今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 五回目 三周目 一

「三周目」

 

自習室に真山くんの声が響く。

 

「……コードは?」

 

私は読んでいた英語の参考書から目を上げる。

 

「あるよ」

 

そう言って真山くんは書きつけた手元のノートを私に見せる。間違いなさそうだな。

 

「ありがとうね」

 

私はそう言って古いスマホのアプリを開く。手元で解読ができるようにしてあるやつだ。

 

「……どうかな」

 

英数字混じりの十文字のうち、二つまでなら間違えてもなんとかなるように数学的に作ってある。そのための分析結果が修正の必要なしってことは、三つ以上の文字を奇跡的な確率で誤り訂正が機能しないように器用に間違えたか、あるいは間違えていないか。

 

「ノーミス。前もそうだったよね」

 

「うん」

 

「ありがとう。これで今周の終わりには世界についてもう少し詳しいことがわかるよ」

 

「ループについて、じゃなくて?」

 

「うん。ループの特徴自体はシンプルなものだと思う。だから、ループの最中に起こした小さな影響がどれだけ拡大するかを確認したい……んだけど、まず期間は?」

 

「明日の日付が変わる少し前あたり」

 

「一日半ってところか」

 

「予想している繰り返し回数は六回か七回」

 

「なるほど、今周は遊べるわけだ」

 

そう言って私は新しいスマホの方でメモ帳を開いてプランを確認する。このくらいのループ期間だったら旅に出るのがいい、と私は結論づけていた。

 

「今から行ってもいいけど」

 

「……前の周では何やったっけ?」

 

「明日から旅行していた。ループが終わる時間を知るために徹夜して疲れてるから今夜はゆったり寝たい」

 

「はいはい、なるほど」

 

直前の周のことだったらちゃんと覚えている可能性は高いし、会話によって記憶が定着することは十分考えられる。実際にどうかはちょっと微妙だし、繰り返し語ることによって誤った記憶が生まれてしまう可能性があるっていうのは否定しないけど。

 

「できれば、前行ったのと違う場所がいいな」

 

「つまらなかった?」

 

「……色々な結衣(ユイ)さんを見たい」

 

「えっ、ここまでやって?」

 

思わず言ってしまって真山くんが俯いているが、うん、すまない。誤解なんだ。

 

「……してない」

 

「いや、ごめん。言い方が悪かった。ええとなんて説明すればいいかな……」

 

わずかながら進展あり、とのコードを送ったのは前の周の私だ。ええ、私を下の名前で呼ぶような関係性になる出来事があって、私はこの進展水準を1に過ぎないって評価したのか?

 

「まだ私のこと、見たいんだなって」

 

ええ、真山くんには色々なものを隠していますとも。これは今後ずっと見せないかもしれないし、何かの拍子に話してしまうかもしれない。別に黙っていることが不義だとは思わないけどね。誰にだって秘密はあるでしょ。

 

「……うん」

 

「それでさ、前の周では何したの?」

 

「ええと……」

 

真山くんの説明はざっくりと時系列で最後まで話してから、細かいところを丁寧に追うタイプだ。私はもう少しスナップショットみたいなやつが好きだが、これは小説の技法として前後の文脈を読者が推察できるからだ。

 

私との思い出話をするように語る真山くんと私の認識の齟齬を減らすためには、こうやって全体を出してから個別の内容に移るほうがいいのだろう。

 

「かなり歩いた事にならない?」

 

「和乃さんのスマホでは十キロ以上だって」

 

「私の呼び方、戻ってるよ」

 

「……口が変な感じになる」

 

「真山くんにもそういうのあるんだね」

 

さんじゃなくてくんって呼ぶのは、なんか違和感がある行為だな。生徒の一人、平等に扱うべき個人じゃなくて、特別でえこひいきするような相手だって認めている気がする。

 

不正か何かをしているような後ろめたさを感じてしまうのは何なんでしょうね。それともこれってちょっとひねくれた照れの一種なんでしょうか。

 

「……たまに呼ぶぐらいでも、いい?」

 

「私はいいよ、あと今回全体のループが終わった時にいきなり呼び方と距離感変えられるのも困るから、ある程度親密になってたならハグの一つでもしておきな」

 

「そういえば、ハグをし忘れてた」

 

「約束でもしてたの?」

 

「ループから出たらしていいって約束してもらってた」

 

「……今でもいいけど、個人的には覚えていたいな」

 

「そう、だよね……」

 

「真山さんは隠し切れるほど器用じゃないでしょ」

 

ああ、今回は呼び方を変えれなかった。

 

「……そうだと、思う」

 

「私はそういう真山さんが好きだよ、そこを気に入っているとも言うけど」

 

そりゃ単純に甘やかされて全部察してもらって、みたいなのは理想の一つかもしれませんけどね、それはなんていうか不平等だし、リアリティがないじゃないですか。

 

もっと互いに頼って、多少は依存して、それはそうと一人ずつでもなんとかなるような、もう少し乾いていて、それでいて相手をどこかで求めているような関係が良いんですよ。なんか脳が変な感じになっているな。

 

「……よかった」

 

「とはいえ、限度はあるのでもし怒ったりしたら少し放置して落ち着いてから状況確認してね」

 

自分の機嫌を無言で他人にとってもらうようにはなりたくないですからね。ただ怒りたいだけのときは事前に言えるように心がけたい。

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