今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第五幕間 六

おっきめのテレビ画面。並べられた椅子。借りてこられたDVD。

 

「……面白かったね」

 

スタッフロールが終わって、私は口を開いた。

 

「ループってこういうふうにもできるんだ……」

 

感心するように言うのは真山くん。私が買ってきたポップコーンを横からちびちび手探りで取っていた人である。なお用意周到な私は予備を準備してあったので袋は渡してしまった。

 

「ところで、あの謎のお祭りは何なの?」

 

彼の質問に、私は首をひねる。

 

「さぁ……あれはモグラなのかな?」

 

そう言ってスマホを開き、もともとこの映画のタイトルにもなっていた謎の祭りの名前を入れる。ふーん、ウッドチャック。北アメリカに分布するリスの仲間。

 

冬眠から覚めて巣穴から出たこのもふもふした存在は、二度寝をすることがあるらしい。なるほど、そうやって春が来るかどうかを占うのね。

 

映画の筋は、まあ私や真山くんにとっては飲み込みやすいものだった。テレビ番組のために奇祭が行われる田舎の街に訪れた三人。その中の一人、天気予報士がループに巻き込まれる。

 

期間は24時間ぴったり。ループ回数がどれぐらいかはわからないが、延べ時間が年単位を超えるのはまず間違いない。

 

「これだけループしたら、やっぱり死にたくなるのかな……」

 

「真山くんは希死念慮に襲われたことはないので?」

 

まだ暗い部屋の中、私は手探りで袋の底からポップコーンを探す。

 

「キシネンリョ?」

 

「死にたくなること」

 

「……覚えている限り、ない」

 

「そう、それはいいことだ」

 

ちなみに私はある。幸い近頃はない。とはいえ、あの頃の感情はまだ忘れられそうにないものだ。

 

「でも、あそこまで綺麗に一日を終わらせられたら楽しいだろうな……」

 

「結局女の子はピアノ教室から追い出されてない?」

 

「そうかもしれないけどさ」

 

まあそういう話をしながら、映画を最初まで巻き戻しつつ細かいところを見ていく。

 

「こういうミスを何回か繰り返すことってあった?」

 

「……たまにある」

 

「まあ私でもあるからなぁ」

 

こういう映画を見る時に、普通はもし自分が巻き込まれたらどうするかとかの話で盛り上がるのだろう。我々みたいな見方をするのはまず少数派だ、間違いない。

 

「ところで真山くんはここまで自暴自棄とまでは言わないけど、自由に行動したことは?」

 

コメディ映画らしくあまり派手なことはしないが、なんだかんだ闇が深いシーンも映画にはある。

 

「ないよ。この映画でこういうやり方があるんだって思った」

 

「まあ旅はしてないけどね」

 

悲しいかな、大雪のせいで主人公たちは哀れ寒村に留まらざるを得ないのだ。

 

「それにしても、全員と知り合えるほどの時間があるループか……」

 

「僕の場合はだいたい終わる時期がわかるけど、そうじゃなかったら辛そう」

 

「もし今までの規則が通じないタイプのループだったらどう動く?」

 

「まあ和乃さんに相談するかな」

 

「私をお助けキャラ扱いしてない?」

 

むしろあれだ、主人公の同性の友人で好感度とか誕生日とか教えてくれるキャラかもしれない。攻略対象によくされてるやつ。

 

まあ、作中で適当にデートに誘われたようなキャラクターの枠じゃなくてよかったと思おう。真山くんがそういうことするのはちょっと解釈違いですね、たぶんできないだろうし。

 

「映画のストーリー、たぶんここが山場だよね」

 

そう言って真山くんは一時停止を押してから再生する。主人公がホームレスの男のために動き始めるところから、利他的な行動が始まっていく。そして物語はクライマックスへと進んでいく。

 

「でもそのお金、盗んだやつだよね?」

 

「そうかも」

 

「そのせいなのかは知らないけど、結局その行動は報われないわけで」

 

「……そういうのは、辛いだろうね」

 

「でも真山くんの場合だとそういう例は少ないでしょ?」

 

「止めれるような出来事はタイミングよく起きてくれないから……」

 

一応、もし介入できるようであればそれを実行する試案自体は私の中にある。例えば事故が起こるようなポイントで爆破予告をして警察とかを動かしてタイミングをずらすような。

 

たった一回だけなら、そして用意周到にやるなら、そういう予告によって捕まることはまずないと言える。原理的に私に到達できないっていうのもあるけどね。

 

「面白い映画だった。何千周も見ようとは思わないけど」

 

私は背筋を伸ばして言う。うーん、なにか飲み物を買っておけばよかった。ちょっとポップコーンの塩味が効いていたので喉が渇いている。

 

「だからループ外に誘ったんだけど」

 

「ところでこの映画、どこで知ったの?」

 

「ネットで偶然見かけた」

 

「ループ系の話を調べていて?」

 

「うん」

 

まあ、それだけで真山くんの能力が発覚することはまずないと考えていいだろう。もしそうだったとしたらループものを書こうとした作家のところには黒服の男が深夜に尋ねてきているはずだ。そして私のところに来ていなくてはいけない。

 

「そう。……もしよかったら、帰りに返しておくけど」

 

真山くんがDVDを借りたのは駅前のお店だ。ここらへんで唯一生き残ってるレンタルビデオ店である。

 

「いいの?遠回りじゃない?」

 

「たまには運動しないと」

 

まあ、夏休みの引きこもり率はかなり高くなるでしょうからね。どうせだし、真山くんと一緒のことであったら気合い入れて色々やってみるか。




ちなみに二人が見ていたのは1993年のアメリカ映画「恋はデジャ・ブ(原題: Groundhog Day)」です。
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