今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 五回目 七周目 一

「もう、やだ」

 

自習室に真山くんの声が響く。

 

「……何があったの?」

 

私は読んでいた英語の参考書から目を上げる。

 

「何度も何度もいいところで終わって、一体いつになったら終わってくれるんだよ……」

 

「……たぶん、私が悪い気がするな」

 

どうせループの終わりだからって煽ったりしているんだろ。真山くんが純粋に見えてなんだかんだいろいろ考えているけど表には出さないように頑張っているの知っているのになんでそういう事するかね。知っているから楽しいのか。なるほど。

 

「うん」

 

「肯定されてしまった……」

 

普通の真山くんはもう少しこう遠慮とかするはずなので、今回は珍しいパターンかな。というかそこまで追い詰められたというか面倒な体験をしている?

 

「うー……」

 

机に突っ伏して、明らかに不貞腐れたような真山くん。かわいいね。ほっぺつついていいですか?ダメ?はい。

 

「……何回も聞いてすまないけど、今は何周目?」

 

「……七」

 

「いつ終わりそう?」

 

「……たぶん今回。今回で終わってほしい」

 

「前回もそう言ってなかった?」

 

「……言ってた」

 

根拠もなく言ったのだが当たってしまった。

 

「期間は一日ぐらい?」

 

「一日半」

 

「なるほど」

 

前は三日弱。時間が半分になって、周の数が五から七か八か、それぐらいか。倍にはなってない感じかな?

 

「……結衣(ユイ)さん」

 

「なぁに」

 

おい、私のことを名前で呼んだぞ?いや別に嫌じゃないんだけれども、もうそういう関係になったのかな。すごい。私はよくやったものだ。

 

「今から意識を失って、目覚めたら明日の夜みたいな薬ってない?」

 

「……あまり一般的じゃないルートになりそう」

 

睡眠薬か、麻酔とかか。病院に行って麻酔かけてくださいって言ってかけてもらえるものではないし、睡眠薬は手続きが面倒だ。

 

今から病院に行って、処方箋書いてもらって……時間がかかるよな。ドラッグストアで買えるようなものはどうしても効果が落ちるし。

 

「例えば?」

 

「まあ、世の中にはそういう薬を必要とする業界があってね」

 

「……詳しいの?」

 

「全然知らない」

 

ええ、ネットをちょっと潜ればそういう話が出てきますよ。一時期はそういうのを見る精神的自傷行為をしていたが、耐性もできたし普通にそういうものを見ても面白くないなって正気になれた。またああいうものを見たくなったらたぶん病んでいるってことなんでしょうね。

 

「もう危ない薬でもいいから……」

 

「ループ終わるかもしれないのに身体に負担かけたらダメだよ」

 

「なにかないの?」

 

「喉の部位を圧迫して血圧を錯覚させて脳にまわる血流を下げるとかあるけど」

 

「……毎回思うけど、和乃さんってそういう知識をどこから手に入れているの?」

 

「いやネットで少し探せば出てくるし……」

 

古本屋で面白そうな本があったら買っているってことは今は黙っていてもいいな。いやその、猟奇殺人の記録とか遺体処理のマニュアルとか人間の耐えられる限界とか、そういう本は個人的嗜みなので。真山くんも嫌いじゃないかもしれないけど。

 

「普通は探さないよ?」

 

「そういうことしているから楽しくないんじゃないの?」

 

「……楽しい、か」

 

「そう。別に出かけなくとも楽しめるゲームはあるし、二人いれば話をして時間を潰せる。なんなら専用の話題生成用のアプリだって私は作っているんだよ?」

 

そう言って私は古いスマホを取り出す。

 

「ほら」

 

「……これをどうしたら?」

 

「振って」

 

画面に表示された三つの言葉。隣り合わせ、ロープ、音律。うーんまた使いにくい用語だ。誰だよこんなチョイスにしたのは。私だな。

 

「……何の話をすればいいの?」

 

「音律ってどういう意味だったかな」

 

新しいほうのスマホで検索する。ある音が他の音とどういう関係になっているか、その規則のこと。なるほどね。あまりわからん。

 

「……どうする?」

 

「隣り合わせ、をお題にしてみる?」

 

私はそう言って、真山くんの向かいの席から隣の席へと移動する。

 

「……和乃さんってさ、距離を詰めてくるよね」

 

「嫌だった?」

 

椅子を半歩ぐらいの距離遠ざける。手が届かない範囲。

 

「……我慢しているって言えば、察してくれる?」

 

「傷害罪にならない暴行罪の範囲だったら黙っておくよ?」

 

「何が違うの?」

 

「怪我が残るかどうか」

 

「……その、殴ったりとかだと思ったの?」

 

「嫌な相手って殴りたくならない?」

 

好きな相手に酷いことをしたいっていう感情については、今の私はあまり合意できないがそういう感情が存在することは知っている。

 

「……わからない」

 

「それはいいことだ」

 

私はちょっとだけ椅子を戻す。

 

「そういえば真山くんは理系と文系、どっちに行くか決まっているの?」

 

「いきなりなんで?」

 

「いや、ロープじゃないけど紐と音の話は物理で出てきたなって思って」

 

「……そういえばあったね」

 

「予習でもしておく?」

 

「そうだね」

 

そう言って私と真山くんは使えそうな参考書と問題集を取り出す。答えを見ながらでもそういう分野があるんだって学ぶことにはつながるんだよ。

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