「……どう、だった?」
「私は楽しめた。真山くんがどうなのか聞きたいな」
夜の公園。見つかったら補導されるような時間。
「……飽きた」
「へぇ」
「何度も何度も、和乃さんには届かなくて、終わるまで待たなくちゃいけなくて、全然和乃さんとの時間を楽しめなくて」
堰を切ったように、真山くんの声が私にぶつけられる。
「……うん」
「なにか変わるかって思ったのに嘘をついたのに和乃さんは構ってくれないし、抱きつこうとしても終わったらねってはぐらかされるし」
「あー……」
たぶんそれを私は特別なことだって考えて、終わってからにしようって言ったのかな。いや別にハグぐらいならいいんじゃないのって考えと、あまり自分の身体を安売りするなって考えがある。
ここらへんの価値観はそれなりに食い違いから問題が起こるやつだ。伏せ続けるのも問題があるけど、無闇矢鱈と開示すればいいってものではないし。
「……もう、いいよね」
真山くんが一歩踏み出す。半歩下がる私。
「どうせどの周の和乃さんも、僕が経験ないからって弄んでいたんでしょう?」
「……たぶん、そう」
両手を上げて、降参したようなポーズを出す。いやだってその、ここまで追い詰められているというか、追い詰めてしまったっていうのは想定外で。
そうだよな、それが普通だよな。ループっていうのは飽きるもので、終わらないから辛いもので、それを乗り越えて成長があるみたいなものだ。
真山くんは、それ自体には慣れてしまったのだ。慣れてしまったからこそ、たぶん私に耐えられなかったんだな。
単調なループの中でも、私と関わるだけで毎周変化がある。それも、ほとんど受動的に。
ただし問題は一つ。私は記憶が連続しているわけではない。戻る度に、私が演じているだけだって事実を突きつけられる。
それはたぶん私以上に私を大切に思っている真山くんにとってはかなり辛いことで、なんてことをやけに冷静な頭で考えていると真山くんに手首を握られた。
「ねえ、結衣さん」
目線が斜め上に上がる。身長と体格の差は、こうしているとはっきりとわかる。
私よりも大きい手と長い指。かけられた力は痛いとまでは行かないけれども、ちょっと動かした程度では振りほどけそうにないと感じさせるには十分だった。
というかまつ毛、長いんだな。鏡越しに見る私ぐらいの距離だ。いや問題はそうじゃないよ。
「……なに?」
「……どうしたらいいと思う?」
いやこの状態で私にボールを投げるなよ。
「真山くんはどうしたいのさ」
「……結衣さんに、忘れてほしくない」
ああ、問題はそこになってしまったか。もっとこう、雑に考えればいいのに。私は真山くんにとって、利用できる相手ではなくなってしまったんだ。
「無駄だよ。どうせ私は時間が経てば君のことを思い出せなくなる。ループがなくたって、クラスが変わって、高校を卒業して、あるいはもっと先になったら、声も、表情も、ループの事実さえも、私は忘れてしまう」
さて私、頭を回せ。今周の私はきっと今までで一番ボーイミーツガールしてるぞ。
「そういう意味じゃなくて」
「何が違うの?」
私は掴まれている手首を引き抜くようにして、真山くんの手の中に入った指を広げる。
「それは……」
「私に忘れられたくないなら、ちゃんと毎回話しかけて。情報を共有して。そうしてくれれば、私はきっと翔太くんに傷をつけられる。私がいなくなっても、真山くんが覚えていれば十分だよ」
指を絡めるようにする。ふふ、恋人繋ぎは初めてかな?真山くんは目を白黒とまでは言わないけど、驚いたような表情をしている。
「……あと一周か二周、耐えればいいの?」
「……今周って、何周目?」
「五周目」
「本当に真山くんは嘘つきだな……」
私は苦笑いを浮かべる。別にいいけどね。理由のない嘘なんて、私だってしばしば言うものだし。
「……ねえ、和乃さん」
「なに?」
「こういうさ、詰めが甘くて何やってもうまく行かなくて、自分の感情に振り回されてしまうような人って、好きになってもらう資格があるのかな」
「いや今の私は真山くん好きだし、ここまでされても私からの好意が変わらないとなると嫌われたいなら相当しないとダメだよ?」
真山くんが思い悩みすぎるようなら身を引くというか距離を取るってことも考えたけど、たぶん私のほうが耐えられないよな。少なくとも、数日の間に許容量を超えるような感情をぶつけられた経験があればそうなる。
「……信じていい?」
「私は真山くんを信じてるから。でも辛いなら距離を取ったほうがいいよ」
自分にできないことは相手に任せよう。耐えられるかは知らない。次の周が始まった瞬間に参考書を見ている私と目が合うわけで。
「……わかった」
真山くんは振り払うように手を引いて、私から距離を取った。
「よかったね、終わる前に言い切れて」
ポケットからちらりと画面をつけたスマホを出す。終わるまであと十数秒。
「……手を、さ」
真山くんは申し訳無さそうに、下を向いて、呟くように声を出す。
「ん?」
「繋いでいい?」
「……いいよ」
私の力の抜けた指の間に、真山くんの指がするりと入