今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 五回目 七周目 三

条例違反デートの準備である。いやというか今まで基本的に私と真山くんはループの終わりの時に一緒にいたらしいのでずっと条例違反しているんだよな。うーん悪い男である。こんなかわいい子を夜遊びに誘うだなんて。まあ今どきは男女関係ないし、何より私から誘っている方が多いはずだけど。

 

夜風に湿った髪が吹かれる。ぬるい空気を肺いっぱいに吸い込む。車のクラクションがどこか遠くから聞こえる。

 

今回、終わりを迎える場所に選んだのは駅から少し歩いたところにある跨線橋(こせんきょう)。線路を超えるための歩道橋みたいなやつをそう呼ぶらしい。私もさっき調べて知った。まあ確かに下にあるのは道じゃないからね。

 

自動車の方は電車とぶつからないように地下道を作ったけれども、歩行者用には昔ながらの錆びた橋で渡ってもらおうってことらしい。なんだよ、どうせなら地下歩道を作ってくれても良かったのに。ちなみにこの橋は今まで数えるほどしか通ったことがないんだけれどもね。

 

「……確かに、いい景色かも」

 

少ししゃがむと隙間から夜の街が見える。地形とかの関係で繁華街のあたりの色とりどりな光まで見れるのはいいな。飛び降り防止用かは知らないけど目線の場所に変な板がついているせいでそこまでいい眺めであるとは言えないけど。

 

「ごめん。……待った?」

 

振り向くと真山くんがいた。白いシャツと灰色のズボン。そういえばと自分の服装を確認すると黒めで夜のお出かけには向いていなかった。反射材でもつけておいたほうがいいかな。

 

「あまり待ってないよ」

 

そう言って時間を確認する。終わるまでは残り十分弱。ちょっと話したり、ぼんやりしたらすぐに過ぎてしまう時間だ。特に真山くんといる時には。

 

「よかった」

 

「ところで、どうしてここに?」

 

確かに景色は悪くない。でもしゃがまないと見えないのだ。隠れたスポット、って言うほどでもない。でもちょっと自慢したくなる地元の光景ではある。

 

「……ネットで色々検索したら、前に見つけて」

 

「前って、今回のループの間?」

 

「……そう」

 

「なるほどね」

 

電車が走ってくる。ドップラー効果を乗せた風切り音と風が吹いて過ぎていく。いいな、こういうの。夏の終わりって感じがする。

 

「何か、話でもする?」

 

静かになったところで、真山くんが口を開く。

 

「……何を話したらいいかな」

 

正直困っているところだ。だってさ、もう何回も私と真山くんはこういう時期を過ごしているわけで。たぶん私が話せるようなことは話し切っているし、それを超えられることを言えそうにない。

 

今までの私を上書きできるほどのことを、たぶん私はしない。いやその、できなくはないけどね?

 

例えばあと数歩踏み出して、噛み跡の一つでもつければいい。物理的な傷は癒えても、心につけたものはなかなか消えないのだ。うん、これはなしで。傷を癒やすのはかなり大変なのは知っているでしょうに。

 

「あと少しで、たぶん今までで一番長かったループが終わる」

 

「前回のほうが長くなかった?」

 

今周で終わるとしたら十日間。それに対し、前回は十四日ほどだ。基本的にループの期間が長くなるより全体の周の数が減るペースが遅いせいで総合的に見ると合計時間は伸びる傾向にある。

 

「そういう意味じゃない……んだよ、僕にとっては」

 

「そうだね」

 

もしこれで終わらなかったら、と考えてしまう。真山くんはかなり自信を持って今回で終わりだと言っているけど、前回も同じぐらい自信があった気がする。別に見たわけではないから断言はできないけどさ、あの落ち込みようからある程度は推定できますからね。

 

「……前に和乃さんにされたこと、し返していい?」

 

「何やったのさ、私」

 

今回聞いたものの中にあったかな。あるいは私がしそうなこととか。噛んだりしたのかな。

 

「……終わり際に、ハグしようとしてきた」

 

「うっわ何てことを。……何周目のとき?」

 

その意味がわからないほど、私は馬鹿ではない。ループの法則性を大まかとは言え掴んでいて、そういうことをするんだ。たぶんそれは噛むよりも強めの傷になっただろう。だからハグにそこまで執着しているのか。私のせいじゃないか。

 

「三周目。それ以外にも何回か、似たようなことをされた」

 

「……ごめん」

 

「許さない」

 

ああ、真山くんは結構お怒りのようで。まあ仕方がないよな。でも嬉しいと思ってしまっている自分がいる。過去の私たちは、ちゃんと真山くんに覚えてもらえたんだ。

 

「……いいよ、ずっと恨まれてあげる」

 

今周で終わってほしくないな、と思ってしまった。いや、別にこの恨みが続くならそれでもいいとも思えてしまっているんだけど。

 

ちらりとスマートフォンを見る。残り時間は少なくて、私が真山くんに抱いたよくわからない矛盾しているような感情をちゃんと分析するほどの時間の余裕はなさそうだ。

 

無言で彼は私に向かって歩き出し、ぼんやりとしていて反応できなかった私を

 

[七周目終了]

 

思い切り、ぎゅうっと、痛いぐらいに抱きしめてきた。

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