「調子はどう?」
私は通りすがりに真山くんに声をかける。
「上々。総合点でも次の英語でも勝つよ」
「やってみな」
夏休み前の期末試験、最終日にして最後の科目。ええ、私はちゃんと準備してきましたとも。
幸い、この高校は範囲をある程度ちゃんとやっておけば大学受験に役立つようになってるらしい。詳しくは知らない。
英語であれば、私は悪くない水準だ。とはいえプロの翻訳家と比べたらまだ到底敵わないけど。
それ以外の教科についてはかなりしっかり準備しました。そして悪くない手応えでした。
最後は英語。私ならできる。ぱきりぽきりと指を鳴らそうとしたが音が出ない。うーん残念。まあ、いいか。
配られる問題用紙。静かになる教室。まあ、正直他の有象無象には興味はない。
ちなみにちょくちょく私に声をかけてきている友達その二の人は成績は中の下だった。今度夏休みに勉強教えてほしいって言われた。試験前じゃなくていいのかと確認したら、試験やらないとどこ抜けてるかわからないでしょと言っていた。
たぶん馬鹿ではないんだよな。どこか抜けているだけで。私が誰かにそういう評価しているって真山くんにバレたら突っ込まれかねないよな。
というわけで試験開始。アクセントやら発音やらは実は苦手な分野なのです。文章読むことしかしてないからね。
はいはい、次は文法問題。これは違和感があるやつを弾けばいい。ええと、ここはingとtoで意味が変わるやつだ。イメージ的にtoのほうが未来のことだっけ。
授業の内容を思い出す。先生の授業、真面目に聞いていないからな。ノートもかなりシンプルだし。まあ、教科書がしっかりまとまってるからそれでいいか。
はいはい、サクッと終わらせて次に行きましょう次。長文問題。教科書の文章そのままなので問題文だけ見ても解けるぞ。舐めてるのか?
というわけでおしまい。試験時間の半分を切っている。これでまあ八割か九割ってところかな。では今からミスを潰していく時間である。
真山くんは私よりじっくり解くが、その分ミスは少ない。私は勘というか自分の中でも言語化できてない何かに頼ってやっている。
それを一旦整理して、間違いなくこれって断言できるようにする。それでも満点は取れないだろう。でも落とす点を減らすことはできる。
深呼吸して、ちらりと真山くんを見る。試験の時は出席番号順になるので、後ろの方の私と黒板の近くの真山くんみたいになるのだ。一応カズノとサナヤマなので比較的近いのである。
見る限り真面目に解いているようだ。ならちょっと首を回しておこう。あまり集中すぎても凝りますしね。
ああ、夏休みがやってくる。高校生の夏休みですよ、青春ってやつじゃないですか。
真山くんは付き合ってくれるだろうし、どこかへ旅に行こうかな。校則とか確認したけど、生徒だけで泊まってはいけないとはなかったし。
とはいえ問題は金だ。机の中のお小遣いをどうにか崩すか?親に頼んで次のループのときに馬券を買ってもらうか?とはいえあまり第三者を巻き込みたくないんだよな。
一応、年齢を偽れば買うことはできるだろう。問題はバレないかどうかだ。私も真山くんも老けているとまではいかない。健全な高校生らしい見た目だ。
いや、私のほうはまだ中学生に間違えられてもおかしくないな。精神性の幼さが顔に出ている。
そんな事を考えていたら、かなり時間が過ぎてしまっていた。なるほど、これが恋をすると時間が早くなるってやつなんですね。試験中にやるなよ。
とはいえ、そうやって脳を楽にしたのもあってミスはいくつも見つかった。ええ、これだけミスしてたとなれば八割切ってもおかしくないほどですよ。よく私はさっき自信満々に九割行けるんじゃないかとか思ってたよな。
丁寧に潰していって、確認して、すこしまた真山くんを観察して、チャイムが鳴る。解答用紙は回収に出して、枚数確認の後に問題用紙はそろそろ入れられた書類の厚さが限界を迎えそうなクリアファイルに入れる。
足取り軽く教室の前の方に行き、私はずっと見ていた背中に声をかける。
「終わった!」
「お疲れ様」
ちょっと疲れたように言う真山くん。なんだなんだ、体力が足りないぞ?私が真面目にやってないだけだって?そうかもしれないな……。
「どうだった?」
「……採点されてからの、お楽しみっていうことで」
「まあそうか、私は比較的自信あるよ」
「それは何より」
ここまで話して気がついたが、真山くんは結構疲れているな。私は疲れていると脳がやばいテンションになるからいいけど、真山くんはそうではないようで。
「……ごめんね。ちゃんと寝れてる?」
「昨日は八時間寝たよ、問題ない」
「私も試験期間中は夜更かししないようにしている。おかげで本が溜まっちゃったけど」
「どういう本?」
「街の図書館で借りたやつ。今週中に返さなくちゃいけないから急がないと」
「なら、誘うのはその後の方がいい?」
何に誘うか、とは真山くんは言わなかったがまあ見当はつくよ。
「いや、何かあったら延長できるからそうする」
「図書館の本って延長できるの?」
「ネットで申し込めばね」
もっと色々と話そうと思ったが、担任の先生がホームルームをするために入ってきたので私はすごすごともとの席へと戻った。