今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

58 / 200
高校一年生 五回目 三周目 四

結局、朝からシャワーを浴びる事になっている。

 

ごわごわの髪はどうやっても跳ねるようになってしまっていて、一度丁寧に解きほぐすように手入れをする必要があった。シャンプーが変わったからっていうのもあると思うけど。

 

「大丈夫?」

 

「なんとかね」

 

シャワーを止めたら真山くんの声が聞こえた。この宿は二日取っている。昨日と今日というわけだ。朝ごはんとかは特に付いていないし、なによりもう昼前という時間である。夜更かしは高校生の敵だね。

 

私たちは同じ屋根の下で何もせずすやすやと寝ていたわけである。うん、別に悪いことではないよな。いいことかどうかは知らない。

 

「……手伝ってほしいけど、無理だな」

 

「何を?」

 

「髪をどうにかするの」

 

人間の身体は構造的に見えない後頭部を洗うのに適していない。洗面台はあるにはあるが、頭を入れて洗うには微妙なサイズだ。ああ、こういうところでコスト抑えているから安かったのね。かといって私たちの予算相応だと言われればそれまでなのだ。

 

「……歯磨き、取っていい?」

 

「いいよ、左のほうね」

 

カーテン一枚挟んで好きな相手がいるというのは案外緊張するかと思ったが、それ以上に髪が厄介なことになっていて大変だった。

 

「今度から私が髪濡らしたまま寝落ちようとしていたら起こしてね」

 

「そもそもそういう場合なら僕は寝てると思う……」

 

「たしかに」

 

まあ疲れている時は仕方ないしな。ちなみに私は髪の手入れをそこまでする方ではないが、まあ短くはないので最低限はしている。ええ。家ではリンスインシャンプーですけど。

 

「やっぱり髪洗うの面倒だな……」

 

「寝ぐせ?」

 

「うーん、もっと派手なもの」

 

歯磨きの音が終わった真山くんが言う。私の方もなんとか整った。

 

「あ、バスタオル取って」

 

「はい、これ」

 

カーテンと壁の隙間からごわごわしたタオルがすっと入ってくる。

 

「ありがとね」

 

そういえば着替えは……うん。畳んであるとはいえ、真山くんの眼の前にあるよな。なんていうか、明らかに私の中の真山くんに対する距離感がおかしくなっている。

 

こういうのって無意識に起こるものなのか?私は自分が今経験している一例しか知らない。ただ、私と似た他の私もやらかしている可能性は十分にある。

 

「ねえ、真山くん」

 

口が馴染んでいる。いままでさんをつけて呼んでいたのは何だったんだろうな。

 

「なに?」

 

「私と真山くんの距離感って、今までどうだった?」

 

「……少なくとも、僕は異性をいきなり宿泊に誘うような人を和乃さん以外知らない」

 

異性とか同性とか私は頑張って気にしないようにしているけど、まあ確かに同性ならいいって風潮はあるよね。

 

「……嫌なわけじゃ、ないよね」

 

「和乃さんだから来ている」

 

「……なるほど」

 

「毎回毎回、和乃さんのほうから色々してくるし我慢するとまでは言わないけど、なんていうか……」

 

「わかった。どうやら私はある一定以上を超えるとブレーキが効かなくなるみたい」

 

「最後の周にはそうならないよう頑張るよ」

 

「……そうだね、私に頑張らせて」

 

私のことなのだ。常識的に考えたらこれは私がやらなくちゃいけないことだ。でもどうしても限界はあるわけで、それを真山くんに助けてもらうこと自体は許される範囲だろう。

 

私自体との関係性が報酬になればいいけど。身体で払うみたいなやつは、まあ、ループ外でやってほしいな。何度も支払いをさせるのは不公正だし。

 

「僕は和乃さんと一緒にいるのは楽しいし、色々と良くないって思うところもあるけど全体で見れば好きだよ」

 

「できるだけ問題点は改善させていただきます……ループ中はご迷惑をおかけしますがなにとぞよろしくお願い致します……」

 

私はただ頭を下げるしかできない。

 

「出るね」

 

「はーい」

 

あとは着替えて、コンセントを差して、ドライヤーで丁寧にしっかりと根本まで乾かすだけだ。

 

「どうかな」

 

「……触っていい?」

 

「髪を?」

 

「うん」

 

「いいよ」

 

真山くんの手が伸びて、彼の指の隙間を黒い髪が流れているように滑る。

 

「……綺麗だと思う」

 

「あまり手入れしていないんだけれどもね」

 

「……そう」

 

ちょっと対応がまずかったな。ああ、なんか今周は失敗してばかりな気もする。

 

「今日は、どうしようか」

 

「お寺見に行くって言ってなかった?」

 

「もっと他のもあるんじゃないかなって」

 

街を見て歩くだけでも観光になる。足はつかれるけど。

 

流行りの映画を何本か連続で見てもいい。お金は飛ぶけど。

 

図書館でだらだらしてもいい。今日一日このホテルにいて時間を潰してもいい。

 

色々とできることはあった。というか別に旅をする必要もなかった。

 

「……和乃さんが選んでくれたら、僕は着いていってるだけだよ」

 

「不満だったら次の周ではやらないでね」

 

「前の周で楽しかったから、僕は今日じゃなくて昨日から和乃さんといるんだけど」

 

真顔でそう言われるとかなり恥ずかしくて目線をそらしてしまうよな。

 

「わかった。じゃあよくある観光コースにしよう」

 

私はホテルの入口で昨日回収しておいた地図を広げて、日が暮れるまでに回れる範囲でどうやって旅をするべきかハイキングコースを見比べた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。