今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

62 / 200
高校一年生 五回目 四周目 三

普通の高校に通う高校生が考えられる贅沢な食事というのは、案外たかが知れている。

 

例えば駅の天ぷらそばにかき揚げを乗せてみたりとか。

 

たっぷりとトッピングを載せたラーメンに刻んだ焼豚を乗せたミニ丼をつけてしまったりとか。

 

あるいは、なんか高級なことで名前をよく聞く焼肉屋に行くとか。

 

結局私たちが選んだのは最後のやつである。肉、肉、肉に肉。野菜などという軟弱なものは食べない。嘘です。最初の方できつくなったので私はしばらく野菜タイムでした。

 

「よく食べるね……」

 

「体重とか胃もたれとか、そういうのはもしあれば明日の自分に任せればいいの」

 

こういう肉体的な問題は引き継がれないし次の周の私にも影響ないのはいいよね。ええ、前の周の私がどうやら色々とやらかしているらしいことをやっと自覚した私です。

 

「真山くんも食べなよ」

 

「食べようとしたやつを和乃さんが取っていくんだけれども」

 

「私が食べているのはこのラインより私の方にあるやつだけだよ」

 

そう言って私は脂煙に手を突っ込んで暫定境界線をなぞるように指を動かす。

 

「……そうだっけ」

 

「たぶん」

 

「……よく考えたら、僕はあまり肉を焼いていない?」

 

「まあトングも肉も私の方にあるからね」

 

「……ありがとう」

 

「いっぱい食べな」

 

ちなみに今晩は支払いを踏み倒せるほど夜遅くまでいるつもりはありません。条例とかに引っかかるしね。一応終電よりも先にループの終わる時間は来るので一緒にいること自体はできるんだけどさ。

 

「……今日は楽しかったんだよ」

 

「良かった」

 

「でもさ、前の周とか、その前とか、和乃さんに振り回されていたのも楽しくて」

 

「……たぶん悪い相手に引っかかってるよ、気をつけた方がいい」

 

「それは自覚している」

 

「客観視ができていて何より」

 

タレが染みつつある白いご飯。厚めのお肉。ちょっと焼き加減が甘かったかな。まあいいや、食中毒になってもどうせ困らないのだ。何だって一回は食べられるんだよ!二回目があるかどうかは知らない。

 

「どうしたらいいのかな」

 

「何が?」

 

「和乃さんといるのが辛いって思ってもおかしくないはずなのに、楽しんでいて」

 

「……私を前にそれを言うの?」

 

「結衣さんはいつも僕を前にブレーキかけずにそういう話をしていたよ」

 

「ごめんなさいこれいい感じに焼けたお肉です」

 

そう言って私はかなりいい肉を皿網越しに皿に乗せる。

 

「そういうことしても許したりはしないからね」

 

「次の周の私が不利益を受けないようなにとぞ寛大なご処置をお願い致します」

 

「……そういうところが好きなんだけど、変なのかな」

 

「恋っていうのはそういうものだよ、理屈で考えると失敗する」

 

そして理屈で考えないと失敗するのだ。まあ真山くん相手であれば、あるいは私相手であればそう酷い間違いはないだろう。

 

「……和乃さんは、経験があるの?」

 

「恋愛の?それとも、それより先の?」

 

「……全体の」

 

「……そうだね、あるよ。ただ、詳しいことは話したくない」

 

好きになった相手の脳をわざわざ破壊したくはないっていうのはある。秘密を晒して嫌われてしまわないか不安だというのもある。自分の失敗を隠しておかないと恥ずかしいという気持ちもある。

 

「わかった。いつか話してもらえると思う?」

 

「あと数周程度では無理だと思うよ」

 

ああ、そういえばこの秘密は一応第一級のものにしていたんだよな。これを話した記憶がない相手が知っていれば、基本的に相手の言うことを聞くというもの。

 

いやその、秘密で脅されてみたいな被虐趣味ってわけではないですよ、むしろ私はかわいい少年を愛でるほうが、って何を言っているんだ私は。

 

「……わかった。話してもらえるように頑張る」

 

「そこまで行ったら、たぶん相当私は君を信頼していることになるよ」

 

「うん」

 

あ、顔が明るくなった。いいことだ。ちなみにこういう会話をしながらそれなりの量の肉とそこそこの野菜と大盛りのお米が消えて行っている。ちなみに何も考えずに食べたが五桁は超えなさそうだ。よかった。

 

「今日は私の奢りね、デートプラン作ってもらったお礼」

 

「……釣り合わなくない?」

 

「なら明日埋め合わせに払ってよ、あればだけどね」

 

「……あったら覚悟しておいて」

 

「いいよ、何なら身体で払ってくれてもいいから」

 

真山くんの肉体の価値を頭の中の算盤を弾いて計算するが、たぶん有り金全部はたいても買う価値があるって結論になってしまった。たぶんここらへんの計算能力がぶっ壊れています。

 

「……そういうの、できればやめて」

 

「嫌だった?……ごめんなさい。ただ、次の私がやらかす可能性はあるので、申し訳ないけどあと数回は言って欲しい」

 

「そうじゃなくて。嫌じゃないんだけど……やめてほしい」

 

「……わかった」

 

なんていうか、大変だよな。嫌だと思わなくちゃいけないことが楽しくて、嫌じゃないことをやめてほしいって言わなくちゃいけないの。この矛盾が恋って言ってしまえばそうなのかもしれないけどさ。

 

ひとまず、今はお肉を食べよう。もう腹八分目は超えているが、まだ残っているお肉を食べ尽くすぐらいはできる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。