今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第六幕間
高校一年生 第六幕間 一


「……そろそろ、離さない?」

 

別に人が通るわけでもないのだが、気恥ずかしさみたいなものはある。

 

「やだ」

 

「……せめてさ、腕の上から抱きつくのはやめない?」

 

「……そうだね」

 

まあそういうわけで少しだけ緩めてもらったので腕を抜く。うん、少しだけ呼吸も楽になった。

 

肩の上から抱きついて体重をかけてくるような、たぶん甘えと束縛が混じったよなハグ。うん、思春期だね。私は今精神的にかなり余裕があるので抱きつかせてあげているって形になっている。

 

「……和乃さんって、あったかいよね」

 

「平熱がここしばらく高い時期だからかね」

 

「……そうじゃないと思う」

 

「はい」

 

身体の正面同士が触れ合う面積が増えたとかとかかな。まあぬるい風のせいであまり良くないけど。やっぱ涼しい環境で温め合うようなやつがいいよね。

 

まあいいや。自由になった手を私も真山くんの方に回す。うん、いいアバラだ。しっかり筋肉があるな。抱きしめていて質量を感じる。何を言っているんだ。

 

真山くんがしてくるハグはずーっと動かさないで圧力をかけるようなやつ。たぶん何かを吸収するか貯めるかしているのだろう。

 

「……離すよ」

 

「はーい」

 

そう言って彼は手を緩める。ふう。やっとかなり楽に呼吸ができるようになった。ハグは確かにいいんだけど体重かけられるのは疲れるね。やはり横になってするのがいいのかな。

 

「……嫌だった?」

 

「嫌ならそう言うか叩くかするから」

 

「……好きじゃないことをされたくないとか、ないの?」

 

「まあ真山くんがすることなら大抵は……」

 

そりゃまあ思春期の少年少女ですからね、一線を超えるみたいなことは十分あるでしょうよ。とはいえちゃんと知識持って準備してからね、っていうのは守ってくれるはずだ。私が我慢できるかはまた別の問題。

 

なにせ七周に渡って、まあ実際は二周目から六周目の五周の間私にかなり色々されたらしいからな。最後にちょうど反撃してくるようで良かった。

 

「……たぶん、何回も聞くと思う」

 

「わかったよ、何回でも答えてあげる」

 

そう言って私は時間を確認する。ループを抜けてから十分以上私は抱きしめられていた計算になる。

 

「……よかった、です」

 

「何が?」

 

「……結衣さんを、抱きしめるの」

 

「それはよかった」

 

私側が失うものはないし、むしろ心情としては落ち着けるので取引としては悪くない。あまりやられすぎると辛いけどね。

 

「……少しだけ、街を歩いて帰らない?」

 

「警察に捕まったらなんか適当にごまかそうね」

 

そう言って、私たちの生活圏とは別の側、線路を超えた先のエリアを歩いていく。うろちょろしながら駅まで行って、そこで線路を超えてそれぞれの家へと帰る算段だ。

 

「どうだった?今周は」

 

「……コードのこと、言ったっけ」

 

「確か聞いてない」

 

色々と七周目の時点で聞いていたのであまり情報共有は必要ない。ただ、ループが明けてから共有しようって思っていたことがあったかもしれないからね。

 

「SNSのやつだけ変わっていた」

 

「……そんなものか」

 

「なんていうか、和乃さんと会うまでループの最中って退屈だから嫌だったんだよ」

 

「まあ、そうだろうね」

 

同じような日々の繰り返し。成長とか変化とかを感じられないと辛いってことはよくわかる。私も一時期はそういうふうに感じてしまう時期があった。今はかなり楽しいですけれどもね。

 

「……でもさ、変わってしまうから早く出たいって思ったのは初めて」

 

「退屈じゃなかったからいいんじゃない?」

 

「それはそうだけどさ」

 

たまに車が通るような、見知らぬ道を真山くんと歩いていく。概ね駅への方向はわかっているので迷うことはないだろうけどね。たぶんそろそろ大通りにぶつかって、そこを曲がれば駅につくはずだ。流石に逆向きに進んでいる、なんてことはないだろう。

 

「……手、繋いでいい?」

 

「繋いだこと、なかったっけ」

 

「繋いで歩いたことは、ない」

 

そう言う真山くんが軽く開いた手に、私の小さな手をねじ込むようにする。別に指は絡めなくてもいいか。少し湿っている。密着している感じがある。

 

「そうなんだ」

 

歩幅をちょっとだけ広げておく。少しだけ気分が良くなる。いいな、こういう時間。たぶん夜遊びっていうのはこういう意味じゃないと思うけど。

 

「……恋人みたいだよね、こういう事するのって」

 

「……そう、だね」

 

ああ、照れてやんの。かわいいねぇ。私もかなり心拍数上がっているけどな。青春を楽しむ少女を演じていなければ心が持たない。

 

ええ、たぶん真山くんには経験豊富な同級生かなにかに私が見えているんでしょうよ。でもさ、別に私の体験は実はそんなにないんです。

 

例えば、こうやって手を繋いで歩いたのは初めてなんですよ。少なくとも、今の私にとっては。

 

「あ、あっち駅だって」

 

真山くんが青い案内標識を見上げて言う。

 

「よかった、迷わずには済みそうだ」

 

すれ違うサラリーマンらしい人を見て、どちらからかは知らないけど手をほどいてしまった。なんていうのか、こういう関係はまだ私たち二人だけのものでいいや。

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