんじゃないかって心配する程度には優しいのだ。
私だけを特別視するな、世界丸ごとを終わらせていることに目を向けろって言う必要もないだろう。
「それで、次は私に何を聞くの?」
「何食べる?僕はまだ頼むけど」
「……そうだね」
真山くんは、たぶん色々なものを欲しがっている。ループの中で頼れる相手。秘密を共有できる人。甘えさせてくれる恋人。それを全部私にしようっていうのは、ちょっと私側に負荷が大きい。
でも、それをわかっているからこそたぶん真山くんはここで止まってくれるのだ。
「じゃあこれで」
一貫しかないやつを頼む。実質値段が二倍です。どうせ私が払うからいいんだよ!机の中で眠っていたいつのやつかわからないお年玉を持ってきているので男子高校生が遠慮せず食べたって十分払える。払える、よね。
「……和乃さんって、美味しそうに食べるよね」
「そう?」
私はあまり、そういうのを気にしたことがなかった。自分がどう見られているかとか、正直どうでもいいとまでは言わないがそこまで考える優先順位は高くない。
真山くんに見られることを考えても、面倒くさいのほうが先に来てしまう。でもやっぱり、もう少ししっかりやったほうがいいんだろうな。これは誠意に誠意を返すようなやつだ。
「……僕の食べた分は、僕が払うよ」
「そうしたら私は君の食べた分の金額を渡すよ?」
「そこまでして奢りたいの?」
「四回も私に奢ってくれたからね」
「三回だよ」
「……あれ、五周目が終わったんだよね?」
「四周目は和乃さんのほうからデートに誘われた」
「……その私は、たぶんそうとう真山くんのことが面白かったんだろうね」
好きだった、とは言わない。その感情はその周の私にしかわからないことだろうし、たぶんその私には今の私はなれなくなってしまった。
「そういう顔をしてた」
「昔の私なんて忘れてこれからは私を見なよ、とは言えないね」
言いたいですとも。もう存在しないだろう私に嫉妬してますとも。だからと言って、それで相手を縛っていいわけじゃない。
罪悪感で言うことを聞かせるぐらいなら、たぶんできてしまう。でも、そういう真山くんは楽しくないんだよ、きっと。
「……忘れないほうが、いいかな」
「全部抱え続けろとは言わないけどさ、時々なら私が持ってあげるから」
頼んでいた注文が来る。二人で分けて食べる。しばらくの無言の時間。
「これからも、ループに付き合ってもらえない?」
「いいよ、今回の色々で特徴もわかったことだし面白いことができるといいな」
そう言って私は少しぬるくなったお茶をずずずと飲んだ。