今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 五回目 六周目 一

「帰る」

 

自習室に真山くんの声が響く。

 

「……わかった」

 

私は読んでいた英語の参考書から目を上げる。

 

「……何か言わないの?」

 

「聞いたほうが良かった?」

 

まあどうせ聞いたら聞いたで面倒になるんだろうな、そういう気配がある。

 

「……ごめん、今の和乃さんには関係のないことだった」

 

「暖かくしてなにかおいしいものでも食べなよ、私も今日はこのくらいにしておくか」

 

そう言って参考書を閉じて背伸び。さて、今の時点での可能性を頭の中で列挙していく。

 

一つ。ちょうどループ帰り。そして私とあまり良くない関係になった。何かはまだ聞かないほうがいいだろう。必要なら終わりの時間だけ聞いて、小さなアドバイスをするとか。いや下手な意見はそれはそれで状況を悪化させそうだな。

 

もう一つは勉強とかで参ってしまったというもの。この場合は時間を取ってゲームでもするのがまあ対処療法かな。

 

「……和乃さんは勉強したら?」

 

「たまにはサボったっていいでしょ、帰ってお昼寝……」

 

あくびを一つ。ええ、毎朝起きて学校に来るというのは実はなかなか辛いものなのですよ。

 

「……和乃さんって、思い切りがいいよね」

 

「そうじゃなきゃ楽しくないからね」

 

実際のところ、私ってそこまで割り切れているのかな。真山くんから見た私なんて、あくまで一面に過ぎないだろうし。どこかで昔の思い出したくない秘密を聞き出せていたりするなら話は変わってくるけどさ。

 

「……帰らないの?」

 

私が鍵を手に明かりを消そうとしても、真山くんはまだ椅子に座ったままだった。

 

「……鍵は僕がやるよ」

 

「そう」

 

壁のフックにリングを引っ掛けて、私は歩き出す。もし明日があれば、まあ真山くんにはたぶんあるけど、気が変わって私と話してくれるかもしれない。

 

ええ、正直何かあったのは間違いないと思いますよ。話しかけて欲しいのかもしれないし、一人きりの時間が欲しかったのかもしれない。

 

でも話したいならもっとやり方があるんじゃないか?そういうことをする余裕がないぐらいの疲れがあったのではないか?そんな疲れるここ数日だったか?

 

「やっぱり、ループの可能性は念頭に置いておいたほうがいいかな」

 

となると期間と今が何周目かを知りたいってぐらいだが、別にそれは知ったところで意味のあるものじゃないしね。もしループ中にやらなくちゃいけないことがあるなら、そう言ってくれるはずだ。

 

「あー……」

 

まあそんなことを考えて無意識に足を動かしていたら職員室の方に歩いてきてしまったわけで、なんていうか、その、自分の行動に気まずさみたいなものを感じてしまう。

 

「寝るか」

 

ちょうどそこに現れたのは夏の日光を浴びて暖かそうなベンチ。なぜ廊下にこんなものがあるのかは知らない。そしていい感じに頭に当たる部分が日陰だ。これは寝ろと言っているようなものだろう。

 

固めのクッションに身を横たえる。勉強で硬くなった身体から力を抜く気持ちよさ。クーラーの効いた空間だと感じる少しの寒さを埋め合わせるような日光。

 

たぶんあとしばらくすると太陽が動いてこの完璧にも近いバランスの日の当たり具合は変わってしまうだろう。私はちょっと目を閉じる。

 

夏休みの学校というものは、ほとんど人がいない。部活とかで来ている人は体育館か校庭だし、それもこの暑さで昼間はやらないなんてことになっている。ましてや勉強のために来るなんて、逢瀬もなければしない。

 

なのでまあ、私の眠りを妨げるとしたらなぜか来て仕事みたいなことをしている先生が暇つぶしに校舎をぶらつくか、あるいは下校時刻を回って守衛さんが鍵閉め確認ついでに回ってくるとか。

 

「……何してるの?」

 

あるいは、こういうふうに廊下から同級生が椅子に横たわった何かを見て好奇心に駆られたかはともかく声をかけてくるとか。

 

「ねてる……」

 

頭の疲れが取れたことを考えると、それなりに時間が経ったのかもしれない。数分かな。数十分かも。一時間は経ってないかな。

 

「……なんで?」

 

「眠かったから……」

 

「……鍵、返してくるね」

 

金属が触れ合う音がした。たぶん鍵を私に見せるようにしているのだろう。足音からそれぐらいは察しが付く。とはいえ目は閉じているのでずり落ちて重力に引かれている腕を軽く揺らすのが精一杯だ。

 

「いってらっしゃい、おつかれ……」

 

そう言って去っていく足音を聞きながら、私はやっと思考力を取り戻す。

 

手首で口元を拭えば濡れた感覚。ええ、つまりアホな寝顔を真山くんに晒してしまったわけで。いやその、これっていいのかな。寝顔を見られるってどのくらい恥ずかしいことなんだ?

 

もしかしたら今はループの中で、前の周とかで私が真山くんを泊りがけの旅行に誘っているから寝顔なんて見られている可能性はあるけどさ。これは寝顔見られているって前提から無理に逆算したシチュエーションです。

 

まあいいや、二度寝しよう。微睡に落ちながらそれを意識できる、一番幸せな時間である。意識を手放しながら、私は真山くんの太ももでも枕にしたら頭のすわりが良くなるかなとか変なことを考えていた。

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