今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第六幕間 二

「……おはよう」

 

あくびをしながらまた今日も、自習室。楽しい勉強の時間である。

 

「眠そうじゃない?大丈夫?」

 

「……平気だよ」

 

「……そう」

 

ちょっとよそよそしい空気というか、距離感を捉えにくい感じがある。あ、ちなみに私の目がしょぼしょぼしているのは昨日徹夜したからです。

 

真山くんには話せませんけど、夏休みの宿題をやっと終わらせられたんですよ。ちなみに机の向かいで真面目に英語の問題書いている彼は七月中に終わらせていたそうです。

 

そういう面倒なことを先延ばしせず、さらっと終わらせることができるからループの中であまり失敗しないし、私みたいなあからさまに変な相手ができてもトラブルを起こさずに済むんだよ。あとたぶん純情だっていうのも理由の一つだと思う。

 

ほら、恋人としては楽しくないとか言われるような相手なのかもしれない。優しいだけとか言われてしまうようなやつ。いやその、優しくて真面目で頭の回転がちゃんと速くて信頼関係をゆっくりと築いてもよくて誠実な男子なんて稀なんですけど。これ以上を求めるってどうすればいいんですかね。

 

「……やらないの?」

 

「やるよ、真山くんを見ていて楽しんでいただけ」

 

そう言って私は数学の教科書を取り出す。これで数学IAが終わります。一応確認として今日の午後は共通テストの過去問で該当部分を解いてみるつもりです。まあ試験形式に慣れていないので知識の抜けがないかぐらいに思っておこう。

 

高校受験で塾でやったやり方、昔は辛かったけど今考えると勉強の方法の王道みたいなやつだったんですね。まあだからといって楽になったわけではないんですが。

 

「……結衣(ユイ)さん」

 

「ちょっと待って、この問題だけ終わらせる」

 

章末の問題、範囲は統計。最近はここらへんが問われる問題も増えてきたそうで。細かい計算が必要だから苦手なんだよな。二回検算して合っていたからよし。

 

ざっくりと勘で仮の平均値を決めて、それを基準に再度計算し直す。分散とかは計算面倒だけど合計の値とかが問題中に示されていて助かった。ええと、平均との差の二乗は、二乗の平均の差。だからちょちょっと式変形をすればいい。

 

「……よし、解き終わった。ごめんね」

 

「いいよ。……さっきさ」

 

「ん?」

 

「僕のこと見てたよね」

 

「……そうだね」

 

「見ていて楽しいって言っていたけど、わかるよ」

 

「わかってくれるか……」

 

たぶん完全に対照的なものではないだろうけど、まあ互いに楽しむことができるのはいいことだとしよう。脚をじたばたさせたくなっていますが気合で抑えておく。いや、外見にはあまり自信がないのでそこを否定しないコメントは嬉しいんですよ。

 

「それで、明日って予定空いてる?」

 

こういう質問が純粋な予定確認以上のものだって理解できる程度には、私も真山くんの反応を把握できるようになっている。まあ私にとっては数日で真山くんの行動が変化していたから調整が少し大変だったけれども。

 

「……何もないはずだよ」

 

「どこか行かない?」

 

「真山くんはもう何度も行ってきたんでしょ」

 

泊りがけの旅行に二回、水族館に二回。まあ以前の回ではずっと喫茶店行ってフレンチトーストを毎周食べていたっていうから、ループの特性上そういう刺激が持ち越されないのか、あるいは飽きが来にくいのか。ここも確認しておきたいことだけど、いい方法が思いつかない。

 

「……今の和乃さんと行きたい」

 

「いいよ」

 

ループ中だってなっていると、私は真山くんに合わせようとして時々突っ走っていたらしいんだよな。真山くんからすれば毎回毎回迫られている感じがしていて大変だったらしい。でもこれ以降ループ中にハグしてくることはあるんだよな。

 

「場所ってわかる?」

 

「ええと……」

 

スマホで検索。ああ、乗り換え場所ってあそこなのね。

 

「大丈夫だよ、問題は早起きできるかぐらい」

 

「別に今日は夜遅くまでするつもりはないから」

 

「ループの終わりの時間が都合がいいといいんだけれどもね……」

 

いつ起こるのか、いつまで続くのか、何周で終わるのか。そういう法則の情報が欲しくなってきた段階である。ループの特徴自体はかなり掴めたからね。

 

「……最後までいなくていいの、少しだけ気楽で終わってよかった」

 

「辛かった?」

 

「……けっこう」

 

「そうか……」

 

かといって、辛くないように私が振る舞ったらそれはそれでまた真山くんの悩みを生むわけで。だからといって好き放題していいってわけじゃないからな。

 

「もう夏休みもおしまいか……」

 

そう言って私は天井を仰ぐ。真山くんにとってはまあ、良い夏休みになっただろう。私にとっても、昨日のあれで十分良い夏休みになった。そして、きっともっと良いものになる。

 

「でも予習はかなり進めたから、授業は楽だと思うよ」

 

「だといいけど」

 

「……和乃さんは頭いいんだから、大丈夫だよ」

 

「真山くんに言われたら、まあそうなんだろうな……」

 

そう言って、私はまだ採点していなかった問題に向き合って赤ボールペンを筆箱から取り出した。

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