テストが終わってから終業式まで、謎の時間がある。たぶん採点とか成績をつけるためのやつだ。
そういうわけで授業が昼で終わったり、一日がかりで大掃除をしたり、よくわからないホームルーム活動をしたりなんだのをやって、ついに明日から夏休みとなった。
そして最終的に決まった点数が紙でやってくる。これが来るまで、私は真山くんと互いに点数を聞かないと決めてあったのだ。
「結果は?」
真山くんは自慢げだ。ほう、どれぐらい取ったんかな。
教科としては現国、数IA、英コミュI、物理基礎、化学基礎、地総、歴総、公共、情報I、音楽。こう考えるとかなり多いよな。十科目ですよ。
各教科100点づつ、合計点1000点のうちどれだけ取れるかで真山くんと勝負をしているわけである。正直言って、真山くんのほうがこれについては有利だ。
私がこの中で得意と言えるのは英語だけ。それ以外はまあこれと言って苦手というほどではない。あ、体育は苦手です。しかし保健体育で座学があるのは二年生だったか三年生だったかなので今回は試験に入ってない。
いやそっちのほうが成績悪くなりそうで困るんだよな。まあ別に成績が悪かったからと言って何だという話ではある。推薦とかAOが狙いにくくなるぐらいかな。
「私は872点」
「896点」
「……九割近く?」
ちょっと自慢げに無言で胸を張る真山くん。ちょっと腹が立ったのでスニーカーを甘踏みしておこう。ほら、女子高生に足踏んでもらえるなんてめったにない機会だぞ?
「頑張ったから」
「見せて」
そう言って真山くんの手からすっと点数の書かれた紙を受け取る。
「んー、もしかして、暗記って得意?」
「たぶん、普通の人よりは」
「……それは、まあ便利なことで」
タイムリープを活用するために重要になる能力はどう考えても記憶力だろう。前の時に用意して結局今の私が使った記憶のないコードは英数字混じり十文字。それをミスなく覚えるの、ちょっと難しいぐらいじゃないかな。
「そういう和乃さんも、理系科目はかなりいいよ」
「無駄な知識と受験時代の計算訓練の積立てがまだ残っているだけだよ」
そういうわけで、馬脚が出てくるのも完全に時間の問題である。せいぜい中間までかな、今までの知識だけで行けたのは。インプットを欠かすとすぐにボロが出る。
「で、私は賭けに負けたわけだ。要求は?」
試験で勝ったほうがお願いを一つ聞いてもらえる、という約束。あくまで聞くだけと言い張れるという穴の存在にはたぶん真山くんも気がついていただろうが、乗ってくれた。
なお英語では私のほうが上でした。そりゃ97点をそうそう超えられてたまるか。学年一位でもある。真山くんは順位が落ちて三位だった。それでもおかしいんだよな。まあ私に教わって三位かよって怒っている自分もいるが。
「一緒に映画を見てほしい」
「……映画、ね。どういうの?」
「海外の古いタイムリープものの映画らしいんだけど、見たことなくて」
「どこかでリバイバルでもやってるの?」
「……僕の家で」
「なるほどね、なるほど……」
「……嫌だ?」
「いいよ、そのお願い、聞いてあげる」
どうせ高校一年生の夏休みなんて暇に暇を重ねて暇をトッピングして暇をまぶしたようなものになるのだ。三年生のときなんかたぶん受験勉強に受験勉強を重ねて以下略、みたいな感じになるしね。
青春は楽しまねばならない。どうせ世界が決定的だろうが、私の自意識が途中で途切れようが、楽しまない理由にはならないのだ。いやそう考えると私はかなり青春みたいな悩みを抱えているな。中学二年生で卒業できていないとも言う。
「で、いつ見る?私は明日でもいいけど」
「明後日でどうかな」
「なにか理由は?」
「家の掃除」
「なるほど、手伝おうか?」
「そうしたら明後日にする意味ないよね?」
確かにそうだ。実に理論的である。というか友達の家に行くの、初めてではないにしろかなり久しぶりなはずだ。前は……ええと、小学生の時にあったか?たぶんあった。
「で、真山くんの家ってどこだっけ」
「……あ、そっか。僕の方から前のときは行ったんだっけ」
「そう言えば教えてもいないのに同級生の男子が私の家知ってるんだよな……」
ちょっとまずい気もしなくはないが、私も真山くんの家を知ってるはずらしいからまあおあいこということで。
真山くんはささっとスマートフォンを起動して地図を見せてくれる。ふむふむ、ここらへんね。
「私が行けばいい?」
「そうだね、時間とかはメッセージ送るよ」
「よっし」
私がそう言うと、成績表とかプリントが入ったプラスチックのかごを持ったクラス委員と先生が教室に入ってきた。
ああ、面倒だ。どうせわかりきっているような夏休みの注意とか聞かされるんでしょ。さっき全校集会でも聞きましたよ。
それでもまあ、楽しい夏休みがやってくるということで私の心は広くなっているのだ。ここはゆっくりと話を聞こうじゃないか。