今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

63 / 200
高校一年生 五回目 四周目 四

「帰りたくないの?」

 

条例で私たちのような青少年が外出していると保護者が怒られる時間に突入した。そうして、ループが終わる時間までももう間もなくである。

 

「……最後まで、一緒にいたい」

 

「私のため、だったりするの?」

 

鉄棒に座りながら私は言う。こうすると真山くんよりちょっとだけ目線が高くなるのだ。引き換えに手とおしりが痛くなります。

 

「……どう言って欲しい?」

 

「そうだね、肯定しても否定しても、私は満足すると思うよ。そりゃまあこれでお別れなのは寂しいけど、翔太(ショウタ)君との時間は楽しかった」

 

ふふ、ちょっと近づく速度を上げてみた。呼び捨てにはできなかった。いや深夜テンションで後で恥ずかしくなることとかを無視してそれっぽい事を言っているわけではないです。

 

「結衣さんは、いつも逃げてるよね」

 

「真山くんから見た私たちはそうなんだ。私もそうだけど」

 

知らんよと思う自分と、まあ私だからなと納得している自分がいる。私は自分ひとりだけのアイデンティティならなんとかなるけど、他のループのも含めた自分たちをどう捉えていいのかはまだ考えきれていない。

 

「……ずるいよ、僕は忘れられないし、諦められないし、ずっと抱えなくちゃいけないのに」

 

「終わってしまう私に押し付ければいいのに」

 

「それができると思う?」

 

「できないところも好きだよ」

 

私の声がかすかに響いて消えてゆく、静かな公園。街灯の向きがあまり良くないな。できれば私の顔が逆光になってくれればよかったのに。

 

そうしたら私はこのどういう表情をしていいのか悩んでいるのを真山くんに悟られずに済むし、真山くんの顔をじっくりと見れた。

 

いや、やっぱなし。悩んでいるような顔、見たところで私がつらくなるだけだ。まあ顔をそらすつもりはない。時間になれば終わるのだ。どうせなら最後までは向かい合っていようじゃないか。変なところで律儀だよな、私。

 

「……次の周、嘘をついてもいい?」

 

「何を言うの?」

 

悪巧みだ。私を騙そうというのだろうか。あるいは私を傷つけないようにしようというのだろうか。まあ同意を取ろうとしているあたり、真山くんは変なところで律儀である。私と同じだ。

 

「周の回数について、嘘を言おうと思っている」

 

「……上に?それとも下に?」

 

「下に」

 

「……次は、五回目だよね?」

 

「そうだけど、どうして?」

 

「今の真山くんが嘘をついている可能性もあるでしょ?」

 

実際のところ、ないわけではない。今日使ったお金は、本来宿泊旅行をしていた場合に比べれは十分少ない。だから今回でループが終わったとしても、相対的に問題は抑えられる。

 

それに今が何周目かは、真山くんが数えない限りは把握できない。これはループの特徴だ。いやもしかしたら真山くんの身体のどこかに残り回数が出たりしているのかもしれないけれども。

 

「……信じて」

 

「今から私に嘘をつこうとしている人が、そういう事を言うなんてね」

 

まあ、五周目なら大丈夫だろう。終わる可能性は低い。嘘をついたことで起こる利益も不利益も、全部真山くんのものだ。

 

そういうふうに自分を扱われて嫌じゃないのかって?まさか。恋愛感情というのは不条理なものなのだ。もしかしてご存知ありませんでした?まあ真山くんとの関係って、そういうのも含めたものだからね。

 

「……やめようか?」

 

「やって。ただ、約束を一つ。必ず終わる前にネタバラシをすること。ループを出たら、その時の私に報告をすること」

 

「いいけど……どうして?」

 

「その反応自体は、たぶん私が私を知るために重要になるから」

 

自分が特別な状況でどういう行動をして、どういう判断を下すのか。逆上して怒ることはありうるけど、もしそういう事が起こるなら今後の問題を防げる。かわりに次の周の真山くんにはちょっと傷ついてもらうことになるけど。

 

もし今が五周目だってなったら?今の私の場合なら、四周目と五周目にそう違いはないって言える。どうせ消えてしまうものだ。だからまあ、嘘の影響力はない、はず。

 

六周目とか七周目で、ループから抜け出せる周だったら?まあ、ちょっと不満にはなるだろう。ただその苛つきをぶつけられるような場所は残念ながらこの近くにない。どうするかな。

 

「……和乃さんは、やっぱり変だよね」

 

「知らなかったの?」

 

「知ってる。そういうところも好きだよ」

 

さっき言った言葉を返された形になる。私はどういう表情をしているのかな。照れかな。こういう時にすべき表情を知らないから、うまく表情筋を動かせるとは思えない。

 

「……ハグしたいけど、できないのは辛い」

 

「真面目なやつだよね、本当に」

 

私だってしたいですよ!かなりいい雰囲気でしょこれ。知らないけど。幸い深夜なのもあって、あたりに人目はない。ちょっとやそっとのことをしても問題ないわけで。でもしないよ。

 

「ところで、あとどれぐらい?」

 

自分で確認しようにも、スマホはズボンのポケットの中だ。どうせあとそう時間もないし、カッコつけたまま終わらせてよ。

 

「あと五秒」

 

「思ったより短かった」

 

なんか締まらないなぁ。いいか。

 

「楽しかったよ、またよろし

 

[四周目終了]

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。