今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第六幕間 三

私にとっては初めての、真山くんと行く水族館。

 

真山くんにとっては三回目の、私と行く水族館。

 

まあそういうわけで、どこか変な気分になるのだ。無理に気を使わせているって感じではないし、楽しいんだけれども、楽しいこと自体に変な違和感があるというか。

 

「……疲れてない?」

 

「ちょっと、足がね」

 

ええ、もちろんハイヒールなんて履いていませんとも。なにせ歩き回るのは私も真山くんも嫌いじゃないのだ。いや個人的には身長を高くして真山くんと同じぐらいの目線になりたいっていうのはわかるけど、それと引き換えに靴ずれと不安定さって考えると少し微妙なんだよね。

 

「なら、少し行った先に座るところがあるから」

 

「……ありがとう」

 

なんで知っているのか、どうしても気になってしまう。いや想像はつきますよ、何回も来ていれば慣れるでしょう。ええ。

 

嫌じゃないんです。丁寧に扱われているなってほどではないけど、ちゃんと真山くんが私のことを考えてくれているんだなってことは伝わってくるんです。

 

だからこそ、私の中には吐き出せない辛さみたいなものが溜まっていく。真山くんはいいよね、私にいつでも言いたいことを言えて。いやそうじゃないってわかってますから。ただの愚痴ですから。

 

「……ここ、前の和乃さんも気に入っていた場所で」

 

「……わかる」

 

真山くんの隣にいてすら、私の性格みたいなものは大きくは変わらないのだ。SNSの投稿のタイミングが少しずれるぐらいのことはあるかもしれないけれども、何か事件が起こったり起こらなかったりというほどの影響力はない。

 

数千匹の魚たちが、まるで一つの塊のように動いている。水越しの光が私たちをかすかに照らす。

 

こうやって落ち着いて見ると、なんだかんだで若い人たちは多い。そして少なくない割合がまあ、その、仲の良さそうなというかカップルというかそう言う関係だろうってことは察せられるわけで。

 

「……ちょっと質問」

 

「なんですか?」

 

「前の私たちって、これをデートだって認識していた?」

 

「たぶん。ちゃんと言っていたかは怪しいけど」

 

「恥ずかしがり屋だからね、私たちは」

 

似たものではあると思うのですよ。性格とか。そもそも夏休みの間に真面目に勉強するのは変人です。変人同士じゃなければ無理だよ、あんな青春の無駄使いは。

 

「……ごめん」

 

「謝らなくていいよ、のんびり進もう。どうせ時間はあるんだから」

 

ループがなくたって、私たちが成人するまでは二年あるのだ。そこからたぶん二人とも大学に行って、社会で働いて、そんなことをすれば自然と変わっていくはずだ。

 

関係が終わるかもしれないし、友人のままでいるかも知れない。もし運が良ければ、今日みたいなことができるような二人でいられるかもしれない。

 

「……ループ中はさ、いつもより焦っていた気がする」

 

「終わりが見えているから?」

 

「……そうなんだけど、その時の和乃さんといられる時間が限られるんだなって考えてしまって」

 

「……辛いね」

 

一呼吸だけ置いて、相手の意見を否定せず、ただ同意する。真山くんが話を聞いてほしいって状態だ。今は私が話すタイミングじゃない。

 

「和乃さんはさ、時々ループだからって自分のことを軽く考えがちに思えて」

 

「……そうかもね」

 

「でも、だからといって和乃さんの気分を無視したりとか、雑に接したりとか、そういうことをしたくはなくて……」

 

「うん」

 

「どうしたらいいと思う?」

 

「そうだね……」

 

私からは何度も答えを出しているはずなんだけれどもな。好きにしろ。別に殴られようが唇を奪われようがその先だろうが、まあ青少年が抱くような些細な欲求ぐらいならリスク低減策を取った上で受け入れるぐらいのことはしますよ。

 

そもそも、私がかつて想定していたタイムリープっていうのは脱出のために色々なものを犠牲にしなくちゃいけないようなやつだ。二つのうち一つしか選べないとか、正気と引き換えに大切なものを守るとか。

 

「和乃さん?」

 

「ああ、ちょっとだけ考えてて。難しいよね」

 

「……うん」

 

「小説とかだったら簡単なんだけど」

 

「……どういうこと?」

 

「ループっていうのは物語において、逃げられないものとずっと向き合い続けさせたり、あるいは正しい選択をするまで繰り返すってためにある」

 

作劇上の問題。チェーホフの銃に近いかな。意味もなくタイムリープやループを出すな。それ自体に意味を持たせろ。

 

「……実際は、そうじゃないけど」

 

「だよね。いつ始まるかも不安定で、別に何かをしたからって終わるわけでもない。最終周以外でやったことは真山くんの頭の中以外には残らない」

 

物語としてはかなり使いにくい能力だ。例えば好きなタイミングで起こせるなら、あるいは好きなタイミングに戻れるなら、色々なことができる。

 

でもそうじゃなければ、ただのボーイミーツガールの小道具ぐらいにしか使えない。まあだから私はそういう筋書きに沿って動いているんだけれどもね。

 

「でもさ、そう考える事はできない?」

 

「……自分は主人公って柄じゃないよ」

 

「いやそれはない」

 

普通に主人公としてはスペック高いし、なかなかいいキャラだと思うんだよな。私なんかよりかは適任だろう。

 

「……もし僕が主人公で、和乃さんが作者だったら、どういう物語になると思う?」

 

「私あんまり書かないからな……」

 

「……そっか」

 

「でもまあ、いっぱい悩むキャラクターにするかな」

 

「……わかった」

 

たぶん、こういう対応でいいのだろうな。答え合わせがいつ来るかがわからないけど、それがループ外であることを祈ろう。

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