「つっかれた……」
ふわふわのベッドに身体を倒れ込ませる。一方の真山くんはシャワーを浴びているところだ。
電車の中で寝てしまったので、身体が全体的に痛い。眠気があるのに目が冴えていて身体が重いというわけがわからない状態だ。
「……うん、気にしないことにしよう」
ツインの部屋なので別に一緒のベッドで寝る必要もないですよね、うん。
「私もそろそろ動かないとな……」
シャワーの音が止まった。薄めの壁越しになにかやってる音が聞こえる。もぞもぞと動きながらシャツを脱いで、ブラを外して、一応健全な青少年の目に触れないように鞄に投げ入れておく。よし、ちゃんと入った。
ちょっとだけ目を閉じる。重い身体がベッドに染みていくような感覚。ふわりとした意識。ああ、やはり眠りというのはいいものですね。
「あがったよ」
目を開けた時には寝間着に着替えた真山くんがいた。ここは部屋着がないので自分で持ち込むしかない。かわりにそこそこ安かった。
「……うん」
「手を貸そうか?」
「おねがい……」
真山くんが伸ばした手を全体重をかけるように引いて、なんとか立ち上がる。かわりに真山くんはベッドに座る形になった。
「入れそう?」
「うん、もし酷い物音でもしたら助けに来て」
「……わかった」
ふらついて、壁に手をつきながらなんとかユニットバスに辿り着く。お湯は抜かれてしまっているな。辛いので湯船に浸かるようにしよう。
「重いな……」
シャワーを顔面から浴びながら、じりじりと溜まっていくお湯に身体を浸す。たぶん、今日はこのまま寝てしまうだろう。
寝ている間にどこまでされるのが許容できますか、なんて質問が頭のどこかから出てくる。まあ、真山くんが襲ってくるとか考えにくいですよ。
私と違って、真山くんにはまだ付き合っていかなくちゃいけない私がいるのだ。いやでも私を避けたりする真山くん、ありかもしれないな。
いやその、嫌われたいとかそういうわけじゃありませんよ、そこは誤解しないでください。意識してしまって距離を取ろうとされるの、もしそうされているって自覚があれば楽しめると思うんですよ。
大抵は事前に説明がなくて、相手とミスコミュニケーションを起こしてしまうから混乱するだけで。
「……説明、しているのかな」
私は自分の好きなことを真山くんに話すのが好きだ。実質的な押し付けになってしまっていることすらあるけど。
「私のことだから、別の周の私がなんとかしてくれると思っていることすらありそうだよな……」
きっとシャワーの音で私の声は聞こえないだろう。でもこう、本来なら面と向かっていうべきことをこうやって隠れて口にするのはちょっと悪いことしている気がしますね、ワクワクする。
「卑怯、だけどさ」
陰口は心を楽にしてくれる。まあたいていそういう行為自体が自分の行動を変えてしまったり、誰かが聞いていたりみたいな形になるんだけれども。
早いうちにちゃんと言わないとな。具体的には今周中に。
「……ああ、こうやって降り掛かってくるのか」
今の私は今周で終わるから、あまり自分とか他人とかそういうものを気にしないでやっていこうと思っていた。でも、真山くんだけは別なんだよな。
今の私の考えは、今の私が言わないと消えてしまう。私はどうやら思考をあっちこっちさせるせいで、毎回考える方向が異なるのだ。
そんなとりとめもないことが頭の中を回っていたら、口の中に水が入ってきた。いつから閉じていたかもわからない重いまぶたを持ち上げる。
「ええと、そうだ、髪……」
シャワーを止め、シャンプーを雑につけてシャワーで流し、リンスを適量取って馴染ませる。ああ、腕が辛い。髪を洗うっていうのは正直苦手だ。それ以上に床屋が面倒なので行ってないけど。
合理的に考えたら、髪は短くていいわけだ。視界に入った黒い線を見る。私のじゃないな。真山くんか。何か変な考えが起こった気がしたが具体的に考えるほど脳の余裕がない。
「身体は……最低限でいいか」
脇とか鼠径部とか、汗が溜まりそうなところを。別に匂いをかがれたりなんてことはないだろうからそこまで念入りにする必要もないしね。
溜まっていたお湯に身体をつけ、リンスを流す。雑に濁ったお湯に浸すとも言う。
「……あとは、身体拭かないと」
脚で栓に繋がっている金属のチェーンを引っ張りぬく。水道管を流れていくお湯の音と水面が下がったことで増えていく空気と触れ合う肌の面積。
畳まれたタオルを取り、ガシガシと髪を拭く。手入れができるほど肉体的にも精神的にも余裕がない。
「あがったよ……」
なんとか最低限の格好に着替えて、ふらつきながらベッドに倒れ込む。ああ、吸い込まれる。濡れたバスタオルを干す気力もない。
「真山くん……」
もぞもぞとシーツに潜り込みながら隣を見ると、彼はもう寝息を立てていた。うん、早寝は大事だよね。
ちょっとだけ近づいて頬にでもなにかしてやろうかと思ったが、身体が重すぎてやる気が出ない。手を伸ばして、電気と枕元の明かりを消すだけにしよう。