昼まで寝ただけあって、かなり夜遅くなっても私と真山くんは元気である。なお残ったお金は宿代を払ったらほとんどなくなる。
「……怖くなってきた」
今日はとても楽しかった。予定は少し変更して行きやすい場所を選んで、のんびりとした観光を楽しむ方針にした。真山くんの反応を見る限り、彼も悪くなかったらしい。
「……そばにいようか?」
「いやいたからってどうにかなるものでもなくて……」
私は頭を抱えながらベッドの上をゴロゴロと転がる。ホテルの部屋に心が馴染んでしまったので、少し名残惜しさがある。
「……理由を聞いてもいい?」
「もしなにか計算が一つ間違っていたら帰れなくなる」
「……そっち?」
「あ、終わるのを怖がっている……って話を、いつかの私から聞いた?」
頷く真山くん。いいやつだよ本当に。もっといい人がタイムリープに付き合えるほどの頭の回転の速さを持っていたら良かったのにね。
「……確かにそれは怖くはあるけど、今の私には終わらないほうが怖い」
何か事故があって電車が止まったら、とか。警察とかに非行少年少女扱いされて予定がズレたら、とか。
いや親に頭下げればどうにかならなくはないと思うけど、思春期の少女ですしあまりそういう形で頼りたくなくて。学費出してもらって衣食住見てもらって何を言っているんだとも思うけれども。
「……よかった」
「よかないけどね。……っと、そろそろコードを問い合わせてみようか」
そう言って私はスマホを触って、真山くんに見えないようにコードを打ち込む。ええと、1でいいか。
「今回のコードは何を試したの?」
「私たちが旅したことで、影響が出た可能性について」
いやでもどっちにしろ私たちは地元にはいないわけで、あまりいい検証方法でもなかったかもしれないな。
「具体的な説明を聞いていい?」
「いいよ。方法としては地域を絞ったニュース記事と、位置情報で絞り込んだSNSでの投稿を組み合わせる」
「……僕たち以外の誰かの行動が僕たちのせいで変わっていたら、違うニュースが流れたり、違うタイミングで投稿されたりしているはず、ってこと?」
「その通り。ただ、問題は変わるかどうかだけを検出できるようにしたので何がどれだけ変わったかがわからないってこと」
時間、タイトル、投稿内容、アカウント。考えられる色々な要素をハッシュ関数に突っ込んである。本当はもっと整理したかったんだけど、あまりいいアイデアが思いつかなくて。
そうこうしていると受信音。保存していた十文字とは明らかに違う。
「やった!見て!」
「……全部違ってない?」
「送る情報がほとんど同じでも、コードが大きく変わるように設計しているから仕方ないよ」
そう言いながら復号を開始。並ぶは30個の0と1。
「うーん、変わったのはSNSのほうだけかな」
また別のメールを送る。これはコードを作るために使った情報を見るためのものだ。本当は仮想マシン上に保存されているデータを直接見たかったのだが、ポート開放がよくわからなかったので無理やりにメールで送る形にしている。
「つまり、SNSとかの方は変わりやすいけどニュースはあまり変化しないって考えてもいいかな」
「そうだね、例えば投稿タイミングは私たちが電車で降りる時に手間取ったりするだけで変わる可能性があるけど、ニュースの方はある程度文面のパターンとか時間が決まっているから変化しにくいのかも」
「それで、ここから何かわかることがあるの?」
「私たちが旅行した程度では、世界の大筋は一日ぐらいじゃ変わらないってこと」
本当はもっと派手な実験もしたいのだが、あまり派手なことをやりすぎると警察とかの問題が出てくるのだ。ループについてよくわかっていない今ではやりたくないわけだ。
「……次からの和乃さんには、SNSだけが変わったって伝えればいい?」
「そうだね」
はい、今周の私の考えるべきことは終わり!あとはだらだらしていい時間だ。
「……お疲れ様」
「今周はどうだった?」
答えあわせをすること自体には、もうすぐ終わってしまうだろうことを考えるとあまり意味はない。けれども、それでも真山くんが今周を振り返る手助けになるし、私が嬉しい。
「楽しかった」
「それは何より」
時間は間もなく。あと数分。何をしたらいいのか、私はちょっと悩んでしまう。真山くんとちょっと触れ合おうと思ったが真山くんは今まで私とハグをしたことがないわけで。うーん、どうしよう。
「……そろそろだね」
「だね、やりたいことはある?」
「……うーん、結構満足したし、疲れた」
「なら次の周はもっとゆったりする?旅しなくてもいいけど」
「戻ったら体力は戻ってるから、また行こうかな」
「次は四周目でしょ?そろそろ危なくならない?」
「次で最後にするよ」
「そう、わかった」
手を伸ばすべきだろうか。熱を感じて終わるべきだろうか。さっきまで私は金銭的問題で終わって欲しいって考えていたのに、今になっては続いてほしいって考えてしまっている。
まあ、いいか。もし終わったら覚えているハグになるんだし。
秒単位で終わる時間はわかっている。私は立ち上がって、真山くんに向かって歩きだ