今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 五回目 五周目 一

「四周目」

 

自習室に真山くんの声が響く。

 

「……前の周の成果は?」

 

私は読んでいた英語の参考書から目を上げる。

 

「ええと、SNS以外は変化がなかった」

 

「なるほど……。ところで、どれぐらいのことをした?」

 

「明日出かけたぐらいだよ」

 

「なるほど。じゃあ案外変わるもんなんだ」

 

第三者に対して積極的に働きかけたとかならそう言ってくれるだろう。詳しいことは後で聞くとしても、影響はないわけではないと考えていいだろう。

 

まあその影響が予期できない以上使うのは難しいんですけどね。イカサマというのは次に出る目がわかっているからこそ成立するんですよ。

 

「……今周、付き合って欲しい場所があるんだけれども」

 

「いいよ。どこまで行く?」

 

「水族館とか行かない?」

 

「……なんか、ごめん」

 

私は机に視線を下げてぽつりと呟く。申し訳無さがちゃんと心から出てきてくれた。

 

「えっ」

 

「どうせ二つ前の周の私がそうとう酷く引きずり回したんでしょう?」

 

「……どうしてそう思うの?」

 

あれ、外したかな。まあ一応今の私が得ている情報を整理しておこう。

 

「まず一つ、ループ期間は……二日間?」

 

「一日半」

 

明日に旅をしたってことは少なくとも一日半はあるわけで、もう一声かなと思ったが最低限みたいな時間だった。

 

「ってことは、私は宿泊旅行プランを出してきたと思う。一周目は今日みたいに勉強してそのままだっただろうし、前の周の今日は何もやっていなかったらしいから、泊まったとしたら二つ前の周になるよね」

 

「……うん、正しいよ」

 

あら、当たっていた。正直かなりいい加減な仮説だったんだけどな。真山くんがいきなり今から泊まろうって言われて素直に家に帰って寝巻きとか持って来てくれるってことだよね。

 

「四周目ってことは、終わりまではまだ遠いはずだよね」

 

「……うん」

 

自信ないのかな。でも前は二日弱で五周だった。なら、今回はそれより長いと考えるのが妥当だろう。ここの法則性は確信があるわけではないけど、真山くんの経験則を信じよう。

 

「それなのにあまり攻めてないプランだった。いや、最近というか水族館はあまり行った記憶ないから楽しめるだろうけど、その……」

 

「なんとなくわかる。……実際、疲れた」

 

「ごめん」

 

私を一晩相手するの、まあそう簡単なわけないですものね。いえその、文字通りの意味ですよ?

 

「でも、楽しかったよ。それはそれとして今周はゆったりしたい」

 

「付き合うよ。で、この近くの水族館となると……」

 

私はスマートフォンを取り出してちゃっちゃかと検索ワードを打ち込む。ええと、いくつかある施設の中で高校生の少年少女が逢引に使うような水族館だよね。

 

「ここ?」

 

「そう」

 

「なるほど。行ったことあるの?」

 

「……うん」

 

「私以外と?」

 

「……うん。昔の話だよ」

 

なるほどね、デートみたいなものか。あれ、でも真山くんはそういう経験があまりなかったとか言ってなかったっけ?いやでも私と違って友人がしっかりいる真山くんだからな。普通に一緒にどこか行くことぐらいあるか。

 

いや別に、嫉妬じゃないですけど。初めてがいいっていう欲求は、まあ私のことを考えたら対称性的に諦めたほうがいいわけで。やめやめ。この方向をやるとたぶん誰も幸せにならない。

 

「そうなんだ。じゃあ、案内はお願いしていい?」

 

私が全部やってもいいし、正直ループが終われば私は消えるので多少の無茶をしてもらってもいいんだけれども。でもやりたいって言ってくれる真山くんは尊重されるべきだよね。

 

「任せて」

 

「予習はちゃんとしておくといいよ」

 

私はそう言って、今の勉強の進捗を頭の中で考えていく。宿題は今晩……はちょっと辛いな。ループがなかったら明日の夜には終わっていただろうけど、どうせ今周で終わるならやる必要もないし。ふふ、悪い子になっている。

 

とはいっても悪い子にはなりきれないんだよな。ここで真山くんと一線を越えるみたいなことはもったいないと感じてしまう。別に他の周の私なんて気にしなくてもいいはずなのに。

 

他人の目、みたいなものかな。真山くんが覚えてくれているから、私はあまり無茶をしなくですむ。だから覚えてもらうためにちょっと過激なことを、みたいな方向に思考が進んでしまったのでブレーキ。

 

「……じゃあ、今日は勉強の続きやる?」

 

「私は教える側に回るよ。ループ出たら教え返してくれたらいいから」

 

誰かに教えるってことは、自分の中の考えを整理したりするのに役立つ。この夏休みの間に私たちはよくわからない感じの教科書やら参考書を読み込んで、互いに教えあっていた。

 

結果として、高校一年生の範囲はなんとかおぼろげながら形は見えたというぐらいになった。もちろん演習は足りていないので授業から手を抜けるわけではないんだけれども。

 

「わかった。ええと、情報の場所なんだけど」

 

そう言って、真山くんは慣れた手付きで本棚から新品みたいな参考書を取り出した。幸いなことに、私が何とか答えることのできる範囲の問題だった。

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