今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第五幕間 七

高校生らしく、勉強である。といっても私のこれを勉強と呼ぶのはどうかと思うが。

 

「なにか面白いところあった?」

 

「いや、大丈夫」

 

私が読んでいるのは去年だったか一昨年だったかのSF賞を総なめとまでは言わないけれどもけっこう取った作品。まだ和訳がされていないが、SFで有名な出版社が翻訳権を取ったらしい。

 

ただまあ、それが読めるようになるまでは時間がかかるのだ。そこで英語で読むわけです。ちなみにそこまで理解できるわけではないです。日本語で読む方が楽。

 

「僕の方は真面目に計算しなくちゃいけないというのに……」

 

彼が挑んでいるのは微分。私は頭の中で四次元までなら操れるので超立方体の中にひとまわり小さい超立方体を用意して片側に寄せると立方体を薄く積んだような超直方体が四"枚"できるでしょ、といったことを真山くんに説明しようとしたら白い目で見られた。悲しい。

 

「実際の入試問題とか見たほうが楽しいんじゃないの?」

 

そう言って私は近くの本棚から少し古めの共通テストの問題がないかなぁと席を立つ。

 

ここはわが校の自習室という名前の謎スペース。進学率を高めようと頑張ったが結局人があまり来なかった空間を私と真山くんは逢引に使っている。ちなみに鍵を借りる先生からは真面目に勉強している少年少女だと思われているようだ。実際はかなり不真面目ですよ、まだ健全な範囲ではありますが。

 

「もう諦めていいかな」

 

「他の教科にする?」

 

「情報の教科書ある?」

 

「ちょっとまってね」

 

そう言って私は教科書を手渡す。今回、真山くんが一番点数が低かった教科が情報Iである。それでも八割弱というあたり、真面目なんだよな。

 

「そういえば、真山さんがここらへんできないの意外だったな」

 

「なんで文字を数字で表すんだよ……」

 

私は実際にコード生成プログラムを組んだようにここらへんは理解しているのだが、真山くんを始めとしてほとんどの人はここらへんの基礎概念すらいい加減らしい。ちょっとだけいい気分になったがすぐに反省した。私は偉い。

 

「必要なら解説するけど……そういえば、あれは来てないの?」

 

「……ああ、ループ。来てないよ」

 

七月が終わり、八月に入り、そろそろ夏休みが半分過ぎようとしている。延長された貸出期限ギリギリに図書館に本を返して、新しいやつを借りてきたのもあって今の私の鞄には机の上に置かれている洋書を除いて三冊入っている。

 

「来ないかなぁ」

 

「僕としてはあまり来なくてもいいんだけど」

 

「真山くんのアイデンティティにおいてそういうのが占めている成分、大きくないの?」

 

「……ええと、これが自分だって考える要素、みたいなものだって思えばいい?」

 

「そう」

 

「……ない、と思う」

 

「ふうん」

 

能力に飲まれるのと能力を軽んじるのと、どっちがいいんだろうな。感情とかで効果が変化する異能系の作品なら重要な問題になるかもしれないけど、真山くんのタイムリープはおこすというか巻き込まれる類のものだ。

 

「和乃さんにとってさ」

 

「ん?」

 

本棚の端の方から参考書を取り出そうとした指が止まる。

 

「僕がタイムリープするってことは、どれぐらい価値があるの?」

 

「……面倒なことを聞かれたなぁ」

 

はいはい、あれでしょう?恋する少年の悩みってやつでしょう?身体目当てとか言ったら最悪になるよな、と思ったが不幸なことに私には時間を記憶を持ったまま遡れる能力がないのでどういう反応をするかは試せない。

 

「もしさ、これからタイムリープが起きなかったら」

 

「関係を断つかって?……まあ、調査協力者としてはあまり行動しなくなるだろうけど」

 

前回のループから一ヶ月ちょっと。そろそろ来る頃ではある、と思う。でも完全に予測できるほどではない。

 

「……そうだよね」

 

「ただ、もしそうなっても私の知らない私が真山さんと過ごした時間が消えるわけじゃないし、今の私との会話だって……たぶん、私は覚えているよ」

 

今がループの一周目に相当する期間だった場合なら話は別だけどね。

 

「いいの?」

 

「きっかけはどうあれ、今はループとかそういうの関係なしに一緒に勉強するだけの関係でしょ」

 

ぱらぱらと参考書のページをめくるが、真山くんが解いていたような問題の良い解説はない。うーん、他の本にするか。

 

「……そっか」

 

「あと私、朝弱いんだよね」

 

「……どういうこと?」

 

「暑いのも嫌いなんだよ」

 

「……うん」

 

「予定もないのに出かけることもしない」

 

「うん」

 

「そんな私が早起きして暑いなか高校来ているんだよ、そんな軽い相手であってたまるか」

 

「……そっか。よかった」

 

「まあ、深夜まで本読んだりして昼に起きるみたいな終わった生活ペースをしていると早死しそうだし夏休み終わったときに辛そうだな、って考えないわけじゃないけど」

 

「台無しだよ」

 

「でも、私はその程度で自主的に動くような人間じゃないよ」

 

なんていうか、私は自分の自堕落さをそれなりに評価しているけど、それ以上に真山くんのことを面白い相手だって評価しているんだな。言葉にして結構はっきりしたけど、これって結構恥ずかしい宣言じゃないか?

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