「……なんとも、私は酷いやつだなぁ」
私は真山くんから今までの私達の所業を聞かされてげんなりしている。
「……でも、嫌いになれない」
「難儀なことで」
自習室には夕日が差す。もういい時間になりつつある。
「……結局、ハグしてほしくてずっと過ごしていた」
「十日間、のはずだよね」
「ええと、一日半だから……そのはず」
「相当濃密じゃない?」
旅行とか、逢瀬とか、夜の街とか。そりゃ一気に色々なものを摂取しすぎだよ。胃もたれみたいなものじゃないかね、その辛さ。
「……うん。変わったように思う?」
「確かに一昨日……いや、昨日の昼までの真山くんとは色々と違っているね。もちろん私が真山くんと認識できる範囲にはあるし、私はそういう真山くんのことがまだ好きだよ」
好意をちゃんと言うの、結構恥ずかしいものである。ボーイミーツガールのガールを演じるノリでもなければやってられないし、たぶん一週間後ぐらいには布団の上でゴロゴロジタバタしながら悶える私がいるだろう。
「……よかった」
「多少変わっても、私のほうが合わせるからさ」
「……よくないよ」
「確かに長期的な関係を考えればそうか……」
ループの間だけの関係とまでは行かなくとも、ある程度リセットを組み込んだ付き合いのつもりだった。でも、真山くんはそれ以上を望んでしまって、私はそう望むように煽ってしまったわけで。
「ところで」
「ん?」
「なんでこの話をループ中にしたの?」
私は話を聞きながら考えていたちょっと大きめの質問をする。
「……一旦、整理しておきたかった。もし次があっても、次はもう少し筋道立てて話せるから」
「そう。でも、話しすぎると内容が変わる……ああいや、変わってもいいのか」
「どういうこと?」
「証言みたいなものって、何度も話すと内容が変わることがあるのよ」
「……嘘をつく、ってこと?」
「意識していなくても結果的にはそうなる、ってだけ。例えば細かいところを思い出したっていうのと、前後の文脈から想像を当てはめてしまうの、あまり違いはないでしょ?」
「ループ中の記憶とかも、実は実際に経験したことと違うかもしれないってこと?」
「実際のところ、誰にも判定できないことだけどね」
真山くんの記憶だけがループの証明なのだ。場合によってはタイムリープを前提としない説明ができるかもしれない。確かに何度も世界が繰り返すよりも高精度の未来予知とかのほうが物理法則を崩す度合いは低いかもしれない。
「……そうしたら、他の和乃さんから受け取ったものってどうすればいいのかな」
「クーリングオフは適用外だよ」
「あれって八日間だっけ」
「商品によって違った気がする」
まあそんな馬鹿話をしているせいで、今日は全然勉強は進まなかったのだ。とても楽しい一日だったけどね。
「で、どうするの?」
最終下校も近づいて、私は荷物をまとめながら真山くんに声をかける。
「どうするって……」
「晩ごはん食べて、私は夜に家を抜け出せるよ」
「……ちょっと待って」
「あまり時間はないけどね」
そう言って電気を消す、と流石に暗すぎるので奥の方だけにしておく。校庭には明かりがついて、夜練の生徒たちがわちゃわちゃとしている。
「……どこか、特別な場所とかないかな」
「夜景の綺麗な場所で、高校生が夜歩いていても補導されにくい場所?」
「……そういう」
「あまり心当たりがないな……」
本当なら前の周とかにそういうの調べておけばよかったのかもしれないけど、時間というのは有限なのだ。真山くんはそれがちょこっと引き伸ばされているだけ。
「……公園でいい?」
「はいはい、眠ってしまわないように気をつけるよ」
もしこれでループから出れたら、私の手元には信頼できるデータが二つ手に入ることになる。規則性をちゃんと把握したいなら、あと一つは欲しい。
少なくとも、それらすべてを通るような曲線は用意できそうだ。三点を通る二次関数みたいなやつだな。実際はループ一周の時間が減れば全体の周数は増えるので山とか谷とかのあるグラフにはならないと思うけど。
「……今周で、終わるかな」
「さあ。でも、終わらなくても私は楽しかったよ」
「……よかった」
「でも、ループ中なら真山くんが楽しむことを優先させてもいいんだからね」
「ループしていない時は?」
「……一緒に楽しめるような選択を、できればお願い」
「……わかった」
「とはいえ私のほうが一方的に負担かけているとか感じたらちゃんと言ってね、別にこの関係を変えちゃいけない理由はないわけだから」
別に真山くんが私に飽きたり、他の人に好意を持ったり、ループの時に私を避けるようになったって、私にはそれを止める事はできない。かなり嫌だけどさ。
「変えたい、ですか?」
「なに、改って……」
「その、いつも結衣さんがからかってくるような行動するから本心が読めなくて」
「私に本心……あるかな」
大抵はその場のノリとかで動いている気がする。ろくでもない。実際は空っぽで、この好青年から好意を向けられるほどの中身がないとか気がつかれたら嫌だなと思うけどどうしようもないって考えてしまう。
「……もし僕が嫌なことしてきたら、言ってくださいね」
「場合によっては実力行使に出るかも」
「……あまり痛くしないで」
「わかった」
苦しいと痛いって別の感覚だよな、と余計なことを考える私の手から真山くんはすっと自習室の鍵を奪っていった。まったく、ループ内でぐらい私に全部やらせてよ。